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第二章
16話 ヅォルイからの来訪者
しおりを挟む拘束を全て外した頃にはイルエラも落ち着いた様子だった。
「色々聞きたいことは沢山あるが、最初に聞きたいことは3つだ。1つ、何故助けたのか。2つ、お前は誰だ。3つ、太陽を見た事があるのか」
「1つ、助けたいと思ったから。2つ、ヴァントリア。3つ、見たことがある」
素直に答えたが、その答えに対するイルエラの答えはこれである。
「助けたいから助けるなんて馬鹿か」「お前が何者か聞いているんだ名前じゃない」「どこで見たんだ、お前は地上に出た事があるのか、地上に行き来できる階級のものなのか」「さっきの綺麗だの宝石だの太陽だのとはなんなんだ」
「いやお前があんまりにも綺麗だからつい」
「はああ。どうして最後の質問にしか答えない……」
イルエラはうなだれてしまった。
「えっと、43層を脱獄して、44層でジノって言う子供を助けようとしたんだけど、その間に何故か45層に来てて。お前を見つけて、助けたいと思って助けて、現状だ。以上!」
「はあ……もういい。お前が莫迦だと言う事は分かった」
どうして解答したのに莫迦認定されたんだ、と考えていると、横抱きにされる。
何!?
ま、まさか床に投げつけて殺す気!?
シストの言う通り俺を食べるの!? レトルト生活だから栄養もないし美味しくもないよ!
「い、イルエラさん?」
恐る恐る見上げて、表情で尋ねると。当然だと言わんばかりにイルエラは告げた。
「ここから逃げるんだろう?」
何が起きたのか分からないくらい一瞬だった。
けたたましい破裂音が鼓膜を震わせ――――ガラガラと頭上から岩の破片が降り注ぐ。気付けば、天井が破壊され、大きな穴が空いていた。
真上に空いた穴から光が射す。
宙を舞う塵の様も美しかったが。何より目を奪われたのはイルエラの姿だった。
光を浴びて、イルエラの白い髪とツノがキラキラと輝く。
チラチラと周囲に光の粒を撒き散らすツノは、中に星が溜め込まれているかの様に見える。
暗闇では確認出来なかった小麦色の肌も、彼の美しい白い髪を映えさせていた。
「……綺麗だな」
「ああ、久しぶりの光だ」
その回答に呆れて、「いや……お前のことだよ」と言う。
花火を見て「綺麗だね」「そうね」「花火じゃなくて君が」って口説いてる感じになってないか。しかしイルエラは然程気にしていない様子だ。
と言うよりは。
「はあ…………莫迦め」
呆れて溜息を吐くことしか出来なかったらしい。
定番のセリフだとバレたか。本心だぞ。
ジノの様に勢いを付けて跳躍をせず、イルエラはシャボン玉の様にふわりと跳躍する。
彼の裸足が地面へぺたりと接触する。
44層の廊下に降り立った時、目の前には大勢の兵士、見廻り、助手達が立っていた。
恐らく自分を捜索していたのだろうが、破壊音を聞き付けて集まったのだ。
45層ヅォルイからの来訪者に、彼等は蜂の巣をつついた様に騒ぎ出した。
「捕らえろおおおおおッ」
ヴァントリアは捕らわれる運命か何かなのかな……
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