227 / 293
第十章
224話 ご丁寧に
変な声出ただろ! やめろもうちゅーはしたくない!
サイオンに吸い付かれた後、今度はディスゲルがごくりと喉を鳴らし、顔を近づけてくる。
え、うそ、本気?
相当ヴァントリアとキスするのが嫌なのか――ならしようとするな――目が血走っている気がする。ディスゲルの長い睫毛が下におり、唇の上に、ちょん、と何かが触れた。
俺はもう真っ白のもぬけの殻に成り果てている。
え、何これ、何なのこれ。
「うわ……サイオン兄さんごめんなさい、これは……クセになるな」
「だろ?」
「え、あの、二人とも怖いんだけど……」
サイオンにキスされそうになり拒絶し反対側を向くと、嫌そうに顔を歪めたディスゲルにキスされそうになり拒絶し反対側を向く。これをずっと交互に繰り返し、「いやああああああ!」と叫びたくなるのは仕方がない。
もうどっちが先だとか分からなくなったのか両方顔を近づけてくる。綺麗な顔してるな二人とも、もう見せ付けないで。分かったから、もう甘やかしてなんて言わないから。
目を瞑って唇を僅かに尖らせる、俺はそれに手を伸ばして、互いの顔を寄せ、唇同士をくっ付ける。
唇が重なれば、サイオンはめちゃめちゃ吸い付いていき、ディスゲルは顔を曇らせる。やがてサイオンも顔を曇らせる。
うわー、男同士のキスって傍から見たらこんなのなのかー。サイオン吸い付きすごいの分かるし。
そう、俺はサイオンとディスゲルの顔を近付けさせ、キスをさせたのだ。ざまあみろ!
先に動いたのはディスゲルだった。彼の顎が少し動いて、唇に隙間が空く。
「…………」
赤いものをサイオンの唇が飲み込んでいく。
「…………」
唖然と見つめることしか出来ない。
吸い上げられるディスゲル兄様の舌、ビクビクと震える身体。角度を変えては互いに唇を重ね、舌を絡ませていく。
「…………」
ど、どうしよう、止められなくなってきたぞ。オ、オイ、それを俺にしようとしていたのか、なあ、返事して、もう気が付いて。目を開けて。お願い。
溢れる唾液を互いに舐めては吸い上げ交換する二人を見て、男同士でも美形同士のキスを見るのは別に変な気しないなーと思ってくる。最初はあれだったし面白かったけど、こんな色気ムンムンでお互い気持ち良さそうにキスしてるんだからいいのかも知れない。うん。きっと怒ったりしないよな。ウォルズになりきるとしたら、気持ちよくなってクセになってお互いにキスし合うようになってそれ以上のこともしだして止められなくなってえっちして結ばれるんだよな。
恋のキューピットになった気分だ!
しかし、そんな時だった。やはり先に動いたのはディスゲルだった。
「はぁ……ヴァントリア、もうよせ……サイオン兄様も見てるし……」
「は?」
むちゅっとお互いの唇が離れて、サイオンが目を見開いて固まる。濡れたディスゲルの唇を見て青ざめた。そして俺を見る。
俺はと言うと口を両手で押さえて眺めていた姿勢である。
「…………」
サイオンは俺とディスゲルを交互に見て、口を押さえた。ピアノのギャーンって音が聞こえた気がしたぞ。
「ヴァントリア……もう少し甘えても……」
流石に遅いと思ったのか、やっとこさ目を開けるディスゲル兄様。口を押さえて青ざめる近くにある顔を見てから、俺を見て、やがて交互に眺めて、口を押さえてピアノを鳴らす。
「いやー凄いもん見た」
「柔らかくないと思ったんだ……それで柔らかさに慣れてきたのかなって思って」
なれるんだ柔らかさって、へえー。
「最悪だ……最悪過ぎるヴァントリアだと思っていたのに」
「いやアレを俺にしてたと思ってたってどういう事なの、怖いんだけど」
「貴殿が「オマエが「「可愛いのが悪いッ!!」」
「意味分かんない……」
「口直しだ」
「え」
サイオンの唇がちゅうっとくっ付いてきてゾッとする。
「んんんん!?」
「あ! ずりい!」
ずりい! じゃねえよ!
