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第伍章
85話 記憶の迷宮
しおりを挟む意識がゆっくりと戻り、周囲を見渡す。デジャヴだ。前世の記憶を思い出した時もこんな感覚があった。
——……ここは、どこだ?
壁と床の白さだけは相変わらず変わらない。
……ワープでもしたのだろうか。
44層で博士に追い詰められた時も、いつの間にか45層へ移動していたし。あり得る。
ボヤっとした空間を裸足で歩く。そうして漸く気が付いた。自分は真っ裸だ。不思議と寒さも羞恥も感じない。
何も考えずに進んでいたが、なんだかどんどん迷い込んでいっている気がする。無意識下で出口らしきものを探していたが、見つかる気配はないし。ゲームの世界の筈だから、各層の特徴さえ発見できれば、どこの層にいるか分かるんだけど。白い壁と床があるだけで特徴なんてこれっぽっちもない。
……ここはA and Zで新しく出たステージの一種か何かなんだろうか。
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44層を歩いていたら、地面を震わせるような大きな音がして、ジノと二人でその場所へ急行した。人智を超えた巨大な気配を感じる。
これ程の気配は感じたことがなかった、急に現れた気配の出所はどこだ。今まで一体どこにいたんだ。
まるで45層の呪いのようだな……そうか、45層の呪いと気配が同化していたから気付けなかったのだ。
前を走っていたジノが急に立ち止まる。
「どうした?」
たずねても返事はない。
彼の視線の先を覗き込むと、そこは44層の実験場だった。
——私はここでジノと出会った。ヴァントリアと共にジノを助けたのだ。
「…………あれは、なんだ」
知らず知らずの内にジノへ問い掛けていた。我々の記憶に印象的に残る眼前の実験場に、見たこともない程巨大な魔獣がいたのだ。
見た目から魔獣と呼んでもいいのか分からないが、それしか呼称が思い付かない。いや、ある。
化け物と呼べば、しっくりとくる。
「ヴァン!」
隣から上がった声に筋肉が反応を示す。強張った全身の筋肉に、自分が緊張していると理解した。ジノの視線を追えば、今にも化け物に取り込まれそうになっているヴァントリアがいた。
まるで肋骨のような白い触手がヴァントリアを捕らえるように中へ中へ連れて行こうとする。
「待て——そいつだけは、」
瞳を瞑りぐったりと動かないヴァントリアを見て、空気が重くなるのを感じる。身体から力が抜けていく、焦燥感に襲われた。足が動かない。走っているつもりなのに、自分の景色は動いていない。
無意識に伸ばされた自分の手が、ヴァントリアの姿を隠した。その手を咄嗟に退ければ、ヴァントリアの姿はもう見えなくなっていた。
視界の端にジノが映る。触手に突っ込んでいき、薙ぎ倒される。吹っ飛んできたジノを受け止めて、ハッとした。すぐにジノが掴みかかってくる。
「イルエラさん! しっかりしてください!」
「すまない、私も手伝う」
——情けない。ヴァントリアが目の前で奪われたと言うのに、何もできずに傍観しているだけだったなど。
守り抜いて、幸せになって貰うと決めたのに。
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迷宮を当てもなく歩いていると、突然、黒い影が目の前の廊下を通り過ぎた。
——なんだ?
追い掛けると、幼い子供であることがわかる。あの瞳の色……もしかして。
「博士?」
呼び掛けると相手が振り返る。まさか振り返るとは思っていなかったからびっくりしていると、子供が訝しげな顔をして言った。
「……見ない顔ですね。ここに何かようですか」
子供だと言うのに大人びた雰囲気だ。少し緊張する。
「あ、えっと。ある人を探していて、それが君に似ていたから……ごめんね」
「……つまり、侵入者ですか?」
「うええッ!? え、いや、俺は、その、ええっと」
「……にしては仕草が……。ぁ——……大変失礼いたしました。貴方は父上のお客人ですね。私はテイガイア・ゾブド。父上の息子です」
「あ、ああ。ええああ、うえ」
ややややや、やっぱり博士!? いや、もしかしたら博士の歳の離れた兄弟かもとか考えなかった訳じゃない。だからこそ自ら博士だと明かされるとなんか、変な感じ。
——この空間に違和感は感じていたが、もしかしてここは過去の時代なんだろうか?
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