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8章「道場での稽古と戦いの変化」
第78話「父のオフィス(司視点)」
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#第78話「父のオフィス(司視点)」
呼び出しは昼前だった。差出人は――父、御影 総一郎。財閥系企業の1つ、御影グループの総帥にして代表取締役社長だ。
(呼び出しとか珍しいな。もしかして先日の配信の件だろうか。ルナとのコラボを褒められるとか……か?)
重い木の扉をノックして入る。磨かれた床、分厚い硝子の向こうに都心の灰色。部屋の空気は、少し冷たかった。
入った途端、父の厳しい、責めるような言葉が響いた。
「司。――あの動画は何だ?」
「……はい。有名人のルナの同意を取り付け、コラボ配信を――」
「で、お前は“恥”を晒しただけか」
喉が詰まった。
「いえ、俺の実力はあんなものでは……たまたま、その――」
「たまたま? 一つ間違えば死ぬ世界で、言い訳に“たまたま”を使うやつから先に死ぬぞ」
「……すみません」
「それで、ルナは取り込めるのか。それならば大きな成果とも言えるが?」
「それは……難しいです。今回は一度限りのコラボで」
「なら全く意味がないな。他にコラボしたことによる成果は?問い合わせでもあったか?」
「多少は。スポンサー絡みや、講演や指導依頼の打診が――」
「その中にクランの得になる話はあるのか?」
「……具体的には、まだです。やはりルナがいないと意味がない話ばかりで」
「なら全く駄目だな。恥をさらしただけだ。このままでは、もういくらやっても無駄だ。クランは解散した方がいいんじゃないか?」
「えっ!それは待って欲しい。金も時間もかけて、やっと土台が……もう少し時間を」
「何を馬鹿なことを言っている!お前も今のままで駄目なのは分かっているだろう。時間があっても無理だ。今のお前たちクランはいびつだ。お前一人がレベル5、他はレベル3以下。それでどうやって前に進む? 無理だろう。それも全てリーダーのお前の自分勝手な行動の結果だ。恥を知れ!」
くそっ、いいように言われるが返す言葉が見つからない。父は机上のファイルを指先で弾いた。
「まず、今後の進め方についての報告書を書け。期限は三日。それから相談役を付ける。報告書を書くのは彼に相談して構わん。そして毎日、行動とその結果を逐一報告しろ。クランの予算は切るつもりだったがさすがにそれでは無理があるだろう。仕方がないから報告書を見て段階審査で出す。意味のないと思われることにはびた一文出さんから覚悟しろ」
「……なんでですか。それって俺を信用できないってことですか」
「当たり前だろう。結果も出さず、金を食いつぶすだけ。更には先も全く見えていない。それで何を信用しろと? このままではお前、そしてクランは変わる要素がない。本来ならばクラン解散だ。相談役を付けて様子を見る時間があるだけましだと思え」
総一郎は短く息を吐いた。
「――まあ、俺も甘やかし過ぎたと反省している。今後は多少は厳しくする。覚悟しろ」
「そして……他の兄弟を見ろ。立派とまでは言わんがお前より全然まともだ。会社にも貢献している。ごく潰しのお前とは全く違う。このままだと使えないお前は将来的には追い出されかねんぞ」
「それは……わかりました」
「もちろん、このまま改善が見られんようだったら、もしくは結果が出ないようだったらクラン解散もあり得るからな。覚悟しておけ」
「はい。何とか結果を出します……」
「話は以上だ」
退出のノブがやけに重い。廊下の白がにじんで見えた。
(報告書。相談役。毎日報告。――俺に対する首輪じゃないか)
胸の内側で、カチリと何かが軋む音がした。どうしてこうなったんだ。ふざけるな!
俺は頑張っているのに何故、認めてもらえない?そうだ、クランのメンバーが悪いんだ。あいつらは使えない奴ばかりでどうにもならん。
そして紗月も早くレベル4になれってんだ。そうすればまだ何とななるのに。みんなが俺の足を引っ張ってやがる。俺は優秀なのに周りが俺をうまく引き立てられないんだ。
そしてルナは何であんなに非協力的だったんだ?もしかして結城が裏でルナに指示でも出していたのか?そう考えると納得できる。俺の邪魔ばかりしやがって……。
でもそんなことを言っていても始まらない。まずは相談役に会うか。そいつを使って報告書を書かせて父さんに金を出してもらおう。それでとりあえずはうまくいくはずだ。まずは金と自由、そこからだな。まだ何とかなるはずだ。
***
――司から見ると父の冷たい仕打ち、そう見えたが父から見れば当然のことだった。司がリーダーのクランはやることなすことうまくいかない。メンバーの不満など軋みだけが広がっていた。現状のままでは崩壊する可能性すらあるという報告を受けていた。できればそれは避けたいとの親心でもあった。
ただしその親心を司は全く理解していない。ただ理不尽にも監視されるだけと感じていた。今後、相談役とうまく意思の疎通をして成長していけるのか?本人の自覚にかかっているのだが……。
呼び出しは昼前だった。差出人は――父、御影 総一郎。財閥系企業の1つ、御影グループの総帥にして代表取締役社長だ。
(呼び出しとか珍しいな。もしかして先日の配信の件だろうか。ルナとのコラボを褒められるとか……か?)
