転生したら嫌われ者No.01のザコキャラだった 〜引き篭もりニートは落ちぶれ王族に転生しました〜

隍沸喰(隍沸かゆ)

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第五章 前編

63話 大切だと思える相手



 ルーハンの城にいたと言うことは、今までいたのは第25層ゴードン。

 ウォルズ達が使ったというこのエレベーターの行き先は42層ジェイジィジェルィだ。他の層に逃げるには他のエレベーターを使うしかない。何より町に逃げれば人混みに隠れることが出来るだろう。

「そう言えば、ヒオゥネの言っていたことが気になるな……」
「ヒオヴァン——ッ!?」
「はあっ——ッ!?」

 今まで真剣な顔で何やら考え込んでいたウォルズが反応して、肩をガッと掴んでエレベーター内で暴れ始める。

 ぐらぐらと揺すられて「会ったの!? 会ったの!? どうして呼んでくれなかったの! 何があったのか詳しく!」と鼻息ふんふん顔を近づけてくる。

「詳しくって言われても……つぅか、お前本命はウォルヴァンだったんじゃ……」
「あああっ、嫉妬するヴァントリア可愛い!」

 いや戸惑いだよ。

 どうやら少しは落ち着いたらしく、頬を赤く染めながら遠い目をして話し始める。

「ヒオヴァン様はですね、ストーリーで公式と認められている素晴らしいカップリングでして……」
「え? 公式で?」
「まあシストの初恋もヴァントリアだって公式様が認めてるから!」
「はあッ!?」
「まあ妄想も多少は含まれてるけど。」

 だろうな。

 それにしても……俺がプレイしていた時にはシストとヴァントリアの幼少期なんてストーリーで詳しくは流れなかったが、もしかして。

「それってA and Zの話?」

 ちょっとワクワクしながら聞いてみると。

「そう! A and Zのストーリーでシストが幼いヴァントリアにキスしてるアングルが出まして。いや、あれは何度繰り返し再生してもキスしてましたわ。うんうん。後は女性と関係を持ってるヴァントリアを見て顔を曇らせるシーンがあったり。王族の権利を剥奪したのはヴァントリアの女性を好き放題する様に耐えかねたからじゃないか、とかシルワールを殺害したのはヴァントリアと関係を持ったからじゃないかとか、ヤンデレ説が騒がれたんだよ!」

 ジノとイルエラは一体何の話だろうとぽけ、と、しているから大丈夫だとは思うが。

 腐向けのことになると言語が怪しくなるこいつが、ストーリーを説明する時は割と理解できる話になってしまっている。

 ——本当に聞かれても大丈夫か?

「A and Zからはウォルズじゃない新しい主人公で、口が悪い短気な男性! 正義感は強く、女性に対しては紳士! ヴァントリアは彼の妹を強姦して拷問、その後死亡させちゃうんだけど。」


 ————え。


 ……あ、ああ、またやったのか俺。何も、覚えてないや……。


 思い出せないくらい……沢山の人を、俺は。

 ——ガッと肩を掴まれて、再びゆらゆら揺すられる。落ち着いた声音のくせに顔はやばい。

「その時にちょうどヒオゥネがヴァントリアの側近として傍にいて、僕の相手もしてくださいってヴァントリアにキスをするんだよ! 其の儘ヴァントリアを襲おうとするんだけど、此れには驚いてヴァントリアもヒオゥネを殴って、兵士に捉えさせて側近からクビにしたんだよね、勿体ない」

 勿体ないって……。

 それにしてもヒオゥネが俺にキスなんか……変な感じ。いや、そもそもそんなことあったっけ。

「ああ、忘れられないなぁあの問題シーン。女の子とキスしようとするヴァントリアを無理矢理自分の方に向かせて唇を奪って。抵抗しようとするヴァントリアを押し倒して、むちゅむちゅする映像を何度もリピートしたなぁ」

