243 / 299
エンタイア
15
しおりを挟む
ゼノが実験を受けている間、窓の向こうの廊下で翡翠の目の男を見かけた。彼はヒグナルへ茶髪の少年を渡している。翡翠の目の男は何度か前の施設で見たことがあった。碧徒の手下の一人だ。
茶髪の少年と翡翠の目の男は雰囲気がよく似ている、恐らく彼の息子だろう。
数日間、その子供はゼノの前を行き来した。
そんなある日、赤い瞳が翡翠の目に変わり、翡翠の目の男は目に包帯を巻いていた。
数時間後、男の両眼――黒色の瞳が露となっていた。
数日が経ち、男の目は翡翠へと変わっていた。
ゼノが彼らを気にしていると悟ったのか、碧徒が説明し始める。
「彼らの一族は目が寿命なんだ。一時期力をなくし、普通の人間として過ごしてから眠るように死亡する。翡翠の目の彼は当主としての力を無くした。でも彼の連れている子供は10号――あの子は一族とは別の一族から生まれた子供だから、生きることが出来る。非常に珍しい種族の子孫さ。気になるだろう?」
ゼノは碧徒の顔を見上げながら、こくりと頷く。
「もしかしたら、世界にいるすべての種族から血を分けて貰って人工的にではなく自然に生まれてきた存在なら、聖唖くんのような美しい存在になるのかもね。だからそういう実験も始めることになったんだ。彼の目は、君にあげるね」
そう言った途端、翡翠の目の男が扉から入って来て、くり抜かれたのだろう綺麗に洗われた赤い両目をトレーに乗せて持ってくる。
口の中に無理やり押し込まれ、ゼノは抵抗すれば拷問は免れないと、目をぎゅっと瞑り、それを噛み潰した。
「よく噛んで」
次に、翡翠の目の男が運んできたのは、何者かの血液や肉片だった。
「この施設にいる操る者達や、ヒグナルから貰った兵器の舌や指だよ」
ゼノはそれらを咀嚼し、体内へ取り込みながら思った。
本当に、内側からの調整が始まった、と。
1ヶ月ほどが経ち、碧徒が別の施設へ行くことになり、実験は一時中断となった。
ゼノはチャンスだと思い、その間に逃げ出すことを決めた。
◇◇◇
ゼノはアリシアに脱出のことを伝えに来ていた。透過の力を利用しアリシアの部屋に入ると、彼女はベッドの上で眠っていた。
ベッドの横に座り、肩を揺すると、彼女の目が覚める。
アリシアは寝ぼけ眼でゼノの手を引っ張って自分の上に倒れ掛からせた。
「おい、いきなり引っ張るな」
「……何してるの貴方」
「お前が引っ張ったんだろ」
「退きなさいよ」
「まず手を離せ」
「…………」
「…………?」
「……はぁ、つまらないヒトね。貴方って」
「何の話だ」
少しくらい照れたりできないのかしら、とアリシアは考えやれやれと首を振る。
「そう言えば事件に巻き込まれたと聞いたが、大丈夫だったか?」
アリシアはその言葉を聞いてぽかんとする。
そんなアリシアを見て、ゼノは首を傾げた。
「貴方が私を心配することなんてあるのね」
「そんなの何度もある」
アリシアは目を見開き、そして俯く。
「…………そう」
アリシアはにやけた顔を隠しつつ、ゼノへ尋ねる。
「何か用があったんじゃないの?」
「あいつが他の施設へ行くことになった。その間に脱出しようと思う」
「そう。じゃあお別れね」
「本当に逃げる気はないのか?」
「ないわ」
「……分かった。それだけを伝えに来た」
「そう。ゼジにも伝えるの?」
「ああ。今から伝えようと思う」
「一緒に逃げようって誘わないの?」
「……あいつからの返事は想像がつかない」
「だから怖いって言うの? 最後なんだから試してみるべきよ」
「そうだな。お前達のせいでひとりぼっちは寂しいと気付いたし」
「貴方がそんなこと言うなんて意外だわ」
「お前達のせいだ」
「あら。私達のおかげよ」
ゼノはフッと鼻で笑い、手を横に広げる。空間がひび割れ、青紫色の渦が出来、黒い雷を纏いながら広がっていく。
「そ、それ、なんなの」
発生した風に、アリシアの髪やスカートが揺れる。
