転生したら嫌われ者No.01のザコキャラだった 〜引き篭もりニートは落ちぶれ王族に転生しました〜

隍沸喰(隍沸かゆ)

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第伍章

86話 中庭の子供



 ボンヤリとした世界をもう一度見渡してから、漸く気が付く。

 一体全体どこだったのか、迷宮入りしていた白い廊下は、ぐにゃりと粘土のように曲がり、見事な庭園へと型どりはじめる。博士に話しかけてしまったからだろうか。

 魔獣に取り込まれてここに来たなら、魔獣の正体はやはり博士だったのだろう。もしかして、時代に飛んだのではなくて、彼の記憶の世界?

「失礼ですが、貴方様のお名前は……」

 眉を寄せて見上げられる。子供らしさが見えた気がして少し安心した。

 ……どうしよう、博士は幼少期に俺と会ったことになってしまうんじゃ。
 名前を言わなければいいかな。小さい頃だ、大人になれば俺の顔も忘れるだろうし。

「……えっと、名前は言えないんだ。付けてくれない?」
「付けるのですか? 私が?」
「うん。付けてくれたら嬉しいな」

 少年は俯いて少し考えてから顔を上げる。

「バン」
「えっ」
「バンはいかがでしょうか」

 まっすぐな瞳と目が合って逸らせない。

「り、理由聞いてもいいかな?」

 見れば見るほど美しい少年が、気まずそうに視線を逸らす。やがて静かに呟いた。

「……さっきまで、銃の実験を見ていたもので。音がまだ耳に残っておりまして」
「その音が、バンって聞こえたからってこと?」

 な、なんだ、正体バレてるのかと思ったじゃないか。

「それと、貴方はなぜかバンって感じがしたので」
「そ、そっか……」

 ここが博士の記憶なら、俺がヴァンと名乗ったから、似たような響きだと直感的に感じたのかもしれない。

「バン様は父上に会わなくて良いのですか。呼んで来ましょうか」
「バンでいいよ。俺は……早く来過ぎてしまったみたいだ。約束の時間まで一緒にいてもいい?」
「では私のこともテイガイアとお呼びください。……何時に会うと約束していたのですか?」
「えっ、あ、んーと、夜。」
「…………随分と大雑把ですね。父上は時間はきっちりと決める筈なのですが」
「お、俺が困るんだ。決められた時間に来れるような人間じゃないからさ、はははは。そ、それを考慮してくれたんだと思う。ただ今回は早めに用事が片付いてしまって」

 適当な嘘だけれど、大丈夫だろう。相手はしっかりしているが、子供だし。

「なるほど。しかし未だ明け方ですが。早過ぎでは?」

 う。

 ボンヤリしているから夕焼けかと思っていたが朝焼けだったのか。

「ある屋敷に用があって、帰りに寄ったんだ。君の父上はお忙しい方だから、予定は変更できない。約束の時間に話をするともう一度決めて、時間潰しに探検して良いと言われたものだから……探検していたんだけど」

 父上の話なんか出しちゃったけど、人物像は全く分からない。ただ時間を決めていると言うことは、忙しいんだろうと推測したんだが。

 恐る恐る子供の顔色を除けば、子供は納得したように頷いた。分からないことは追求しないと気が済まない質なんだろうなぁ。

「それでは私がご案内します。迷いますので」
「う、うん」

 まさか迷宮だと思っていた廊下は、博士の屋敷の内だったなんてことはないよな。

 そしたら俺が阿保過ぎて恥ずかしい。

「せっかくですから中庭をご案内しましょう」
「う、うん」

 手を引かれ、真っ白な草木の生い茂る中庭を歩いた。手入れがされていない、ジャングルみたいだ。

「こちらにお気に入りの場所があるんです」
「教えてくれるのか?」

 可愛いなぁ。子供って。

 俺も引きこもってないで近所の子供達と遊べば良かった。

 …………いや、引きこもりニートが子供達と遊んでたら危ないな。よく考えたら母親達の天敵になりかねないじゃないか、良かった奇行に走らなくて。

「ここです」

 安堵していたら、子供が立ち止まって振り返る。綺麗な瞳に釘付けになっていたら、首を傾げられる。ん。可愛い。

「うわぁ、凄いな」

 中央に大きな池があり、水面に庭が映り込んでいて正に絶景だった。ただ、この水面に色があったならもっと綺麗だろうなと考える。

「どうぞ。お座りになってください」

 ベンチの前でそう言うから座ったが、博士自身は座ろうとしない。

「座らないのか?」
「……座っても?」
「う、うん。いいよ」

 このかしこまった感じ苦手だなぁ。

「ねえ、敬語……その、使うのやめてもいいよ?」
「はい?」
「その、俺は君より……偉いかもしれないけど。敬語は使わないで欲しいな……なんて」

 子供らしくして欲しい、なんて頼んでも分からないんだろうな。

「……あまり、使ったことがないので分からないのですが」
「ご、ごめん。そうだよな。急に言われても困るよな。無理にとは言わないよ」

 戸惑った表情を浮かべられて焦ってしまった。誤魔化そうとよしよしと頭を撫でれば、ぽかんと口を開いて唖然とされる。

 頭触るのタブーなんてことないよな?

 そろ、と何もなかったかのように手を退けて庭へ目を向ける。

「なんか生き物いたりする?」
「いますよ。シイバレルとかレイシュとかタイジューンも居ます」
「ほへー。分からん」
「え」
「え?」

 またもやぽかんとされて、混乱する。非常識なことでも言ってしまっているんだろうか。仕方ないだろうヴァントリアが相手をしていたのは奴隷や娼婦なんだぞ。貴族となんか、ほとんど会わなかったんだから。格式高いお家柄の方々の話なんか分かんないよ。

「いえ、池で飼う生き物として有名だったので、ご存知でないとは考えられず……あ、いえ、失礼いたしました」

 う、か、硬い。堅苦しい。あのもさもさした博士とは到底思えない……。何より可愛いし。

「うーん、どうにか柔らかくならないかな~」

 こうしてれば口も柔らかくなるかな、と頰を優しく指で挟んでむにむにしていると、思いの外柔らかくてずっと触っていたら、綺麗な瞳が訝しげに細められる。

 ごめんなさい。

「ど、どの子が一番好きなんだ?」
「全部好きです」
「そ、そうなんだ。名前は? あるの?」
「名前?」
「付けてないの?」
「……付けてないです。全部好きとは言いましたけど、見分けはつかないので」

 そりゃそうか。よく考えたら魚達も真っ白だし、模様もない。
 見分けるならヒレの形と顔しかないんじゃないか? そして水の中じゃそんなの分かるわけない。俺だったら顔見ても分かんないと思う。

「そっか。じゃあ俺が一番最初に名付けてもらったんだな」
「……池に入りますか?」
「え、いいの?」
「いえ。池で飼われたいのかと思いまして」
「違う!」
「冗談ですよ」

 うー。子供にからかわれるなんて。

 冗談を言えるくらいになったなら、ちょっとはうち解けてくれてるのかな。まあ初めに警戒されていたのは侵入者だと思われてたからなんだけど。……いや、当たってるんだけどさ。

 どうして魔獣に取り込まれたら博士の記憶に入っちゃうんだろう。ここから出るにはどうしたらいいんだ。




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