リクゴウシュ

隍沸喰(隍沸かゆ)

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ディノル

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「いやはや私も驚きました。ローストを発見したので持ち帰ろうとしたら、死体が目覚めて追い駆けてきたのですから。今なら分かります、あれはゾンビと言うものなのでしょう。そしてゾンビは未だに私を狙っているでしょう。見つかればひどい目に合うでしょう。ですから私は町から去ることにしたのです。美しい妹と愛らしい弟を連れて」
「無能どころか、足手まとい」
「おにーちゃんあしれまとい」
「許してください! 次の町では美味しいご飯を買ってあげるから! さ、早く上着着て。撒けたと思うけど目撃情報を集められたらどーしよーもないしな。アイツ商人だし顔は広いだろうし。俺がこの辺に住んでることは即バレるだろうし」
「なぜ? 大人とは関わらないようにしていたはず」
「アイツ以外にもいろいろ盗んでるからなぁ。そいつらに目を付けられててもおかしくない。中の様子が見えないから警戒してたんだろうけど、複数人で結託すれば来ちゃうだろうからな」
「なぜ警戒する必要があるの? 私たちは子供でしょ」
「中に大人がいるかもしれないからだよ。どこかのグループの一員かもしれないって警戒するの。諦めるしかないの。せっかく大きな拠点見つけたのになー。子供だけだってバレたら何もかも持ってかれちゃう」
「まったく。これで何度目? やっぱり軍に戻った方がいい。せめて成長して鍛えてから逃げればよかった」
「確かに。武器とか盗めたかも。いいややっぱりだめだ! お母さんもお父さんも戦争の道具にされた、アイツらは、敵軍に捕まったお父さんたちが悪いって助けに行かなかった。お父さんたちはアイツらに見殺しにされたんだ! 軍に殺されたようなもんなんだ! あんな所にいたら皆死んじまう!」
 軍は決まった年齢を超えれば訓練させて戦闘員に加えるように強制している。あそこで生まれた子供達は生きると言うことはそう言うものだと、戦うことこそが生きることだと教えられる。こいつらには言ってないが、その年齢を14歳に下げてきた。これからもどんどん下がるだろう、それなのに俺たちは歳を取ってその年齢へと近付いていく。
 なんで縄張り争いなんかに巻き込まれなきゃならないんだ。縄張りも何も地球人は滅亡しかけてるんだから、土地なんていくらでもあるのに。
 大勢で力を合わせて戦争だと?
 大勢で力を合わせて復興作業に取り掛かった方が生き残れるのに?
 畑を耕して、動物や魚を育てて食べる。住処にも食べ物にも困らない。昔の人はそんな暮らしをしてたんだから。俺たちだってできるはずだろう。
 何十年も戦争するより、何十年もかけて平和な暮らしを取り戻そうとした方がいいのに。
 ユヤも俺が生まれる前に落ちたらしいし、一方的な破壊行為をされることはない。例えそれが一時的な安心だったとしても、今だけでも一瞬で焼き尽くされることはないんだ。
 軍の人が、ユヤの中は人も物もない、空っぽだったって言ってた。何百年も前の都市らしい、崩壊した町や焼け焦げた大地はまるで現在の地球、いやその未来の状態かもしれないって。
 夜には蛍のような緑の光が飛び交い、名前はつけられたが、その正体が何なのか分かっていない。正に未知の空中都市だ。未知が多すぎて、恐怖しか感じられない。皆気味悪がって近づかなくなったと言う。
 これはユヤが落ちた時の話だから、もう何年も前の話だけれど、現在もユヤに人は近づいていないだろう。化け物や宇宙人が住んでるなんて言ってる人もいる。ばかばかしい。子供でも信じないぞ。まあ俺もユヤには近づきたくないけどね。やっぱり不気味だし。
「……いいから、はやく準備しろ」
 守るつもりで軍から逃げ出したけれど。食べ物もない住処もないっていうのは、小さな子供には毒だ。そんなことも分かっていなかった。
 ただ、両親が帰ってこないことを知らされた時、両親は助けてもらえないんだと、見捨てられたんだと知った時、恐ろしくなって逃げ出した。
 いつか自分達も同じような死を味わうことが怖かった。
 だから逃げ出した。
 でも逃げ出した先はもっとひどい。餓死しないだけ、軍の方がマシだったのかもしれない。
 ……俺だけ、逃げれば良かった。
 5歳と2歳の子供を連れ出して、巻き込んでしまった。
 軍には信頼できる大人もいた。こいつらはその人たちに任せて良かったのに。
 ……俺の勝手で、苦しんでいる。
 今からでも戻るか? 今なら戻れるんじゃないのか?
 こんな世界だからこそ、戦える力は身に付けた方がいいんじゃないのか?
「――何をしてるの。行くんでしょ? もう準備は終わった」
 楽ドがハッとして声のした方へ振り返れば、ラ矢が隙間の外から楽ドの様子を窺っていた。
「え。はや」
「そんなに荷物ないでしょ。準備もしないで飛び出したのは誰」
「うぐ。ごめん」
 楽ドが外に出ながら謝れば、ラ矢が顔を顰めて後ずさる。
「…………き、気持ち悪い」
「え!? 何で!? そんなガチの反応されるとお兄ちゃん傷つくどころか驚く!」
「素直に謝ってくるなんてもはやバカあにじゃない。変」
「失敬な! お兄ちゃんは素直の塊だぞ!」
「お兄ちゃんぶるのはやめて欲しい。あなたに兄は似合わない」
「どう言う意味でしょう!? とても頼りになる兄でしょう!?」
 住処や食べ物に困ることはあるけれど、それらを見付けられなかったことはない。
 ……まあここまではうまくやって来てるんだし。住処と食べ物が手に入って、戦う必要がないのなら、こっちの方が安全なのかもな。となると、戻る必要は……ない。
 軍はやはり、危険だと思う。
 もし戻って、取り返しのつかないことになってしまったら?
 今が辛いからってまた逃げ場所を探していたら、切りがないじゃないか。
 もうお母さんもお父さんもいないんだ。
 この世界のどこにもいないんだ。
「ほらほら、君たち。お兄ちゃんと手を繋ぐんだ。すぐうろちょろして迷子になるんだから」
「鵺ト、バカ兄と手を繋いで。足手まといの兄の手を引いてあげないと」
「はーい、て」
「おーえらいえらい。後半は聞き流して正解だ」
 こいつらを守れるのはもう、俺しかいないんだ。
 離すもんか。
 離してたまるか。
 俺はこの手を絶対に、離さない。
 ――そう決意したその時だった、ザっと、背後で砂の擦れる音がする。
「見つけたぞ。ガキぃ」
 振り返れば、複数人の大人たちが瓦礫の上にまばらに立って、俺達のことを見下ろしていた。各々手には鉄パイプやナイフ、ピストルなどの武器が握られている。
「おやおやぁ。可愛いお仲間がいるじゃないか。予定より3倍は楽しめるなぁ」
 楽ドはスタートダッシュのポーズを取り、勝手知ったる瓦礫の道を全力疾走した。

「――君たち、自力で着いて来なさいッ!!」

「――――おいバカ兄!? ひとりで逃げるな!?」
「―――ばかーに! てー!」

「――バカ姉に引いて貰いなさい!」

「待てコラバカ兄いいいいいいいいいいい――――ッ!!」
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