リクゴウシュ

隍沸喰(隍沸かゆ)

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リョウゲ

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 修行が面倒で、森から一人帰って来た。廊下を歩いていたら自分の右足が床を破って滝に向かってヤッホーして、慌てて周囲を見渡す。バレたらまた修行に行かなければならない。倍に膨れ上がった修行へ。
 どうやらバレていないらしい。そおっと足を引き抜けば、障子の向こうで物音がした。不味いと思ったが何も起きない。米三粒程度の障子の穴から中を覗き込む。
 銀色の瞳の姉がいた。美しく優しい女神のような少女だ。自分とは違う世界の人物。うっとりと見とれていれば、彼女は黒い壺を漁り、それを口の中へお菓子を食べるように飲み込んでいく。終いには壺に口を付けごくりごくりと飲んでいく。恍惚の表情を浮かべて幸せそうに。さぞ美味しいのだろうと自分の喉もごくりとなる。姉が夢中で飲み込んでいる時、壺から小さなビー玉みたいなモノがばらりと束になって彼女の顔を撫で落ちた。
 それらは畳の上を滑るように散らばり、黄泉の目の前までやってくる。
 透明のビー玉の中に、色の付いたモノが見える。
 中の色が動いた気がした。
 目をよく凝らした。徐々に、徐々にピントが合う。カメラのレンズみたいにそれはピタリと黄泉の目の中に入ってきた。
 とぅるんとした半透明のピンク色の物体。その中には脳と血管が見える。
 2つの丸く黒い塊に赤い点が打たれていて。それをよくよく見れば、赤い点がゆっくりとこちらに動く。半透明が揺れて、ビー玉の内側に透明な水滴が滴る。
 赤い点を見つめていたら、覆われた半透明が割れ、中身の黒い丸いものが半分ほど出て来た。
 それが瞼と目玉であると、やっと気がついた。
 心臓と思われるモノが動く度に、血液が循環する。
 恐ろしいと感じた途端、一つにピントを寄せていた目が全体を映してしまった。
 全てのビー玉の中から目玉が、こちらをじっと見つめていた。
 黄泉は恐ろしくなり、金縛りにあう。身体が動かせなくなって、危険な気配がして姉の様子を盗み見る。彼女に気付かれたら、きっと私は死ぬだろう。
 廊下から足音がした。姉は夢中になっていたそれを止め、壺を押入れの奥へ隠す。落ちたそれらを集めて喉の奥へ流し込んでいった。姉は私の前の玉を拾おうとこちらへやって来る。姉はピタリと動きを止めて、ゆっくりと、目を。
「黄泉」
 呼ばれて反射的に振り向けば、そこには青海兄さんが立っていた。
「目を瞑って」
 そう言われて、慌てて目を瞑る。
「いい子だね」
 唇に甘い感触が触れる。口内に入り込んでくるそれは火傷しそうに熱かった。私はこの日、青海にディープキスでファーストキスを奪われたのだ。
 キスが終わって、障子の穴に目を向ければ、こちらを覗き込む瞳があった。怖くなって青海にしがみ付く。
 もしあの儘眺め続けていたら、青海が来なかったら。私は。
「銀杏姉さん、覗き見は良くないよ」
 勢いよく障子が開き、顔を真っ赤にした姉さんが青海に言った。
「あ、貴方達、きょ、キョウダイで、な、何を……! だ、だって、目の前で、急に、」
「普通は見て見ぬフリをするよ。姉さんはむっつりスケベだね。このことは他のキョウダイには内緒にしていてよ姉さん」
「い、いいけれど。その、貴方達は、その」
「愛し合っているんだ」
「ひぐっ、愛し、わ、分かりました。皆には黙っておきます、でも場所を選びなさい! 幾ら修行中の時間とは言え私みたいに部屋で休んでいる人だっているんですからね……! きょ、キョウダイってことだけじゃなくて貴方達年が離れているんだから、青海は自重しなさい。あ、あんなにべろべろするなんて、え、えっちなのはいけないのだから。わ、わかった?」
「姉さんは幼稚だなぁ。でも見られたのが姉さんで良かったよ。姉さんは優しいからね。ありがとう姉さん」
「ど、どういたしまして、でも幼稚は余計なんじゃ……」
 姉さんはもじもじする。幼稚と口にしてから何を想像したのか黙り込む。
「ところで、」
「?」
「姉さんも私でよかったね。幾ら修行中で皆が出払っているとは言え、夢中になり過ぎたらダメだよ」
「……気をつけます」
 姉さんは面を伏せる。姉さんを叱れるのは青海兄さんか砂金姉さん位だ。
 視線を感じたのか銀杏姉さんがこちらを見る。美しい瞳にうっとりすれば、その奥に2つの瞳が見えた。怖くなって青海兄さんを見上げれば、ゆっくりと顔が近付いて来て再び唇が重ねられる。
「だ、だから人目を気にしなさいって言って……!」
 と銀杏姉さんの甲高い慌てふためく声がした。
 青海兄さんがキスを止めるまでされるが儘で、姉さんは遂に逆上せて鼻血を吹き出して倒れてしまった。兄さんはキスをやめて、姉を横抱きにする。
「黄泉、部屋に戻っていなさい。私は姉さんを布団に寝かせる」
「は、はい」
 頷けば、兄さんが部屋に入ろうとするものだから、慌てて止める。
 部屋に入れば兄さんがあいつ等に何かされるのではないかと恐れたのだ。
「部屋に帰ったら続きをしよう」
 そう言った青海兄さんに、唇に優しく触れるだけのキスをされた。
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