リクゴウシュ

隍沸喰(隍沸かゆ)

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リョウゲ

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 な、なななななな、なんでいまキスされた!?
 ドドドどうしようやっぱり年上の人が……――それを言ったら兄貴達も年上か……。
 ああああどうしよう矢地さんの後ろ姿から目が離せない。
 矢地さんが本堂の中へ入るまで見送り、はあ、と溜息を吐いて振り返る。先刻まで恐る恐る渡っていた筈の吊り橋を浮き足で渡った。
「落ち着きなさい私。國哦伐家は普通じゃない奴の巣窟だ。キス位普通だ。そうだ」
 何でドキドキしているんだ。私って淫乱だったのか。銀杏姉さんばりに淫乱だったのか。
「えへへ、うふふ、へへ。じゃない。取り敢えずこの熱を冷ます為にウォータースライダーへ……」
 一歩出れば下の大河へドボンだ。黄泉はこの時かなり動揺していたらしい。足を踏み出そうとしたとたん。
「――黄泉!」
「青海兄さん?」
 本堂の窓から青海が顔を出す。あそこの窓は常に開くことが無い開かずの窓の筈だが。
 それに、青海兄さんは二人きりの時以外に名前を呼ぶことは――
「黄泉、逃げなさいッ!! ――――ッ」
 叫ぶ青海の背後から黒い影が伸びる。青海が察知して伏せたとたん彼の横の壁が柱諸共薙ぎ払われる。
「ぐッ――」
 破壊された柱の木片が青海の脇腹を直撃した。
「青海っ!」
 一体何が起きて。
 本堂へ向かおうと駆け出すと、黒い影に放り出された青海が黄泉の目の前でやや強引に着地する。吊り橋が弧を描き激しく揺れた。
 青海はこちらに振り向き両肩を掴んでくる。
「逃げろと言ったのにどうして向かってくるんだい、面倒なことは嫌いなんだろう?」
「だ、だって――うわっ」
 青海の背後に黒い影が見えたと思ったら、突然彼に押し倒される。背中に目でも付いているのか?
「行くよ」
「どこに――」
 抱き締められ、視界がぐるりと回転する。ふわりと身体が宙に浮かぶ感覚がする。
「う、」
 背中が――頭が重力に吸い寄せられて、逆さまになった。
「うぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!?」
 國哦伐家最大のアトラクションへ。兄と二人で乗ることになろうとは。
 青海の胸にしがみついて気が遠くなるのを感じていたら水のノイズが大きくなっていく。
「っ、追いかけて来たか。黄泉、ちょっと緩めて」
 何でそんなに冷静なんだ貴様は。緩められる訳ないだろう責任をとって共に死ね。
「黄泉、翠王すいおうが――」
 いま、なんて?
「翠王って……あれ、が?」
 何を言っているんだ。だって、あれは。
「タフィリィだよ。あの人は滝壺に捕らえられていた筈なんだけどね」
 翠王とは矢地翡翠ひすい。矢地さんのことだ。
 そう言えば、捕えられていたから、彼は会議に出席していないと言った。
「何故彼が黄泉を狙わなかったのかは知らないが、無事で良かった」
 青海の胸から少し離れ、顔を下に向けて上を見る。
 ――すると、黒い影がこちらに伸びてピタリと止まる。長さには限界があるようだ。
 血管が荒縄の如く入り混ざり太い触手となっていた。
 それを沿って眺めていけば、本体がある。そこにはこの世のモノとは思えない本物の化け物が存在していた。
 何だあれは。あれが、矢地さん?
 ――レモン色のタピオカカエルみたいな主体をカラフルな年輪の目玉が覆っている。ギョロギョロと休む間も無く動き続けるそれは卵のようにも見える。
 その目と目の間から黄色と赤の血管が伸び、何重にも重なり綱となって、ムチの如く打ち付けて攻撃するらしい。
「黄泉、絶対離さないで」
 長い長いアトラクションへのスリル。分岐点へと遂に到達したらしい。獣の唸り声のように聞こえる水の音を耳に。青海の胸に再び顔を埋める。
 黄泉達は滝の濁流に飲まれた。
 ――温かいのかも冷たいのかも解らない。打ち付ける水のムチは次第に太くなって重たくなる。息が出来ない。苦しい。しがみ付く力が弱くなる。
 酸素を求めて気管が開く。口に柔らかくて冷たいモノが触れた。肺に空気が入る。
 落ちているのか登っているのかも解らなくなり、自分が今どこにいるのか何をしているのかも解らなくなる。長い時間が過ぎていくように感じる。
 水と共に押し寄せる孤独を救ってくれたのは青海の強い抱擁だけだった。
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