リクゴウシュ

隍沸喰(隍沸かゆ)

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アノン

14 ※BLあり

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「アライア。アライア」
 シェルビーが呼び掛ければ、カプセルの中でアライアの目がうっすらと開かれる。シェルビーが瞳に映り込んだとたん――驚くように目が見開かれた。
『シェルビー、どうして』
「今出してやるから」
 シェルビーはカプセルを開け閉めするキーボードに近づく。
『下手に触るな』
 とアライアがガラスに頬と両手を付けながら言ってきた。
「見てたんだ研究者が押してたの。覚えてるから平気だ」
 小さな画面に『パスワードを入力してください』と表示される。
 まず、音を確認するためにすべてのボタンを押していく。
 小さな画面に『パスワードが間違っています』と表示される。
 音と指の動きを思い出し、正確に打ち込んでいく。
『読み込み中……』
 と表示され、ゴポゴポと緑色の液体が排出されていき、プシュー……ッと言う音を立てながらカプセルの扉が開かれた。
 液体中でも裸だったが、それがなくなったからかシェルビーは真っ赤になって慌てる。自分のTシャツを脱いで、アライアの上から被せて着せた。
「そんな格好だし気分も悪いかもしれないけど、逃げるぞ」
「どこから来たんだ?」
 Tシャツに腕を通しながらアライアが問う。
「ダクトを通ってきたんだ」
「どうやって上がるんだ?」
 アライアがカプセルの上にあるダクトを見ながら言う。
「――げ、しまった。考えてなかった」
「考えてから行動しろって言ってるのに」
「――……………」
 ああ、そういえばこんな生意気な奴だったとシェルビーは思う。
 そう思ってから、アライアのことを強く強く抱きしめた。
「シェルビー?」
「無事で良かった。なんか色々されてたけど大丈夫か?」
切り取られていた腕を見る、傷口は一切見当たらず爪先まで元通りだ。何事もなかったような、完璧な再生だった。
「……ああ、よく覚えてない」
「注射を刺されてた、もしかしたら抵抗をなくすために睡眠薬を打ったのかも」
「ああ、少し眠い。でも身体に異常はない」
 シェルビーは辺りを見渡し、カプセルの裏にある太い管の集合体に目を付ける。
「あのカプセルの管を伝っていけば、上に出られるかも」
 返事がなく、アライアを見れば、瞼を開閉してうとうととしている。
「大丈夫か?」
 シェルビーが肩を叩いて起こそうとする。
「ああ」
 とは言うが、物凄く眠たそうだった。
「…………」
 シェルビーはアライアと顔を近づけ、目をつむり、唇と唇を触れさせる。
 顔を離せば、アライアの目はぱっちりと開かれていた。
「な、何して」
「……目、覚めたか?」
「あ、ああ。うん。ちゃんと、覚めたかも」
「行こう」
 太い管を伝ってカプセルの上に出て、ダクトに入る。後ろにいるアライアが蓋を閉じて、二人で外へ外へとダクトの中を進んでいく。
 四方に展開するダクトにやって来て、シェルビーはこれからどうするかを説明する、しかし、アライアからは返事が来なかった。
「アライア? アライア?」
 身体の向きを変え、アライアの元へ這いつくばっていく。
「アライア!」
 アライアは眠っているようで、腕を枕にぐったりとして動かない。
「アライア、アライア、起きろアライア」
 肩を揺するが目覚めない。
顔を上げさせ、唇にキスをする。しかし、目覚める気配はない。
「な、なんで」
 シェルビーは冷たいアライアの頬に戸惑う。
 呼吸はしている。
生きている。
「フー……落ち着け、落ち着け」
 あともうちょっとだ、引きずって行けば……。
 後退しながらアライアを引きずり、進んでいく。エレベーターに着き、身体を外に出して片手で梯子に掴まってから、もう一方の手でアライアを揺すった。
 エレベーターが動き出しそうになり、「よし」と乗せようとするがその前に動き出してしまう。シェルビーは慌てて、アライアの上に跨ってダクトの中に逃げ込む。
「くそっ」
 梯子を降りていた時気付いたが、エレベーターはあまり使用されないらしい。アライアがアノンと言う特別な存在なら、研究者の中でも特別な人達しかあの女性のいた部屋や地上に続くエレベーターを使えないのだろう。例えば地下に住む研究者は地上へ行けず、地上から来た研究者がエレベーターを使うのではないだろうか。
 ダクトから出ると、遠くからサイレンの音が鳴り始めた。
「しまった、カプセルから出したことがバレたんだ!」
 アライアを見つけてすぐ実験室へ連れて行った光景が脳内に映し出される。
 ――あいつら、まだ実験するつもりだったのか?
 もしかして、あの液体の中に入れれば、限界が来てもアライアから身体の一部を取れるって仕組みなんじゃ……。
 ダメだ、ダメだ。あんなこともう2度とさせるもんか。
 ―――あんなこと。
 ……させるもんか。
 サイレンの音に目覚めたアライアがダクトから出てきて、梯子を降りてくる。
 シェルビーはズボンを脱いで、アライアを背中に縛り付ける。アライアは眠そうにしながらされるがままだった。アライアの両手をシェルビーの首に巻きつけて、アライアの手首をベルトで縛る。
 シェルビーは梯子に手を掛け、滝のような汗を流し、常に深呼吸をしながら登っていく。下へ下へ引っ張られる力に抗いながら、一心不乱に登っていく。
 ダクトへアライアごと身体を突っ込み、休憩もとる。動くエレベーターに飛び乗ることも出来ないし、エレベーターも滅多に動かない。
 それでも諦めず登り続けていれば、上から、黒いものが落ちてきて、物凄いスピードで横を通り抜けていった。
 下で、凄まじい破裂音が鳴り、頑丈なエレベーター内に響き渡る。
 シェルビーは恐る恐る、下方へ視線を向けた。鼻筋から鼻先へ汗が流れ、ぽたりと、真っ赤に染まった底に消えていく。
 あ、ああ。
 絶対に守る、絶対に生き残る。
 すまない。すまない。
 置いていくのか、置いていっていいのか。
 せめて、何か持っていってあげたほうがいいんじゃないか。
 脱出して落ち合った後に、見つけられなかったと言えばいい。
 そうだ、そうだ。
 そうしよう。
 だめだ、何を考えてるんだ。
 何を。
 素直に、素直にありのままを、伝えなければ。
 せめて、教えてあげなければ。
「シェル、ビー」
 下から、そんな声がしてくる。今のシェルビーには地獄の底から悪魔が自分を呼んでいる声のように聞こえていた。
「たすけて、たすけて。いたいよ。たすけて」
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