「透過の能力を自分なりに調べた結果、オレは空間を歪めて移動していたと分かった。そしてその力を最大限まで使った結果が、これだ」
「空間と空間を繋いだのね。ワープできると言うこと?」
「そう言うことだ」
「それで脱出する気なの?」
「ああ」
ゼノは返事をすると、空間に出来た巨大な穴の中へ消えていく。
「脱出が成功したとしても、これで会いに来る」
「……ええ。待ってるわ」
ゼノが地下室へ戻ると、ゼジは窓の外からその様子を眺めていた。彼の前で訓練している時、この技を何度か見せているが、一度も驚くことはなかった。
ゼノが手招きすると、彼は扉へ向かい、部屋に入って来る。
「どうかしたのか?」
「あいつが施設を出る日、逃げようと思っている」
「そっか、じゃあとうとうお別れだな」
「…………」
ゼノはそれを聞いて、やはり返事を聞くことが怖くなった。ゼノはアリシアの【最後】という言葉を思い浮かべながら勇気を出して言う。
「一緒に……」
「ん?」
「一緒に逃げないか」
「それは無理だよ」
「…………」
返事が早くてゼノは思わずゼジの両頬をつねる。
「いひゃいいひゃい」
「どうしてだ」
ゼノが手を離すと、ゼジは両手で自分の頬をさする。
「俺はいつ死んでもおかしくない身体でね。ボスがいないと生きられない。だから、お前と行ったらいつか死ぬ。だから、一緒には行けない。だから、一緒にはいられない」
「……そうか」
「外に出れば大勢の人がいる。お前みたいなのを保護してくれる組織だっている。安心して脱出しろよ」
「オレのこの力で必ず会いに来る。お前を助け出す方法も探してやる」
「そりゃどうも。ありがとう」
ゼノがこくりと頷くと、ゼジは休憩の時間だと部屋を後にした。
アリシアもゼジも一緒に逃げる気はないらしい……いや、一緒にいたい、一緒に逃げたいとは思っているのだろうが、勇気を出すことが出来ないのだろう。
ゼノは彼らを無理やり連れていこうとは思わなかった。いつか勇気が出た時、迎えに来ればいいと思った。
茶髪の少年と翡翠の目の男は雰囲気がよく似ている、恐らく彼の息子だろう。
数日間、その子供はゼノの前を行き来した。
そんなある日、赤い瞳が翡翠の目に変わり、翡翠の目の男は目に包帯を巻いていた。
数時間後、男の両眼――黒色の瞳が露となっていた。
数日が経ち、男の目は翡翠へと変わっていた。
ゼノが彼らを気にしていると悟ったのか、碧徒が説明し始める。
「彼らの一族は目が寿命なんだ。一時期力をなくし、普通の人間として過ごしてから眠るように死亡する。翡翠の目の彼は当主としての力を無くした。でも彼の連れている子供は10号――あの子は一族とは別の一族から生まれた子供だから、生きることが出来る。非常に珍しい種族の子孫さ。気になるだろう?」
ゼノは碧徒の顔を見上げながら、こくりと頷く。
「もしかしたら、世界にいるすべての種族から血を分けて貰って人工的にではなく自然に生まれてきた存在なら、聖唖くんのような美しい存在になるのかもね。だからそういう実験も始めることになったんだ。彼の目は、君にあげるね」
そう言った途端、翡翠の目の男が扉から入って来て、くり抜かれたのだろう綺麗に洗われた赤い両目をトレーに乗せて持ってくる。
口の中に無理やり押し込まれ、ゼノは抵抗すれば拷問は免れないと、目をぎゅっと瞑り、それを噛み潰した。
「よく噛んで」
次に、翡翠の目の男が運んできたのは、何者かの血液や肉片だった。
「この施設にいる操る者達や、ヒグナルから貰った兵器の舌や指だよ」
ゼノはそれらを咀嚼し、体内へ取り込みながら思った。
本当に、内側からの調整が始まった、と。
1ヶ月ほどが経ち、碧徒が別の施設へ行くことになり、実験は一時中断となった。
ゼノはチャンスだと思い、その間に逃げ出すことを決めた。
◇◇◇
ゼノはアリシアに脱出のことを伝えに来ていた。透過の力を利用しアリシアの部屋に入ると、彼女はベッドの上で眠っていた。
