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12章「広がる世界と狭くなる世界」
第123話「チャンスとピンチ・その1(佐藤君視点)」
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#第123話「チャンスとピンチ・その1(佐藤君視点)」
僕がクラン『エクリプス』に入ったのは高三になってすぐだった。ハンター登録したらすぐにでもダンジョンに入ってモンスターを討伐することができる。そんな非現実的な世界にワクワクした。
放課後は休日にみんなで1階層へ潜った。怖いながらも初めての討伐に手が震えた。正直、一階層は死ぬほどではない、リスクは少ない――そう思えたからこそ、僕は続けてみようと思えたが2階層からは厳しく最悪死ぬ人も多くなるということで躊躇した。レベルが7とかに上がれば数億稼げる人もいるらしい、夢のある世界だがやはり自分には無理かなと感じていた。やっぱり選ばれた人の世界なんだ。
その後はちょっとした事件があった。それは高三の二学期に御影君(御影司)が転校してきてクランに加入したことだ。
あの御影グループの社長の息子。凄い人が転校してきたと噂はすぐ広がった。自分には関係ない世界の人と思っていたが彼は僕たちのクラン『エクリプス』に加入したのでびっくりした。僕から見れば雲の上の存在だ。
彼は明るく人がよくて人気者、そして企業系クランのことをいろいろと教えてくれた。更に彼は将来的にはクラン『エクリプス』を御影グループの企業系クランとして成長させていこうと熱弁してくれた。本当に凄いことだ。
「俺ならクランを成長させることができる。バックには御影グループ、そして会社には成長のノウハウもある。日本一のクランに成長させようぜ!」
「おおすげーや、さすが御影君だ。一生ついていくよ!」
誰ともなく賛同の声が上がっていた。彼は社長の息子だからそんな未来もあり得る。みんなが彼の熱に感化され熱狂した。その後は気付けば彼はリーダーに立候補し、僕たちはそれを当然のように受け入れていた。ハンターとして活躍して年収数億の夢のような生活、彼の話を聞いているとそれが現実になると思えたからだ。
前リーダーの結城君(レン)は、知識はあるけれどバイトなどが忙しく時間の都合でダンジョンに入れなかったからリーダーを降りるのは当然ともと言えた。皆が御影君のリーダー就任、すなわちリーダーの交代に反対しなかった。結城君も素直に降りてくれたから良かった。
更には結城君の彼女の紗月さんも御影君の彼女になったようだ。結城君には気の毒だけどこれは仕方がないだろう。僕から見ても御影君の方が魅力的だ。そして男と女の個人的な話でもありこれは僕らには関係のない話だしね。
やがて結城君はクランを離れた。彼にはかなりお世話になったのに誰も引き留めなかった。感謝さえも告げなかったと思う。それも仕方がない。
いや、そうではないだろう。さすがに僕を含めみんな冷たすぎる。今にして思えば、あの時の「仕方ない」は、僕の逃げにすぎなかった。御影君のご機嫌を少しでも取ろうとし結城君への接触は控えていたんだ。汚い人間だと言われても仕方がないかもしれない。
後から思えばこれが最初の失敗だったかもしれない。人間として許されない行為だったと今なら思う。
御影君はリーダーに就任後、「本気でのし上がりたい奴には金を出す。レベリングは任せろ」と言ってくれた。僕は素直にありがたかった。企業系クランへ繋がる道が現実になる。凄いことだ。
調べてみると現状ではハンターとして成功できるのはほぼ企業系クランのメンバーのみ。それ以外の草クランでは成功する確率はかなり少ない。その成功する道がすでに開けている。僕はなんてラッキーなんだ。御影君はまるで神の使いだ。
――そう信じて、卒業後も『エクリプス』に残り、御影グループの会社にも入れてもらった。様々な選択肢があり、クランから抜ける人もいたが僕は残る方を選んだ。その選択肢が当然だと思えたからだ。この手で億を稼げるかもしれない。こんなチャンスを逃す手はない。
あとは頑張るだけ。そう思っていた。ハンターとして無理だったら会社で働くこともできる。その選択を後悔することになるなんてその時は全く思っていなかった。
最初は良かったんだ。希望者はレベリングでレベル3に引き上げてもらった。僕もそのうちの1人だ。
でもそこからが大変だった。レベル3の適正階層とされる3階層は本当にきつい。
レベル3の人だけでやると少し間違えば死に至るのはやっているうちに分かった。更には全く儲からない。見返りはない、そしていつ死ぬかも分からない終わりのない修行をしているかのようだ。
もう少し2階層で地力を積むべきだと頭ではわかっている。でも、それではレベルは上がりそうもない。やはり3階層に足が向かう。
平日は仕事終わりにダンジョンに潜る。土日もほぼ全部使う。それでも進みは遅い。その中で何度も怖い思いをした。これでは駄目だ、今のやり方を大きく変えないと道はない。
いや道はあるんだ。それも明確な道が。
本来なら、リーダーが先頭に立って引き上げればいいんだ。けれど、御影君はダンジョンにほとんど来ない。
彼はレベル5だから3階層は余裕なはずだ。だから彼が率いて3階層で動くことはできるはず。そうすればみんなが比較的楽にレベル4に到達する。稼ぎも増えてやる気も出る、それで好循環になるのがみんな分かっていた。
御影君がいないところではそうやって話し合った。分かり合える仲間がまだいる。それで何とかそれで気力を振り絞って続けた。
でも肝心なリーダーの御影君だけは違った。彼はほとんどダンジョンに来ない。来たとしても「ちんたらすんな、もっと頑張れ!」と怒鳴るだけ。そしてさぼってすぐにいなくなる。
僕たちは仕事で頑張った後に疲れていても気力を絞ってダンジョンに入っているのに、彼は仕事もしていないのにダンジョンに入ってもすぐに出ていく。その不公平に誰もがいら立ちを隠せないようになっていった。僕もその1人だ。
「ふざけんな!」
「何様なんだ!」
御影君のいないところで悪口が増えていった。彼を叱りつけてでも動かしてやりたい。そう思うことはしばしばだった。
でもそんなことはできるはずもない。彼は社長の息子。一方で僕は平凡な平社員なんだ。
僕たちは彼の自分勝手な行動に絶望を感じていった。先が見えなくなってハンターを辞めることを選択肢に入れるようになった。みんなぎりぎりで我慢している。これまでの選択と行動を後悔するような気持ちさえも出てきた。
これで1人でも「もう辞める!」と言ったら一気に崩壊しそうだ。僕は何とか頑張り続けようと思うがそれでも1人だけではどうしようもない。みんなが辞めたら現状では僕も辞めざる得ないだろうな。
どうしたらいい?もう御影君は当てにしない方がいいのだろう。
今は道は見えないかもしれない。でも地道にやればなんとか切り開くことができるかもしれない。だから何とか食らい付こうと思って僕は頑張った。そういう人が1人でもいればギリギリ可能性はあるはずだ。僕がその1人になればいい。少しでも先頭に立とうと思って懸命に動いた。
でもそんなかろうじてふるう僕たちの気力さえも奪おうとするのが御影君だ。彼の身勝手な言動を見るたびに気力を奪われるのが分かった。
最初、僕には御影君が僕たちに可能性を与えてくれる神に見えた。でも今はまるで死神のようだ。
みんな不満はぎりぎりまで溜まっている。崩壊はすぐそこと思えた。社会人になって本格的に始動するようになって1年、早くもクランは大きなピンチを迎えていた。
でもそんな時に石動さんが現れたんだ。
僕がクラン『エクリプス』に入ったのは高三になってすぐだった。ハンター登録したらすぐにでもダンジョンに入ってモンスターを討伐することができる。そんな非現実的な世界にワクワクした。
放課後は休日にみんなで1階層へ潜った。怖いながらも初めての討伐に手が震えた。正直、一階層は死ぬほどではない、リスクは少ない――そう思えたからこそ、僕は続けてみようと思えたが2階層からは厳しく最悪死ぬ人も多くなるということで躊躇した。レベルが7とかに上がれば数億稼げる人もいるらしい、夢のある世界だがやはり自分には無理かなと感じていた。やっぱり選ばれた人の世界なんだ。
その後はちょっとした事件があった。それは高三の二学期に御影君(御影司)が転校してきてクランに加入したことだ。
あの御影グループの社長の息子。凄い人が転校してきたと噂はすぐ広がった。自分には関係ない世界の人と思っていたが彼は僕たちのクラン『エクリプス』に加入したのでびっくりした。僕から見れば雲の上の存在だ。
彼は明るく人がよくて人気者、そして企業系クランのことをいろいろと教えてくれた。更に彼は将来的にはクラン『エクリプス』を御影グループの企業系クランとして成長させていこうと熱弁してくれた。本当に凄いことだ。
「俺ならクランを成長させることができる。バックには御影グループ、そして会社には成長のノウハウもある。日本一のクランに成長させようぜ!」
「おおすげーや、さすが御影君だ。一生ついていくよ!」
誰ともなく賛同の声が上がっていた。彼は社長の息子だからそんな未来もあり得る。みんなが彼の熱に感化され熱狂した。その後は気付けば彼はリーダーに立候補し、僕たちはそれを当然のように受け入れていた。ハンターとして活躍して年収数億の夢のような生活、彼の話を聞いているとそれが現実になると思えたからだ。
前リーダーの結城君(レン)は、知識はあるけれどバイトなどが忙しく時間の都合でダンジョンに入れなかったからリーダーを降りるのは当然ともと言えた。皆が御影君のリーダー就任、すなわちリーダーの交代に反対しなかった。結城君も素直に降りてくれたから良かった。
更には結城君の彼女の紗月さんも御影君の彼女になったようだ。結城君には気の毒だけどこれは仕方がないだろう。僕から見ても御影君の方が魅力的だ。そして男と女の個人的な話でもありこれは僕らには関係のない話だしね。
