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第五章 前編
64話 このツンデレさんめ
しおりを挟む何で、博士と話していて気づけなかったんだろう。確かに彼は、どこか悪者と言う感じがしなかった。
それは自分が見廻りの格好をしていたからだとばかり思っていたが、イルエラやジノ、俺の為に薬を渡してくれた。
あの人は良い人だってどこかで思ってたけど。イルエラやジノを——その他の人だって——彼らを実験体にしてきたことが許せなかった。
だからあのまま彼から逃げる選択をした。
もし、この事実を知っていたなら、無理矢理にでもあの人を一緒にエレベーターに乗せたのに。例えイルエラやジノが反対しようと。
「俺も博士を助けたい。イルエラに協力するよ」
「お前に何ができるんだよ」
「うぐっ」
ジノの鋭い一言がグサリと胸を貫く。
「万がそう決めたなら俺も助けに行くよ」
「俺が決めてなくても行ったくせに」
「え?」
「はる……ウォルズはそう言う奴だし」
俺の中の晴兄像がバレるのが恥ずかしくなって言葉を濁すと、ウォルズの顔があからさまに真っ赤に染まった。顔に両手を持ってきて隠そうとする。
……し、新鮮な反応。
「……かわ、かわいい。ウォルヴァンキタ……♡ もうデキてるでしょ。ヴァントリアウォルズ大好き過ぎるでしょ……っ。可愛い……」
ガチで萌えるのやめてくれません? 小声で言っても聞こえてるんで。
「ぼ、僕は反対だからなッ! あ、あんな奴、あんな奴絶対に許せねえッ!! 例え洗脳でもあいつが僕にしてきたことを許せなんて——……っ」
ジノはハッとして此方に視線を向ける。バチリと視線が交わってジノの顔からサッと血の気が引くのが見えた。
「…………とにかく、僕は、あいつだけは、許せねえ」
「ふぅん。じゃあヴァントリアのことも許せないんだ?」
「なっ……」
ウォルズの一言に、ジノの額から滝の様な汗が吹き出す。
「ち、違——僕は、」
「当たり前だろ。今俺は許して貰おうと償ってる最中なんだから」
「ならどうして博士には償いのチャンスを与えないのかな」
ウォルズ……?
ジ、ジノさんのお顔がとんでもないことになってるんですけど。
「——お前には関係ねえだろっ! それにヴァントリアとだって関係ねえ、ヴァンは、僕に謝ってくれたし、何より、助けてくれた。僕は此奴にドン底まで突き落とされた。でも、此奴に救われたことだって事実だ。だから、信じてみようと思っただけで……」
ジノの言葉を聞いて、ハッとする。そうか、ジノは知らないんだ。
「ジノ、博士は薬をくれたんだ!」
「は?」
「お前を助けに行った時、呪いを抑える薬を3人分託してくれた。お前が今ここにいるのは、勿論イルエラと俺が助けたいって思ったからかもしれないけど、それは博士があってのことなんだ。博士がお前の居場所も教えてくれた。博士もお前を助けたいって思ったんだ、救ってくれたんだ。」
「な、何を言って……」
「……頼む」
ジノの震えている拳に両手を重ねるとビクリとジノの肩が跳ね上がった。
「博士を助けたいんだ。俺と一緒に来てくれ」
ジノの瞳を見つめながら言うと、彼は顔を真っ赤にして戸惑った。
「ち、近い! 離れろ!」
ベチンと手を弾かれてしまった。イルエラとウォルズの溜息が聞こえて不思議に思って振り返る。
「うわーでたよモノホンの天然タラシ。可愛いヴァントリアが愛されるのは嬉しいけど母親みたいに複雑な気分」
「ん? 天然カラシ?」
「ああっ、分かってない万かわいい!」
「はあ……莫迦め」
何でイルエラは呆れるみたいに頭を抱えるんだ。いや呆れてるんだろうけど。
俺何か変なことしたかなぁ……?
「……分かった」
「え?」
「博士を助けてやってもいい」
「ジノっ! ありが——」
「——お前と博士両方ぶん殴る」
「……とう、ございます。」
ジノは素直じゃないんだよな……うん。
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