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第三章
24話 美しき踊り子
しおりを挟む「走った方がいいんじゃないか?」
イルエラとジノがのろのろと歩いているからそう言うと、俺達が走れば人目に付くだろうとイルエラに頭を小突かれてしまった。
「それに居場所は分かってるし、今の所は女の子の方は平気……と言うかむしろ——…………」
ジノが顔を曇らせる。
ハイブリッドの耳はいいから、声や足音で居場所も人数も把握出来るとゲームの設定に書いてあった。きっと彼らもそうなのだろう。五月蝿いから町は嫌いだと言う設定もあったな。
——路地裏へ続く角を曲がると、その顔を曇らせた理由が分かった。
「いやあああっ、助けて! 離して! この乱暴者! ケダモノぉ!」
泡を吹いて白目を向いている男の首を締め上げて、女の子がわんわん泣いている。
離すのは君では?
イルエラが地面に俺を下ろして、ポン、と彼女の肩を叩く。
「大丈夫か?」
イルエラをじっと見つめたまま、ポカンとする少女。首を締めていた腕が緩み、男が地面へ崩れ落ちる。
イルエラの手をぎゅっと両手で握って、うるうる瞳で上目遣いをする女の子。
「た、助けてくださってありがとうございます……!」
その時、ピンときて、顎に手を添えて呟く。
「新手の詐欺か?」
「——莫迦はこれだから困るよな。彼女、イルエラさんに助けられたと思って惚れたんだろ」
「いや自分で倒し——んぐむむ」
ジノに空気を読め、と睨み付けられ、手で口を塞がれてしまう。いや、ちょっと待って移動してない? そこ口じゃなくない? 首じゃない?
「私ではなくヴァントリアに礼を言ってくれ。あいつが来なければ私も来るつもりはなかった」
「そ、そうだったの? ありがとうヴァントリアさん」
彼女は振り返って、にこりと愛らしい笑みを浮かべてくる。
「え、あ、いや。君が倒し——んぐううえ」
今度は確実に首絞めてきた!
「じ、ジノさんッ? マジでぐるじ、あの、ジノさ——」
「何鼻の下伸ばしてんだよ、お前本当に女好きだなこのお腐れ漁色王子」
「伸ばしてない! 伸ばしてないって!」
確かに美人だ。
彼女を改めて見てみる。
白い肌に、金髪のエルフの美女。翠の瞳が美しい。衣装なんて裸に透けた布を巻いているだけでエロい。この衣装……踊り子か?
女の子に慣れてない前世の俺には目のやり場に困る。本来のヴァントリアなら見慣れてるだろうに。
「何があったんだ?」
心を落ち着かせようと彼女でなくてジノを見ながら質問する。何赤くなってんだ、とジノが憎々しげに睨んできたがスルーした。
「今夜祭りが開かれるじゃない? 舞台で踊らせて貰えるって言われて、42層にやって来たんだけど……。他の踊り子の子達とはぐれちゃって、困っていたらこの男に……」
彼女に伸された哀れな男に視線を向ける。
ジノも彼を見て彼女に安心させるように言った。
「42層は治安が悪いから。人攫いだったのかも。それか強姦魔」
逆に怖がらせてどうする。
「……怖かった!」
シクシクと泣き出す少女を見て、何か、見覚えがあるな、と思った。
この大袈裟な仕草は……
「お願い! 私を守って! お金は払うから!」
「え、ああ」
「ありがとうヴァントリアさん!」
「え、あ、うん」
近い。
顔を背けて離れると、ジノが人でも殺しそうな位の顰めっ面で、俺の前に突っ立って行く手を阻む。
「どうし——いでででで!?」
「デーレーデーレーしてんじゃねええええええええッ!!」
両頬を引き千切られそうな程ぎぎぎぃっと抓られて悲鳴をあげる。
イルエラに宥められ、ジノは落ち着いたようだ。
「あ、そうだ。君の名前は?」
「あ! ごめんなさい! 名乗ってなかったよね、私はヒュウヲウン。ヒュウヲウン・ニロン! よろしくね!」
ヒュ、ヒュウヲウンって。
————ウォルズの傍にいるヒロインの女の子!
だから可愛いしスタイルいいし……。確かに声もそっくりだ。
今更だけどWoRLD oF SHiSUToは声優も豪華だったし、ビジュアルも美麗だったからな。女の子はめちゃくちゃ可愛いし男のキャラは女性向けだけあってイケメンが多いし。
こんな完璧美少女エルフちゃんに会えるだなんて素晴らしい世界だな。
……ただ、問題が1つ起きている。
強姦魔である大男を倒しヒュウヲウンを助けに行き、大男を瀕死にした彼女に誤解され恋をされる展開になる相手は……主人公ウォルズである。
……まさかこの流れは、ヒュウヲウンはジノの言う通りイルエラに恋をしていてもおかしくはない。と言うより。
「と、とても逞しいですね!」
「あ、ああ」
頰を染めてモジモジする様は正に恋する乙女である。
イルエラはイルエラで女の子相手にどう接して良いか分からない様子で戸惑っている。新鮮で可愛らしいなぁ。
じゃなくて。
ウォルズの株をまた奪ってしまった訳だ……。これからのことに何か影響があったらどうしよう。今の展開的にはゲームの物語通りに進んでいない。全く進んでいない。もしかしたらヴァントリアで色々し過ぎたのかもしれない。
ま、まさか、ウォルズが現れないのは俺のせい……?
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