ベッドの横に座り、肩を揺すると、彼女の目が覚める。
アリシアは寝ぼけ眼でゼノの手を引っ張って自分の上に倒れ掛からせた。
「おい、いきなり引っ張るな」
「……何してるの貴方」
「お前が引っ張ったんだろ」
「退きなさいよ」
「まず手を離せ」
「…………」
「…………?」
「……はぁ、つまらないヒトね。貴方って」
「何の話だ」
少しくらい照れたりできないのかしら、とアリシアは考えやれやれと首を振る。
「そう言えば事件に巻き込まれたと聞いたが、大丈夫だったか?」
アリシアはその言葉を聞いてぽかんとする。
そんなアリシアを見て、ゼノは首を傾げた。
「貴方が私を心配することなんてあるのね」
「そんなの何度もある」
アリシアは目を見開き、そして俯く。
「…………そう」
アリシアはにやけた顔を隠しつつ、ゼノへ尋ねる。
「何か用があったんじゃないの?」
「あいつが他の施設へ行くことになった。その間に脱出しようと思う」
「そう。じゃあお別れね」
「本当に逃げる気はないのか?」
「ないわ」
「……分かった。それだけを伝えに来た」
「そう。ゼジにも伝えるの?」
「ああ。今から伝えようと思う」
「一緒に逃げようって誘わないの?」
「……あいつからの返事は想像がつかない」
「だから怖いって言うの? 最後なんだから試してみるべきよ」
「そうだな。お前達のせいでひとりぼっちは寂しいと気付いたし」
「貴方がそんなこと言うなんて意外だわ」
「お前達のせいだ」
「あら。私達のおかげよ」
ゼノはフッと鼻で笑い、手を横に広げる。空間がひび割れ、青紫色の渦が出来、黒い雷を纏いながら広がっていく。
「そ、それ、なんなの」
発生した風に、アリシアの髪やスカートが揺れる。
「透過の能力を自分なりに調べた結果、オレは空間を歪めて移動していたと分かった。そしてその力を最大限まで使った結果が、これだ」
「空間と空間を繋いだのね。ワープできると言うこと?」
「そう言うことだ」
「それで脱出する気なの?」
「ああ」
ゼノは返事をすると、空間に出来た巨大な穴の中へ消えていく。
「脱出が成功したとしても、これで会いに来る」
「……ええ。待ってるわ」
ゼノが地下室へ戻ると、ゼジは窓の外からその様子を眺めていた。彼の前で訓練している時、この技を何度か見せているが、一度も驚くことはなかった。
ゼノが手招きすると、彼は扉へ向かい、部屋に入って来る。
「どうかしたのか?」
「あいつが施設を出る日、逃げようと思っている」
「そっか、じゃあとうとうお別れだな」
「…………」
ゼノはそれを聞いて、やはり返事を聞くことが怖くなった。ゼノはアリシアの【最後】という言葉を思い浮かべながら勇気を出して言う。
「一緒に……」
「ん?」
「一緒に逃げないか」
「それは無理だよ」
「…………」
返事が早くてゼノは思わずゼジの両頬をつねる。
「いひゃいいひゃい」
「どうしてだ」
ゼノが手を離すと、ゼジは両手で自分の頬をさする。
「俺はいつ死んでもおかしくない身体でね。ボスがいないと生きられない。だから、お前と行ったらいつか死ぬ。だから、一緒には行けない。だから、一緒にはいられない」
「……そうか」
「外に出れば大勢の人がいる。お前みたいなのを保護してくれる組織だっている。安心して脱出しろよ」
「オレのこの力で必ず会いに来る。お前を助け出す方法も探してやる」
「そりゃどうも。ありがとう」
ゼノがこくりと頷くと、ゼジは休憩の時間だと部屋を後にした。
アリシアもゼジも一緒に逃げる気はないらしい……いや、一緒にいたい、一緒に逃げたいとは思っているのだろうが、勇気を出すことが出来ないのだろう。
ゼノは彼らを無理やり連れていこうとは思わなかった。いつか勇気が出た時、迎えに来ればいいと思った。
0
あなたにおすすめの小説
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる