リクゴウシュ

隍沸喰(隍沸かゆ)

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エンタイア

15

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 ゼノが実験を受けている間、窓の向こうの廊下で翡翠の目の男を見かけた。彼はヒグナルへ茶髪の少年を渡している。翡翠の目の男は何度か前の施設で見たことがあった。碧徒の手下の一人だ。
 茶髪の少年と翡翠の目の男は雰囲気がよく似ている、恐らく彼の息子だろう。
 数日間、その子供はゼノの前を行き来した。
 そんなある日、赤い瞳が翡翠の目に変わり、翡翠の目の男は目に包帯を巻いていた。
 数時間後、男の両眼――黒色の瞳が露となっていた。
 数日が経ち、男の目は翡翠へと変わっていた。
 ゼノが彼らを気にしていると悟ったのか、碧徒が説明し始める。
「彼らの一族は目が寿命なんだ。一時期力をなくし、普通の人間として過ごしてから眠るように死亡する。翡翠の目の彼は当主としての力を無くした。でも彼の連れている子供は10号――あの子は一族とは別の一族から生まれた子供だから、生きることが出来る。非常に珍しい種族の子孫さ。気になるだろう?」
 ゼノは碧徒の顔を見上げながら、こくりと頷く。
「もしかしたら、世界にいるすべての種族から血を分けて貰って人工的にではなく自然に生まれてきた存在なら、聖唖くんのような美しい存在になるのかもね。だからそういう実験も始めることになったんだ。彼の目は、君にあげるね」
 そう言った途端、翡翠の目の男が扉から入って来て、くり抜かれたのだろう綺麗に洗われた赤い両目をトレーに乗せて持ってくる。
 口の中に無理やり押し込まれ、ゼノは抵抗すれば拷問は免れないと、目をぎゅっと瞑り、それを噛み潰した。
「よく噛んで」
 次に、翡翠の目の男が運んできたのは、何者かの血液や肉片だった。
「この施設にいる操る者達や、ヒグナルから貰った兵器の舌や指だよ」
 ゼノはそれらを咀嚼し、体内へ取り込みながら思った。
 本当に、内側からの調整が始まった、と。
 1ヶ月ほどが経ち、碧徒が別の施設へ行くことになり、実験は一時中断となった。
 ゼノはチャンスだと思い、その間に逃げ出すことを決めた。



        ◇◇◇



 ゼノはアリシアに脱出のことを伝えに来ていた。透過の力を利用しアリシアの部屋に入ると、彼女はベッドの上で眠っていた。
 ベッドの横に座り、肩を揺すると、彼女の目が覚める。
 アリシアは寝ぼけ眼でゼノの手を引っ張って自分の上に倒れ掛からせた。
「おい、いきなり引っ張るな」
「……何してるの貴方」
「お前が引っ張ったんだろ」
「退きなさいよ」
「まず手を離せ」
「…………」
「…………?」
「……はぁ、つまらないヒトね。貴方って」
「何の話だ」
 少しくらい照れたりできないのかしら、とアリシアは考えやれやれと首を振る。
「そう言えば事件に巻き込まれたと聞いたが、大丈夫だったか?」
 アリシアはその言葉を聞いてぽかんとする。
そんなアリシアを見て、ゼノは首を傾げた。
「貴方が私を心配することなんてあるのね」
「そんなの何度もある」
 アリシアは目を見開き、そして俯く。
「…………そう」
 アリシアはにやけた顔を隠しつつ、ゼノへ尋ねる。
「何か用があったんじゃないの?」
「あいつが他の施設へ行くことになった。その間に脱出しようと思う」
「そう。じゃあお別れね」
「本当に逃げる気はないのか?」
「ないわ」
「……分かった。それだけを伝えに来た」
「そう。ゼジにも伝えるの?」
「ああ。今から伝えようと思う」
「一緒に逃げようって誘わないの?」
「……あいつからの返事は想像がつかない」
「だから怖いって言うの? 最後なんだから試してみるべきよ」
「そうだな。お前達のせいでひとりぼっちは寂しいと気付いたし」
「貴方がそんなこと言うなんて意外だわ」
「お前達のせいだ」
「あら。私達のおかげよ」
 ゼノはフッと鼻で笑い、手を横に広げる。空間がひび割れ、青紫色の渦が出来、黒い雷を纏いながら広がっていく。
「そ、それ、なんなの」
 発生した風に、アリシアの髪やスカートが揺れる。
「透過の能力を自分なりに調べた結果、オレは空間を歪めて移動していたと分かった。そしてその力を最大限まで使った結果が、これだ」
「空間と空間を繋いだのね。ワープできると言うこと?」
「そう言うことだ」
「それで脱出する気なの?」
「ああ」
 ゼノは返事をすると、空間に出来た巨大な穴の中へ消えていく。
「脱出が成功したとしても、これで会いに来る」
「……ええ。待ってるわ」
 ゼノが地下室へ戻ると、ゼジは窓の外からその様子を眺めていた。彼の前で訓練している時、この技を何度か見せているが、一度も驚くことはなかった。
 ゼノが手招きすると、彼は扉へ向かい、部屋に入って来る。
「どうかしたのか?」
「あいつが施設を出る日、逃げようと思っている」
「そっか、じゃあとうとうお別れだな」
「…………」
 ゼノはそれを聞いて、やはり返事を聞くことが怖くなった。ゼノはアリシアの【最後】という言葉を思い浮かべながら勇気を出して言う。
「一緒に……」
「ん?」
「一緒に逃げないか」
「それは無理だよ」
「…………」
 返事が早くてゼノは思わずゼジの両頬をつねる。
「いひゃいいひゃい」
「どうしてだ」
 ゼノが手を離すと、ゼジは両手で自分の頬をさする。
「俺はいつ死んでもおかしくない身体でね。ボスがいないと生きられない。だから、お前と行ったらいつか死ぬ。だから、一緒には行けない。だから、一緒にはいられない」
「……そうか」
「外に出れば大勢の人がいる。お前みたいなのを保護してくれる組織だっている。安心して脱出しろよ」
「オレのこの力で必ず会いに来る。お前を助け出す方法も探してやる」
「そりゃどうも。ありがとう」
 ゼノがこくりと頷くと、ゼジは休憩の時間だと部屋を後にした。
 アリシアもゼジも一緒に逃げる気はないらしい……いや、一緒にいたい、一緒に逃げたいとは思っているのだろうが、勇気を出すことが出来ないのだろう。
 ゼノは彼らを無理やり連れていこうとは思わなかった。いつか勇気が出た時、迎えに来ればいいと思った。
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