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第十二章
261話 居場所
しおりを挟むありがとう、ヒオゥネ。俺、ヒオゥネに会えて幸せだった。
「いつも、助けてくれて……ありがとう」
魔法石をヒオゥネの胸に置く、ヒオゥネは光となってから、シュンッと魔法石の中へ姿を消した。
大量の血液も全部魔法石の中へ入ってしまった。
扉を開けて部屋を出て、テイガイアやラルフ、アトクタの生徒達の元へやってくる。皆シンとしていて、かなり気まずい。
みんなを苦しめていた人を好きになったなんて、キチガイ過ぎるもんな、奇異な目で見られてしまうのは無理もない。
その気まずさをどうにかしようと思ったのか、テイガイアが話しかけてくる。
「どこに埋葬しに行くんですか?」
「……33層、ベルファインに行ってくる」
奇異な目で見ていた生徒の中の一人が怒り気味に言った。
「ベルファインだって!? 危険すぎる! 他の森でいいだろ! 何であそこなんだよ!」
「大丈夫。すぐ戻ってくるから」
魔獣達の巣窟だけど、逃げるルートや隠れられる木などは覚えているし。以前もそれではぐれた皆と無事に合流することができた。
それを聞いてテイガイアが言った。
「まさか一人で行くつもりですか? ダメだ、私も付いて行く。一人では行かせません」
「それこそダメだ。危険な目に合わせたくない」
「それはあなたにも言えることですッ!!」
ガッと肩を掴まれる。
ずっと手で包み込んでいた魔法石を、テイガイアに手を開いて見せてやる。
「初めてヒオゥネを好きって認めた場所があるんだ」
「認めた……?」
「だって……この地下都市で起きていることは俺が一番よく知ってるし、ヒオゥネが、その黒幕だってことも知ってたから。……好きになんかなってないってずっと認めなかったんだ」
子供達もラルフもそれを聞いて怪訝な顔をする。
「ベルファインの森で一人になった時、ヒオゥネに会ったんだ。ヒオゥネは寝てたし、多分分身だと思うけど。……その時、決めたんだ」
もう一度魔法石を手の中に包み込む。
「好きって認めてから、好きなのやめるって決めたんだ」
掌の中で熱くなっていく魔法石。ヒオゥネがいると思うと、思わず優しく扱ってしまう。
それを聞いて、テイガイアが眉を寄せた。ラルフやアトクタの生徒達は相変わらず気難しい顔をしているけれど。
「けど、けど、結局ダメなんだ。いつも、ダメなんだ」
ゼクシィルに襲われた時、イーハに騙されて吸血鬼達に襲われた時、そして今回も、魔獣たちから庇ってくれた。
「俺が一番いて欲しい時に、いつもそばにいてくれるんだ。俺、呪われてるから、いつか呪いに飲み込まれるんじゃないかって考えることがあってさ。そうなったら、いつもひとりぼっちな気がして、寒くて、怖くなるんだ」
みんな黙って聞いていてくれている。こんな話、きっと不快でしかないのに。
「俺はずっと、兄弟達にも、召使いにも、シストにだって、無視されてきた。アゼンヒルトやゼクシィルに襲われてた時も、誰も助けてくれなかった。見て見ぬ振りをされてきた」
過去を思い出そうとするだけで、全身が凍りつくような感覚がする。奴らに触られる感覚がする。落ちて来いと言わんばかりに、大勢の人に引きずり込まれるような感覚がする。
大勢の人……そうだ、彼らはずっと苦しんでいて。
思い出した。俺は、俺は。
「俺は、自ら望んで呪いを吸収するようになったんだ」
みんなが息を呑む。
「この地下都市にも、地上にも、助けて欲しいと思っている人達がいた。助けてもらえない人達がいた。見捨てられて、苦しむ人達がいた。俺はそれを、助けてあげたかった。そして、誰かを呪おうとする彼等を、止めたかったんだ。誰かを憎んだところで、ずっと苦しいまんまだ。だから、皆の呪いを吸収した。そうしたら、争わなくなったし、昔は溢れていた呪いもここまで、減らすことが出来た」
「バン、様……あなたは」
「俺は、逃げられないんだ。みんなの呪いを受け止めることを、みんなに望まれているから。みんなが助けを求めてくるから、その手を振りほどくことが出来ないんだ」
「な、何だよ、それ。アンタが一人で抱え込むほどの問題じゃないだろ!?」
「俺の半身は呪いを吸いすぎて、ゼクシィルも入れないところにいる。だから、ずっとひとりぼっちな気がしてたんだと思う。あそこは寒いし、多くの呪いが俺のところに助けを求めて集まってくる。俺はそれをいつも通り吸収するだけだ。逃げたいと思っても、逃してもらえない。俺は自分であの空間を作ったわけじゃない。……確かに、自分から呪いを吸おうとは思った、けど、もう吸いたくないと思っても、止められないんだ。勝手に、呪いが入ってくるんだ。助けを求めて、俺の中に」