ヌルッとしたモノが口の上を這う。絶対それだけは阻止してやる! ディスゲルよくもサイオンにベロチューの仕方を教えたな!
しかし唇は呆気なく侵入を許してしまった。
「ん……ふぅ、あ、ふぁ」
な、なんだこれ……! ルーハンより上手い! お前さては女の子とっかえひっかえしてたな! ディスゲルがビクビクする意味が分かったぞ。ベロチューのことは知っていたのかお前!
「ふ、ふ……ふぅ、や、やめ」
「……ヴァントリア。いいぞ、気持ち悪い……可愛い」
「か、かんべんしてくれ……もういいだろ」
「だめだ……」
サイオンの顔が近づいてきて、ギュッと口も目も閉じれば。
「いい加減にしろ、次はオレの番だろう!」
と言う声が聞こえて、ちゅっと口に湿った感触が乗る。
うう……ヒオゥネ、ヒオゥネ……ヒオゥネ助けてぇ。
再び呆気なく陥落した唇の中に舌がやってくる。
「はぁ、はぅ……ふぇ」
ヒオゥネ、ヒオゥネ。
ヒオゥネがいい、ヒオゥネじゃなきゃ嫌だ。嫌だ……ヒオゥネ、ヒオゥネ。
「ふえ、ぇ……」
「ん……ヴァ、ヴァントリア?」
恥ずかしいくらいに情けない涙が溢れてきて、やっとこさしつこいキスが止められる。
「わ、悪かった。軽い冗談だったんだ泣くなよ!」
「うう……最悪だ、最悪だ……兄様達に口の中レイプされたぁああ」
「レイプって……ご、ごめんな。ヴァントリア、ほんと、……何してんだ俺は」
「ディスゲルはともかく余はレイプなんかしていない」
「俺の中ぐちゃぐちゃに掻き回したくせに!」
「うわ、レイプだわ、それレイプだわ」
「ディスゲルうううう」
「ひい! ごめんサイオン兄さんごめんって!」
サイオンの右手首を取って、捲れば、腕時計のようなシルエットの機械が出てくる。それについたボタンをピッと押す。
実はこの機械、戦闘シーンになると良く出てくるのだ。やっと敵を倒したと思えば、ストーリーシーンが来て、生きていた敵がこれを使って通信魔法陣を出し、『侵入者だ、増援を……』と連絡し、敵がうじゃうじゃやって来る。
「……お前何して……」
そして攻略本にはご丁寧にこの機械の機能について説明されているページもある。今俺が押したボタンは、階級が高いものなら王様――つまりシストに直通できる仕組みになっていた。
『はい』
ディスゲルとサイオンは黙って眺めている。何をしているんだ、と言う目で。
『サイオン? まさかさっきの話か? それなら断――』
「シストぉっ……!」
泣きながらサイオンの手を引き寄せる。
『ヴァントリア? ……泣いているのか?』
サッと、ディスゲルとサイオンの顔が青ざめた。
「兄様達が俺の口の中レイプし――」
「わー! わあああああ! わあああああ!」
ディスゲル兄様に口を抑えられる。
「ヴァントリア貴様ああ! ちょっとベロベロされたくらいでレイプなどと! シスト、余はレイプなんかしていないからなッ!!」
「ぎゃあああああああっなんでもない、なんでもないってば!」
『レ、イプ……? ベロベロ? サイオン……? どういう事かな?』
「レイプじゃない! ちょっとキスしてやったくらいで泣き出しやがって! な! シスト!」
「余計なこと言うなああ!」
ディスゲルが俺から手を離し、サイオンの口を塞ぎに行く。
「二人が俺にベロチューしてきて……ふええシストお兄様助けてぇ」
『……ヴァントリア、待ってろ、すぐ行く!』
「「来るな仕事しろッ!!」」
『サイオン、ディスゲル、話なら後で聞くから黙っててくれないかな?』
サイオンとディスゲルは固まって動かなくなった。
「シスト、俺、俺嫌だって言ったのに……抵抗出来なくて二人が交互にキスしてきてぇえ……」
『ああ、俺が後で叱っておくから、もう泣くな』
「口直し、口直ししたい」
『え』
「口の中が気持ち悪い……」
『す、すぐ行く』
「「だから仕事しろッ!!」」
ヒオゥネに消毒して欲しい。……って何を考えてるんだ俺は!
