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第五章 前編
70話 呪いのフロア
目星をつけた別のエレベーターは42層の森の奥にひっそりと存在しているエレベーターと繋がっている。つまり、このエレベーターの行き先は42層、43層、44層である。
42層の魔獣の森に存在するエレベーターだ。
ルーハンの城の森にもエレベーターがあるように、森のある各階層には大半エレベーターが潜んでいる。
42層なら先刻も言った通り、魔獣の森にある。
見た目は大木だが木の根の隙間に入り口があり、隠し通路みたいに、獣や兵士から追われている時使用出来た。
ただ王族の証を持っていないと使用出来ない点は一緒で、回収された時の魔獣狩りは苦労した。
お金稼ぎには魔獣狩りが一番だが、序盤だと報酬の価値が低い。貰えるお金は少ないし、魔獣の素材を売るにも所謂ザコキャラだから安い。中盤辺りならまだほんの少し価値が上がるが、終盤に入った辺りの魔獣でないとお金は溜まらないだろう。
しかしそうなると魔獣が大量に出現するし、レベルは高いしでポーションを使う暇もなく、死にかけることが多い。だから大木の付近のエリアを選び、死にかけたら一旦エレベーターに避難してポーションを使って回復して。もう一度森に戻り、戦闘を再開する。
それを幾度となく繰り返して討伐数を達成することが金稼ぎの基本だった。
故に自分達はどこにその入り口があるのか熟知しているのだ。
止まっている白い鳥が鳴いてる真下。もちろん奴は近付くと飛んで逃げてしまう。最初は探すのに苦労したが、もう木の根の重なり方で鳥さえ見ずとも分かるだろう。
——これが43層では壁の隙間だ。
こちらは似たような場所が多く、迷いがちだが、熟知している俺達に取っては簡単だった。
牢屋と牢屋の壁の隙間に人一人分通れるくらいの空洞がある。そこから落ちると45層へ真っ逆さまに落ちて、バッドエンドを迎える。
ただ、エレベーターへと繋がるその一つだけは、ウォルズの思考で『奥に繋がっている。壁を使えば行けるかもしれない』とルートが確約される。
ウォルズの身体能力を持ってすれば、壁を蹴って移動して崩れかけの床へ降り立つことが出来る。そうやって道無き道を進まされたことがよくあったな。
着くと、エレベーターへ行ける隙間をウォルズとともにすぐに発見する。
「本当にこんなところにあるのか?」
「……凄いな。お前達は」
ジノもイルエラもこんなところにあったんだと驚く。
ウォルズがぴょんぴょん壁を蹴って向こう側に着いて、おいでおいでと手を招いている。
よくよく考えたら……ジノとイルエラならいけるだろうが。
ザコキャラのヴァントリアに行ける筈ないじゃないか……。
ど、どうしたら……。チャレンジして見てもいいが。
失敗して45層に落ちてバッドエンドを迎えてもコンテニューは出来ない……。
「……腕」
「え?」
ジノがあらぬ方向を向きながら言った。
「かせよ」
え、俺にお前を担いで飛べと? 無理無理無理無理無理。
「ごめん俺じゃお前を持ち上げることも出来ない」
真剣に答えたのに、阿呆か! と怒鳴られてしまった。
「いや、お前が莫迦なのは承知だけど、まさか莫迦な上に阿呆だとは。……もはや成す術がねえな」
莫迦な上に阿呆とまで認定されてしまったみたいだ。真剣に答えたのに。
「……ハァ、僕が引っ張ってやるって言ってんだよ」
手を差し出されて、ポカンとする。
そう言えば、博士から逃れる時も俺の腕を引っ張って高い跳躍を見せてくれたんだっけ。
「……ありがとう。ジノ」
そんなに時が経ってないのに、何だか懐かしいな。
ジノに腕を引かれ、——と言うかぶん投げられて、向こう側の床へずっこけ。
それから少し歩いて、ようやくエレベーターの入り口まで辿り着くことができた。
俺一人じゃこのエレベーター使えないって覚えとこ……。
——エレベーターを使用する時、ウォルズの様子を観察していると、彼は手首をエレベーターの窪みに近付けた。
白い光が走り、エレベーターの扉が開く。
ウォルズの手首にあったのは、王族の証であるブレスレットだった。
どっかで見たことがあるが……誰のものか分からん。
ウォルズがゲームの序盤に使用していた父の王族の証とはずいぶん形が違う。元はチェーンが主の筈だが、今ウォルズが付けているのはどう見てもバングルだ。
44層に降りてみると、扉が開いた途端、エレベーター内に黒い霧が潜り込む。ウォルズから貰った靴の石の周辺の呪いは吸い込まれているようだ。ただこの量は吸収しきれないらしい。
44層は呪いが蔓延していた——しまった、そうだ。俺とイルエラで45層の呪いの蓋を開けてしまっていたんだった……!
「一体何が起きてるんだ……」
ウォルズが呟いて、俺とジノやイルエラは知っていたことだが彼が知らなかったことを今更ながら思い出す。
「ご、ごめん……。俺とイルエラが脱出する時に45層の天井を壊したんだ。それで45層の呪いが溢れ出して……」
「そうだ……よく考えたら。ジノもイルエラもヴァントリアも……皆囚人じゃないか。俺と会う前に起きたイベントあらいざらい話して欲しい……」
「また今度な」
「でも一体どうやったらこんなことになる訳。何で壁壊しちゃったのイルエラ。ヴァントリアの力があれば壁なんて……いやあんまり使って欲しくないからいいのか」
「ん? 何の話だ?」
それにしても……確かイルエラが壊した所以外にも、床が脆くなり、殆ど床抜け状態だったからな。ここまで呪いが溢れていてもおかしくはないけど。
エレベーターを降りることもままならず、イルエラとジノは膝をつく。ウォルズは立っているが苦しそうだ。ゲームなら体力ゲージが少しずつ減っていっている最中だろう。
「皆大丈夫か? 43層へ戻ろうか?」
「大規模な研究室はこの層しかない。ヒオゥネが実験をしていると言うなら、彼はこの呪いを注ぎ込むことに特化した層を大層気に入っている筈だ。」
とウォルズが言うので、少し考えてみる。
「なら俺一人で……」
「————だめだッ……! ヒオゥネは万を狙ってるんだ。ホイホイ現れたら実験してくださいって言ってるみたいなもんじゃないか!」
珍しく声を荒げるウォルズの気迫に思わず怯む。しかし皆の苦痛に歪んだ表情を見てこの儘44層に居続けるのは耐えられない。
「……この層は危険だ。皆で行動しよう」
ウォルズが壁を使って立ち上がろうとした時、そうだ、と思い付いてエレベーターを飛び出した。
「ちょっと待っててくれっ」
「万ダメだ……!」
「大丈夫、なんかよくわかんないけど呪いは効かない!」
「そうじゃない一人じゃ危険だ!」
廊下を走っている頃、エレベーターの中でイルエラが言った。
「大丈夫だろう。同胞の気配はしない。兵士もいないだろう。例え薬があったとしても人の生活出来る場所ではないからな。」
それに納得出来ていない顔をするウォルズに、イルエラに便乗してジノが言った。
「あれで動揺してたら一緒に暮らしていけないよ。あいつはウサギみたいにすぐ飛び出していくんだ」
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