リクゴウシュ

隍沸喰(隍沸かゆ)

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ディノル

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 俺たちが最近までいたのは武軍の領土だった。なぜなら、武軍こそが俺たちの生まれた軍隊であるからだ。
 両親は武軍に生まれた軍人だ。祖父母がどんな人であったかは知らない、おそらくその時代にも既に軍隊は存在していたはずなので祖父母も軍人である可能性は高い。
 武軍の基地から逃げ出してすぐの町はもちろん、彼等の領土――支配圏――なのである。彼らの支配下にない町へ出る機会は今までに何度か訪れたが、もしかしたら戻った方がいいのかもしれないといつもいつも考えてしまって、決心出来ず。ずっと支配圏に留まっていた。
 でも今回は違う。もう戻らないと決心した。もうあそこに待っている人はいない、俺たちが戻るべき家ではなくなったのだ。
 だから俺たちは武軍の支配圏を出て、南栄軍の支配圏との境界、どちらの支配圏でもない町、中立の町の一つである桜ヶ丘さくらがおかに移動してきた。
 崩壊した町中で移動できる最大の乗り物は中型バイクくらいだ。もちろん遺跡として残るしかないバスや電車なんかの交通手段はない。今までいた町――田上たうえから、崩壊後何の手入れもされていない荒れ果てた町を上ったり下ったり迂回したり走ったり歩いたりを繰り返して横断し、6Kmほどの距離を5時間以上掛けてやってきた。腹を空かせた子供にとっては、なかなかの長旅だった。もちろん休憩を含めて進んだが、足が付かないよう、そして人に会わないよう、また物を買うこと等も避けたので精神的疲労も相まって既に三人共魂が抜けかかっている状態だ。このままだとただの入れ物になってしまう。
 楽ドはいつもどおり人気のない適当な建物を見つけ、その中の瓦礫に入れそうな隙間を見付けてラ矢と鵺トを入らせる。
「座れそうな瓦礫はあるか?」
「だめ。全部ガタガタ。ひとつは尻を刺しに来てる」
「女の子が尻なんて言わない。せめてお尻と言ってくれ。椅子平らな石探してくるから荷物置いて燃やせそうなモノ探して。もう九月だからな。寒くなるぞ。鵺トは地べたにおすわりしとけよ。危ないからその辺のモノに触るなよ? 食べ物と布団代わりの布はお兄ちゃんが用意するから。あーダンボールでもいいか。被れるし燃やせるし食えるし」
「それは誰に食わそうとしてるの? 自分?」
「いやもちろん君たちだけだよ。お兄ちゃんは食べなくても平気だから」
「死ね」
「こら! それはとても教育に悪い言葉です! 鵺トが真似したらどうするんですか!」
「こらーしねー」
「ほら教育に悪い!」
「きょーいちにわるいー」
「うん言葉としては成立してる気がする。えらいえらい!」
「そうやって間違ったことを正さないで褒め過ぎるから、鵺トがバカのままになるんじゃないの」
「こら、かわいい弟をバカ呼ばわりしない!」
「よばあいしない!」
「こいつバカだなー」
「おいバカ兄?」
 楽ドは椅子になりそうな瓦礫――彼らは椅子石と呼んでいる――を発見したので引きずったり転がしたり滑らせたりして運んでいく。
「ほら、これどうだ?」
「少し大きくない?」
「鵺トと二人で座れるだろ? 前より中が狭いから一個で済む方がいいしな。俺の分のちっちゃいのも見付けてくる。寝られそうなスペースある?」
「ない」
「んー寝るようの隙間探しとくか……もしなかったら鵺トをラ矢の上に乗せて川の字で寝よう」
「おいバカ兄?」
 楽ドはちょうど良い大きさの自分用の椅子石を見付けて運び、ラ矢は集めた燃やせそうなモノを中に運び込む。それを鵺トに並べさせるあたりに姉と弟の上下関係が築かれていっている気がする。あれは意識してやってるのか? やってなかったとしても恐ろしい。
「椅子石探してる合間に寝れそうな隙間も発見したぞ。俺は買い物行ってくるからお前等は休んでていいぞ。疲れただろ? そっち行く?」
「ううん。ここで寝る。荷物あるから」
「火は? つけるか? 寒い?」
「上着で充分。それに寝るとなると火から離れるスペースがない」
「わかった。じゃあ行ってくるな」
「おにーちゃ、いらっしゃーい!」
「かわいい! えらい! いい子! 行ってきます!」
 楽ドが隙間の出入口から去って外が静かになってから、ラ矢は小声でつぶやく。
「………………………………いってらっしゃい」
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