「バン様、そんな話、聞いたことがありません。なぜ今まで黙っていたのですか」
「アゼンとゼクシィルが俺の記憶を混乱させていることもあるけど、俺の半身がいるのはオリオだ。呪いの持ち主の記憶で溢れかえってる。……もうどれが自分の記憶なのかわかんないんだ。思い出そうとすると情報量が多くて精神が持たない」
「バン……アンタを助ける方法はないのか」
「俺が呼び込まない限りは、入れないらしいんだ。……でも、唯一、入れた人がいるんだよ。記憶の世界で、だけど」
「記憶の世界……?」
テイガイアは俺の両手を見る。見たいのは多分、両手の中のモノだが。
「未来のヒオゥネが、会いに来てくれたんだ。覚えてないから、仮定の話だけど。そんな気がする」
テイガイアが何か言いたそうにしているが、否定も肯定も出来ないのだろう。
俺もそう思いたいだけなのかもしれない、でも、多分そうじゃなくても。ヒオゥネの熱さは、もう半分の身体まで届いていた気がするんだ。
「ヒオゥネがそばにくると、安心するんだ。一人じゃないって気がするんだ。俺が寂しいときも、怖いときも、いつも、助けに来てくれて、俺を、助けようとしてくれた。多分、半分の俺の居場所も、俺が呪われている理由も、知ってたんだ……だから、呪いを解こうとして……」
声が震えてきて、また目が潤んでくる。
ラルフもアトクタの生徒達ももう非難するような目は向けてこない。
「俺の想像だから、証拠とかはないんだけど……それに、もしそうなら、ヒオゥネが俺を好きってことになっちゃうし。違うと思う」
自惚れが過ぎるって話だし。
「ただ、俺はヒオゥネがいてくれるだけで救われてたって話だよ。テイガイアが俺に救われてたって言ってくれたみたいに、俺はヒオゥネに救われたんだ。記憶の世界で、ゼクシィルから俺を助けてくれた時からずっと」
魔法石をコートの内ポケットに仕舞う。
「暗闇の中で、ひとりぼっちだったんだ。助けてって言っても誰も助けてくれない、見向きもしてくれない。俺は、逃げられない。でも、ヒオゥネは助けに来てくれた。何度も、何度も助けに来てくれた。光が差し込んだんだ。寒い部屋の中も、暖かくなるくらいヒオゥネは熱いんだ。……嬉しかった、嬉しかったんだ。助けに来てくれて、そばに来てくれて、抱きしめてくれて、嬉しかった」
ボロボロと涙が溢れてくる。
でも、もう、ヒオゥネはいない。俺を助けようとして、死んでしまった。俺が、弱いばかりに。
手を伸ばしたばかりに、ヒオゥネは死んでしまったんだ。
「ヒオゥネは俺のせいで死んだんだ……っ」
両手で顔を覆えば、誰かに抱き締められる。香水の匂いでテイガイアだと分かった。
「貴方のせいではありません。私達が殺したんです。もし、誰かのせいだと言うのなら、私達のせいです」
「ごめんな、テイガイア。恨まなきゃならない相手なのに、俺だって、あんなことするヒオゥネなんか大っ嫌いなのに。なのに、それでも、それでも好きなんだ」
「ようやく、貴方の気持ちが理解できました。私にとってのバン様が、バン様にとってヒオゥネくんだった。その例えはとても分かりやすい。……貴方が死んでしまったら、私は生きていけない……」
俺はまたひとりぼっちに戻った。
ジノも、イルエラも、テイガイアもウォルズもラルフもいるのに、半身が寂しいと感じている以上、ずっと寂しいまんまだ。ひとりぼっちだ。
みんながいるのに、ひとりぼっちだと思うなんて、いやだ。こんなのはもういやだ。ずっと誰かに見られていて、何かに怯えていて、逃げられない暗闇の中に閉じ込められる、そんなのはもう、いやだ。
「俺、いつか半身を、取り戻すよ。そうして、もう一人じゃないって思えるようになりたい! みんながいてくれるって、心の底から安心できるようになりたいんだ!」
「バン様……」
「でも俺のことは後回しでいい、何年もひとりだったんだ、それにこうして皆に会えてることはもう半分も知ってるだろうから。まずは地下都市を救うことから考えよう、地下都市を救ったら次は地上を救うからな!」
「手伝います、どこまでもついて行きますバン様。そして、いつか私と結婚してください」
「さ、さあ、未来のことはわからないと言うか……」
「可能性があると言うことですか!」
「でも、俺、ヒオゥネのこと一生愛してると思うんだ」
「死んできてもいいですか?」
「ごめん!!」
でも俺がテイガイアを好きになれるように頑張って♡ なんて無責任なことは言えないし……。好きになれなかったら傷付けてしまうことになる、それは嫌だ。今だって十分傷付けてしまっているだろうから。
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