重い木の扉をノックして入る。磨かれた床、分厚い硝子の向こうに都心の灰色。部屋の空気は、少し冷たかった。
入った途端、父の厳しい、責めるような言葉が響いた。
「司。――あの動画は何だ?」
「……はい。有名人のルナの同意を取り付け、コラボ配信を――」
「で、お前は“恥”を晒しただけか」
喉が詰まった。
「いえ、俺の実力はあんなものでは……たまたま、その――」
「たまたま? 一つ間違えば死ぬ世界で、言い訳に“たまたま”を使うやつから先に死ぬぞ」
「……すみません」
「それで、ルナは取り込めるのか。それならば大きな成果とも言えるが?」
「それは……難しいです。今回は一度限りのコラボで」
「なら全く意味がないな。他にコラボしたことによる成果は?問い合わせでもあったか?」
「多少は。スポンサー絡みや、講演や指導依頼の打診が――」
「その中にクランの得になる話はあるのか?」
「……具体的には、まだです。やはりルナがいないと意味がない話ばかりで」
「なら全く駄目だな。恥をさらしただけだ。このままでは、もういくらやっても無駄だ。クランは解散した方がいいんじゃないか?」
「えっ!それは待って欲しい。金も時間もかけて、やっと土台が……もう少し時間を」
「何を馬鹿なことを言っている!お前も今のままで駄目なのは分かっているだろう。時間があっても無理だ。今のお前たちクランはいびつだ。お前一人がレベル5、他はレベル3以下。それでどうやって前に進む? 無理だろう。それも全てリーダーのお前の自分勝手な行動の結果だ。恥を知れ!」
くそっ、いいように言われるが返す言葉が見つからない。父は机上のファイルを指先で弾いた。
「まず、今後の進め方についての報告書を書け。期限は三日。それから相談役を付ける。報告書を書くのは彼に相談して構わん。そして毎日、行動とその結果を逐一報告しろ。クランの予算は切るつもりだったがさすがにそれでは無理があるだろう。仕方がないから報告書を見て段階審査で出す。意味のないと思われることにはびた一文出さんから覚悟しろ」
「……なんでですか。それって俺を信用できないってことですか」
「当たり前だろう。結果も出さず、金を食いつぶすだけ。更には先も全く見えていない。それで何を信用しろと? このままではお前、そしてクランは変わる要素がない。本来ならばクラン解散だ。相談役を付けて様子を見る時間があるだけましだと思え」
総一郎は短く息を吐いた。
「――まあ、俺も甘やかし過ぎたと反省している。今後は多少は厳しくする。覚悟しろ」
「そして……他の兄弟を見ろ。立派とまでは言わんがお前より全然まともだ。会社にも貢献している。ごく潰しのお前とは全く違う。このままだと使えないお前は将来的には追い出されかねんぞ」
「それは……わかりました」
「もちろん、このまま改善が見られんようだったら、もしくは結果が出ないようだったらクラン解散もあり得るからな。覚悟しておけ」
「はい。何とか結果を出します……」
「話は以上だ」
退出のノブがやけに重い。廊下の白がにじんで見えた。
(報告書。相談役。毎日報告。――俺に対する首輪じゃないか)
胸の内側で、カチリと何かが軋む音がした。どうしてこうなったんだ。ふざけるな!
俺は頑張っているのに何故、認めてもらえない?そうだ、クランのメンバーが悪いんだ。あいつらは使えない奴ばかりでどうにもならん。
そして紗月も早くレベル4になれってんだ。そうすればまだ何とななるのに。みんなが俺の足を引っ張ってやがる。俺は優秀なのに周りが俺をうまく引き立てられないんだ。
そしてルナは何であんなに非協力的だったんだ?もしかして結城が裏でルナに指示でも出していたのか?そう考えると納得できる。俺の邪魔ばかりしやがって……。
でもそんなことを言っていても始まらない。まずは相談役に会うか。そいつを使って報告書を書かせて父さんに金を出してもらおう。それでとりあえずはうまくいくはずだ。まずは金と自由、そこからだな。まだ何とかなるはずだ。
***
――司から見ると父の冷たい仕打ち、そう見えたが父から見れば当然のことだった。司がリーダーのクランはやることなすことうまくいかない。メンバーの不満など軋みだけが広がっていた。現状のままでは崩壊する可能性すらあるという報告を受けていた。できればそれは避けたいとの親心でもあった。
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