「く、口は注ぐから大丈夫! なんでもないんだ!」
『だ、だが……』
「メルカデォ廃止して!」
『は?』
そ、そうだ、俺の目的はこれなんだ! キスのこととかヒオゥネのこととかはもう置いておくんだ! 今は急いでるんだから!
「シスト、お願い、俺王宮に戻るでも何でもするから、シストの言うことなんでも聞くから、主従契約なんかしなくても大人しく言うこと聞くから!」
『…………何でも?』
「メルカデォ廃止して、ついでに奴隷制度と実験もやめてそんでもって強姦魔と人攫いと奴隷商人とっ捕まえて、あ、あと売人も! 麻薬はもちろんだけど武器も売られてるから、それを止める手伝いして!」
『図々しいな貴様』
そうだ、俺に力がないのなら、力を持っている人を味方にして、力にすることだってできるんだ。もちろん俺も強くなるけど、味方になってくれたら、すごく心強いし、何よりもっと多くの人を救える!
「シスト……俺、シストのことが好きだった」
『…………』
あなたにおすすめの小説
義理の家族に虐げられている伯爵令息ですが、気にしてないので平気です。王子にも興味はありません。
竜鳴躍
BL
性格の悪い傲慢な王太子のどこが素敵なのか分かりません。王妃なんて一番めんどくさいポジションだと思います。僕は一応伯爵令息ですが、子どもの頃に両親が亡くなって叔父家族が伯爵家を相続したので、居候のようなものです。
あれこれめんどくさいです。
学校も身づくろいも適当でいいんです。僕は、僕の才能を使いたい人のために使います。
冴えない取り柄もないと思っていた主人公が、実は…。
主人公は虐げる人の知らないところで輝いています。
全てを知って後悔するのは…。
☆2022年6月29日 BL 1位ありがとうございます!一瞬でも嬉しいです!
☆2,022年7月7日 実は子どもが主人公の話を始めてます。
囚われの親指王子が瀕死の騎士を助けたら、王子さまでした。https://www.alphapolis.co.jp/novel/355043923/237646317
BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください
わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。
まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!?
悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。
転生したら同性の婚約者に毛嫌いされていた俺の話
鳴海
BL
前世を思い出した俺には、驚くことに同性の婚約者がいた。
この世界では同性同士での恋愛や結婚は普通に認められていて、なんと出産だってできるという。
俺は婚約者に毛嫌いされているけれど、それは前世を思い出す前の俺の性格が最悪だったからだ。
我儘で傲慢な俺は、学園でも嫌われ者。
そんな主人公が前世を思い出したことで自分の行動を反省し、行動を改め、友達を作り、婚約者とも仲直りして愛されて幸せになるまでの話。
なぜ処刑予定の悪役子息の俺が溺愛されている?
詩河とんぼ
BL
前世では過労死し、バース性があるBLゲームに転生した俺は、なる方が珍しいバットエンド以外は全て処刑されるというの世界の悪役子息・カイラントになっていた。処刑されるのはもちろん嫌だし、知識を付けてそれなりのところで働くか婿入りできたらいいな……と思っていたのだが、攻略対象者で王太子のアルスタから猛アプローチを受ける。……どうしてこうなった?
