リクゴウシュ

隍沸喰(隍沸かゆ)

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ディノル

33 ※BL?あり

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 稲が楽ドにキスしたその夜。
 ゼルベイユは、起きて周囲の街を散策していた稲の元にやって来た。
「ゼルベイユ」
「君に名前を呼ばれるためにどれだけ苦労してきたか……」
「何を言っている?」
「君の為に色々なことをしてきたのに」
「言っていることが分からない」
 ゼルベイユは稲の頬に長い指を這わせ、顎を掴む。顔を近づけ、唇同士を重ねようとして胸を突き放されて拒絶される。
 稲は逃げるように去ってしまった。



        ◇◇◇



 その次の日、楽ドたちは春日軍と武軍の中立の町・照国町に着いていた。
 春日軍が昔支配権を示すために作ったと言うブランコとコンクリートマウンテンのある公園を秘密基地として行動することとなった。
 ベッドを人数分運ぶのはさすがに出来ないので、初めてベッドで寝た日以降は寝袋を持ち歩いていた。ちびっこ達は1つで二人は寝られるので8つ持ち歩いていた。なかなか重量があるが大人三人とゼルベイユ、チビ――稲――が怪力なので運べている。ちびっこ達は、奏と幡多、ラ矢と鵺ト、カナタと稲、楽ドで寝袋を使っていた。しかし、朝を迎えた楽ドの寝袋には稲の姿があり、楽ドは盛大に驚いた。「きゃあああああああああ!?」と悲鳴をあげる。それが毎朝の目覚まし時計となり、皆目を覚まし、誰もつっこまずご飯を作り始める。
「なんで皆ナチュラルにご飯作り始めるの!!」
「楽ド……」
「いいから離れてなさい」
 背中にぎゅ~とくっついてくる稲に振り向きつつ楽ドが言う。離れたと思えば前から抱き着いてくるので楽ドは真顔になる。しまいには顔を近づけてくる始末。
「きゃああああああ!? 女の子じゃなきゃダメなのおおおお!!」
 全力で拒絶する楽ドに、稲は涙目になる。「うっ」と楽ドは申し訳ない気持ちになるのを抑え込み、「うおおおおおおお」っと地面にタックルした。「何してんだ、あいつバカなんじゃねえの」と光陰が言う。チビたちも「バカなんじゃないの~」と復唱した。
 しかし、楽ドは稲からの好意に優越感を覚えていた。人間最強で誰よりもかわいいあの子に好かれてしまったと。だが拒否は続けるつもりだ。
 稲はゼルベイユから隠れるように楽ドの背中に隠れてその日を過ごしていたが、ゼルベイユは普通に稲に接している。楽ドはそんな彼を見て、顔面が整えられているゼルベイユに照れているのかと思って、ちょっと、ほんの少しだけもやっとした。
「凄い顔」
「すごいかお~」
「すおいかお~」
「すごいかお……」
 ラ矢の言葉に奏が続き、鵺トが続き、カナタが続く。仲良しか、と楽ドはつっこみながらも微笑ましく思った。
 1日3回の狩りとご飯も無事に終わり、夜になってドラム缶風呂に入って、みんなで寝巻に着替え寝袋を川の字に敷き眠った時だった。
 ゼルベイユは一人だけ起きて、稲の様子……寝顔を眺める。稲の寝袋から投げ出された手に一匹の蚊が止まったのが見えた。血を吸った蚊はみるみるブクブクと太り、ピンク色の芋虫に目玉が三つ付き、背から羽が生えたような姿になる。
 ゼルベイユはそれを見て目を見開いた。虫がどこかに去る前に、緑龍子の光を放つ試験管を取り出し、その中に虫を捉える。虫をじっくりと見た後に呟いた。
「君になれる……」
 ゼルベイユは稲の頭側に立ち、地面に膝と両手をつく。稲の顔に彼の顔が近づく。瞬間、ゼルベイユの喉ぼとけにナイフの刃が当てられた。稲の手にナイフは持たれている。ゼルベイユが身体を起こすと、稲は髪と同じ色の長い睫毛を震わせ、目を擦りながら上半身を起こす。目が覚めたようだ。稲は無造作に立ち上がり、カナタに寝袋を被せてから楽ドの寝袋に近づいた。入る前にゼルベイユの存在に気が付き、ゼルベイユが眉間にしわを寄せて言う。
「話したいことがある」
 夜の町を二人で散歩し、緑龍子の舞う広場へやって来た。瓦礫はなく、綺麗に状態が保てている場所だ。星々のように舞う緑の光を見て、稲が呟く。
「綺麗だ……」
「そうだね」
「話とはなんだ?」
「君は研究対象だ。見本の保管カプセルから出てきてくれた」
「……?」
「君が化け物を作っているんだよ。君の存在に惹かれた誰かさんが君をつくるためにディーヴァと言う存在を生んだ。叫ぶ者が歌でイダと呼ばれる力を操ることが出来るように実験された結果が奏ちゃんやラ矢ちゃん、鵺トくんだ」
「そんなこと知っている。何が言いたい」
 ゼルベイユはため息をつく。その様子に稲は顔を顰めた。
「君は人間じゃない。僕は人間をやめて君の隣に立ちたいんだ。変かな」
 ゼルベイユは眉を寄せて問いかけるように笑った。稲はそれを見てゼルベイユよりも困ったように、泣きそうになりながら言った。




「何だって?」
 ゼルベイユは驚くようにその言葉に反応した。目を見開き、酷く傷ついたような表情をする。
「ああ……なるほど。そっちだったか。でも無理だよ。君は化け物だ」
 稲はそれを聞き、今にも泣きそうだった顔を歪めて泣いた。
「人間になりたい……」
歪んだ顔も神秘的で美しい。その表情に見とれるゼルベイユは優越感を覚える。ゼルベイユは稲を抱きしめて安心させるように微笑みながら言った。
「僕は君になりたいよ。そうすれば君の傍にずっといれる。一人だと思ってほしくないんだ。僕は一人ぼっちだったけど、君がいてくれたから幸せだった。君にもそう思って貰いたい」
 稲は顔をくしゃくしゃにして首を振る。
「分からない」
「君を愛してるんだ」
 稲は呆気にとられる。そんな稲の隙に付け込み、ゼルベイユは稲の首筋に、手に取っていた注射を刺した。稲は力が抜けていき、ゼルベイユにもたれ掛かる。
「分からないなら感じて。私に身をゆだねて。―― イナくん」
 ゼルベイユが稲の服を脱がしていく。稲は酷く焦り、恐怖を感じた。稲の脳内では楽ドの名前が呼ばれ続ける。助けてと。
「理解、で……きない……」
 稲はそう言い、力を振り絞って、自分の露出した胸に顔を近づけていたゼルベイユの頭のてっぺんに肘を叩き落とした。ゼルベイユは地面に顔面を打ち付け、白目をむき気絶し、仰向けに倒れ伏す。稲は泣きながら、身体を震わせながら、走って逃げた。白い息が夜の町に消えていく。肌を突き刺す寒さが恐ろしかった。
 日の光が地平線から姿を現した頃、稲は基地に戻ってきた。稲は楽ドの寝袋に入り、彼にしがみつくようにしてすすり泣いた。
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