やがて結城君はクランを離れた。彼にはかなりお世話になったのに誰も引き留めなかった。感謝さえも告げなかったと思う。それも仕方がない。
いや、そうではないだろう。さすがに僕を含めみんな冷たすぎる。今にして思えば、あの時の「仕方ない」は、僕の逃げにすぎなかった。御影君のご機嫌を少しでも取ろうとし結城君への接触は控えていたんだ。汚い人間だと言われても仕方がないかもしれない。
後から思えばこれが最初の失敗だったかもしれない。人間として許されない行為だったと今なら思う。
御影君はリーダーに就任後、「本気でのし上がりたい奴には金を出す。レベリングは任せろ」と言ってくれた。僕は素直にありがたかった。企業系クランへ繋がる道が現実になる。凄いことだ。
調べてみると現状ではハンターとして成功できるのはほぼ企業系クランのメンバーのみ。それ以外の草クランでは成功する確率はかなり少ない。その成功する道がすでに開けている。僕はなんてラッキーなんだ。御影君はまるで神の使いだ。
――そう信じて、卒業後も『エクリプス』に残り、御影グループの会社にも入れてもらった。様々な選択肢があり、クランから抜ける人もいたが僕は残る方を選んだ。その選択肢が当然だと思えたからだ。この手で億を稼げるかもしれない。こんなチャンスを逃す手はない。
あとは頑張るだけ。そう思っていた。ハンターとして無理だったら会社で働くこともできる。その選択を後悔することになるなんてその時は全く思っていなかった。
最初は良かったんだ。希望者はレベリングでレベル3に引き上げてもらった。僕もそのうちの1人だ。
でもそこからが大変だった。レベル3の適正階層とされる3階層は本当にきつい。
レベル3の人だけでやると少し間違えば死に至るのはやっているうちに分かった。更には全く儲からない。見返りはない、そしていつ死ぬかも分からない終わりのない修行をしているかのようだ。
もう少し2階層で地力を積むべきだと頭ではわかっている。でも、それではレベルは上がりそうもない。やはり3階層に足が向かう。
平日は仕事終わりにダンジョンに潜る。土日もほぼ全部使う。それでも進みは遅い。その中で何度も怖い思いをした。これでは駄目だ、今のやり方を大きく変えないと道はない。
いや道はあるんだ。それも明確な道が。
本来なら、リーダーが先頭に立って引き上げればいいんだ。けれど、御影君はダンジョンにほとんど来ない。
彼はレベル5だから3階層は余裕なはずだ。だから彼が率いて3階層で動くことはできるはず。そうすればみんなが比較的楽にレベル4に到達する。稼ぎも増えてやる気も出る、それで好循環になるのがみんな分かっていた。
御影君がいないところではそうやって話し合った。分かり合える仲間がまだいる。それで何とかそれで気力を振り絞って続けた。
でも肝心なリーダーの御影君だけは違った。彼はほとんどダンジョンに来ない。来たとしても「ちんたらすんな、もっと頑張れ!」と怒鳴るだけ。そしてさぼってすぐにいなくなる。
僕たちは仕事で頑張った後に疲れていても気力を絞ってダンジョンに入っているのに、彼は仕事もしていないのにダンジョンに入ってもすぐに出ていく。その不公平に誰もがいら立ちを隠せないようになっていった。僕もその1人だ。
「ふざけんな!」
「何様なんだ!」
御影君のいないところで悪口が増えていった。彼を叱りつけてでも動かしてやりたい。そう思うことはしばしばだった。
でもそんなことはできるはずもない。彼は社長の息子。一方で僕は平凡な平社員なんだ。
僕たちは彼の自分勝手な行動に絶望を感じていった。先が見えなくなってハンターを辞めることを選択肢に入れるようになった。みんなぎりぎりで我慢している。これまでの選択と行動を後悔するような気持ちさえも出てきた。
これで1人でも「もう辞める!」と言ったら一気に崩壊しそうだ。僕は何とか頑張り続けようと思うがそれでも1人だけではどうしようもない。みんなが辞めたら現状では僕も辞めざる得ないだろうな。
どうしたらいい?もう御影君は当てにしない方がいいのだろう。
今は道は見えないかもしれない。でも地道にやればなんとか切り開くことができるかもしれない。だから何とか食らい付こうと思って僕は頑張った。そういう人が1人でもいればギリギリ可能性はあるはずだ。僕がその1人になればいい。少しでも先頭に立とうと思って懸命に動いた。
でもそんなかろうじてふるう僕たちの気力さえも奪おうとするのが御影君だ。彼の身勝手な言動を見るたびに気力を奪われるのが分かった。
最初、僕には御影君が僕たちに可能性を与えてくれる神に見えた。でも今はまるで死神のようだ。
みんな不満はぎりぎりまで溜まっている。崩壊はすぐそこと思えた。社会人になって本格的に始動するようになって1年、早くもクランは大きなピンチを迎えていた。
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