冤罪で追放された王子は最果ての地で美貌の公爵に愛し尽くされる 凍てついた薔薇は恋に溶かされる
尾高志咲/しさ
BL
旧題:凍てついた薔薇は恋に溶かされる
🌟第10回BL小説大賞(2022年)奨励賞。2025年11月アンダルシュノベルズより刊行🌟
ロサーナ王国の病弱な第二王子アルベルトは、突然、無実の罪状を突きつけられて北の果ての離宮に追放された。王子を裏切ったのは幼い頃から大切に想う宮中伯筆頭ヴァンテル公爵だった。兄の王太子が亡くなり、世継ぎの身となってからは日々努力を重ねてきたのに。信頼していたものを全て失くし向かった先で待っていたのは……。
――どうしてそんなに優しく名を呼ぶのだろう。
お前に裏切られ廃嫡されて最北の離宮に閉じ込められた。
目に映るものは雪と氷と絶望だけ。もう二度と、誰も信じないと誓ったのに。
ただ一人、お前だけが私の心を凍らせ溶かしていく。
執着攻め×不憫受け
美形公爵×病弱王子
不憫展開からの溺愛ハピエン物語。
◎書籍掲載は、本編と本編後の四季の番外編:春『春の来訪者』です。
四季の番外編:夏以降及び小話は本サイトでお読みいただけます。
なお、※表示のある回はR18描写を含みます。
🌟第10回BL小説大賞での応援ありがとうございました!
🌟本作は旧Twitterの「フォロワーをイメージして同人誌のタイトルつける」タグで貴宮あすかさんがくださったタイトル『凍てついた薔薇は恋に溶かされる』から思いついて書いた物語です。ありがとうございました。
余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない
上総啓
BL
ある日トラックに轢かれて死んだ成瀬は、前世のめり込んでいたBLゲームの悪役令息フェリアルに転生した。
フェリアルはゲーム内の悪役として15歳で断罪される運命。
前世で周囲からの愛情に恵まれなかった成瀬は、今世でも誰にも愛されない事実に絶望し、転生直後にゲーム通りの人生を受け入れようと諦観する。
声すら発さず、家族に対しても無反応を貫き人形のように接するフェリアル。そんなフェリアルに周囲の過保護と溺愛は予想外に増していき、いつの間にかゲームのシナリオとズレた展開が巻き起こっていく。
気付けば兄達は勿論、妖艶な魔塔主や最恐の暗殺者、次期大公に皇太子…ゲームの攻略対象者達がフェリアルに執着するようになり…――?
周囲の愛に疎い悪役令息の無自覚総愛されライフ。
※最終的に固定カプ
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
表紙は自作です(笑)
もっちもっちとセゥスです!(笑)
だから、悪役令息の腰巾着! 忌み嫌われた悪役は不器用に僕を囲い込み溺愛する
モト
BL
2024.12.11~2巻がアンダルシュノベルズ様より書籍化されます。皆様のおかげです。誠にありがとうございます。
番外編などは書籍に含まれませんので是非、楽しんで頂けますと嬉しいです。
他の番外編も少しずつアップしたいと思っております。
◇ストーリー◇
孤高の悪役令息×BL漫画の総受け主人公に転生した美人
姉が書いたBL漫画の総モテ主人公に転生したフランは、総モテフラグを折る為に、悪役令息サモンに取り入ろうとする。しかしサモンは誰にも心を許さない一匹狼。周囲の人から怖がられ悪鬼と呼ばれる存在。
そんなサモンに寄り添い、フランはサモンの悪役フラグも折ろうと決意する──。
互いに信頼関係を築いて、サモンの腰巾着となったフランだが、ある変化が……。どんどんサモンが過保護になって──!?
・書籍化部分では、web未公開その後の番外編*がございます。
総受け設定のキャラだというだけで、総受けではありません。CPは固定。
自分好みに育っちゃった悪役とのラブコメになります。