 ウォルズの言葉に、思わず言われるままの映像を脳内で再生してみたが、余りの恥ずかしさに頭がパンクしそうになった。

 自分がそんなことされてる姿を想像するとかもうやめよう。

 それにしてもやはりそんなことは経験していない気がする。まだ起きてないのかもな。

 当時はかなり騒がれ、何でヴァントリアなんかと! と言う声が大きかったと言う。しかし、その映像をみてみたいと言う好奇心か、その問題が発覚してからも鬼のように売れていたと言う。

 まあ人気だったもんなぁ。店舗でも売り切れ、通販でも売り切れ、関連の本類すら売り切れると言う凄まじい人気っぷりだった。

 その上俺はネタバレ見たくないがためにネットやSNSはほぼ開いていなかったし。

 ウォルズが言うにはA and Zでは公式が病気と言われた位おおっぴらにしたストーリーだったらしい。

 ヒオゥネの件ももちろんだが、シストやウォルズに奪い合われるその姿はまさにヴァントリア受けの為の物語で。と意気揚々と話している彼に、ふと、ある疑問がわく。

「……お前、裏で工作してたんじゃ」
「流石に俺でもそれは出来ないよ……」

 まあ制作会社の会長のご子息ってだけじゃ……本当か? やりそうだぞ。晴兄なら人望もあるだろうし、頭も良かったみたいだし、もしかして。

 俺の怪訝な視線を感じてか、心外だと言わんばかりにムッとされる。

「公式様が言ってたんだよ。一作品目はヴァントリアは嫌われ者だけど、二作品目はヴァントリアが好かれる為の物語だって。だって主人公と行動するのはヒロインのヴァントリアだもん」
「ヒロインッ!?」
「ごめん。それは妄想だった」

 もはやお前の言葉は信じられん。

「ヒオゥネと言えば……博士の話知ってた?」
「ああ、ヒオゥネが一番弟子の姿で博士を操ってた話?」
「姿……?」

 ああ、そうか。そう言えばヒオゥネって博士の傍ではラルフ・レーラインと名乗ってたんだっけ。あれ、でも確かゲームのストーリーでラルフ・レーラインってキャラが他にいたような……。

「そう言えば、この段階だと博士って今でも実験されてる最中なのか。ヴァントリアのことばっかり考えてて忘れてた……」

 それでも勇者か。

 俺達の話について行けなくなっていた様子の、ウトウトしていた二人が、その話題になってから反応する。

 イルエラが傍までやってきて、目線を同じにしてじっと真剣な眼差しで見つめられた。

「ヴァン、頼みがある」
「どうしたんだイルエラ。かしこまって」
「博士を助けたい」

 その言葉にジノが反応する。

「——彼奴の話が本当か分からないじゃないですかッ……!」

 珍しくイルエラに食って掛かり、ウォルズは、ジノイルかぁ……、と悩んでいるが——いい加減にしなさい——イルエラも引こうとしない。

「私は奴に裏切られたと思ってきた、だがそれがもし、洗脳によって行われていたのだとしたら、私は彼を助けたい。」

 イルエラらしい答えだ。

 イルエラは博士の実験体だった頃、彼を父親のように慕っていた。博士に裏切られてから彼は博士への憎悪だけは人一倍強いと言う設定だ。

 ストーリーでも彼が姿を現わすだけで瞳の力を使ったり、暴走したり。そしてそれを倒さなきゃならない羽目になるプレイヤー。

 ハイブリッドの前に博士が出る度に嫌な予感が的中するんだ。ああ、毎度毎度敵キャラを暴走させるわ、キャラを口説くわ、問題児だったなぁ博士。

 それに、ヒオゥネが言うには、博士もイルエラや他の実験体達を我が子のように可愛がっていたらしい。

 しかしヒオゥネに洗脳され、操り人形にされ、更に彼はヒオゥネの実験体であると言う。

 もしこれが本当なら、イルエラがずっと恨んできた相手は無実で、助けなきゃならない存在なんじゃないかと、思ったんだろう。いや、現にそう答えを出している。

「私は昔の奴が本当の姿だと信じたい」

 イルエラはまだ、博士のことが好きなんだ。博士を今でも好きだからこそ、裏切られたと思った時、憎んでしまうくらい大切な存在だったんだ。


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