リクゴウシュ

隍沸喰(隍沸かゆ)

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ディーヴァ

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 声に魅了されぼうっとしていた奏は、その言葉に反応して、立ち上がろうとして頭を打つ。
「ま、待って!」
 外に出た時には、もうその人はおらず、カナタとミドノが瞠目してこちらを見ていた。
「そ、奏? どうしたの? さっきの人知り合い?」
「う、ううん。少しだけ、気になって」
「気になった? 何故だ」
「声が美したかったからよ」
 貴方たちと違ってね。
 そりゃ、聞く人によってはかっこいいのかもしれないけどさ。
 私は声なんてあんまり意識したことがなかったし、でもあの人の声はまるで身体自体が声で出来ているような存在感があった。
 まるで二人とは違う。
と、奏はカナタとミドノに視線を投げる。
 カナタは目で人を殺しそうなほど道の先を睨み、ミドノは見ただけで震え上がってしまうような冷たく鋭い目付きで、恐らく青年の行った方向を睨んでいた。
 ――そんな顔、見たことないんですけど。
「そ、それにしても、お兄ちゃん来ないね」
 二人はパッと表情を変える。
「そうだな」
「忙しいんじゃないかな?」
 カナタはいつもの無表情で、ミドノはにっこりと微笑む胡散臭い笑顔。
 これが今まで普通だったので、奏は、元に戻った、と思った。
「にしてもここ、人通り少ないよね」
 ミドノがにこやかに言った。
「人を殺してもバレないくらいだな」
 カナタが清々しいほど冷たく言い放ち、袖から何かを取り出した。
「もう、何言ってるのよカナタ」
 それは私のセリフだKUSOGAO共めと奏が思った時だった。
 カナタが奏の前に立ち、距離を詰めてくる。
「か、カナタ?」
 奏は真っ赤になって後ずさる。KUSOGAOだとは思ってきたけど近寄られたらマイる。
「奏、お別れだ」
「は?」
 ドンッと、奏の胸をカナタの拳が叩いた。胸を引き裂くような痛みが奏の身体に生じた。
 ドロリと、生暖かい液体が胸の間を流れ落ちていった。
 鉄の匂いと、奏の中に氷のように冷たい感覚が残った。じくじくと、その周りを痛め付ける。
「か、なた?」
 奏の胸の中に、カナタの持つナイフが立っていた。ズブズブと、押し込まれ、奏は口から血を吐き出す。
「奏。死んでくれ」
「なに……これ、夢?」
 あの夢の、つづきだよね?
「あはは。何言ってるの奏。現実と夢の区別も付かなくなっちゃったの? おバカさんで可愛いなぁ」
「み、どの……?」
 ミドノの手がカナタの手に重ねられる。ミドノの手首がくいっと回され、奏の胸の肉を抉った。
「きゃああああああッ!!」
 奏は素早く後退し、ナイフから逃れる。
 奏は無我夢中で自分の胸を押さえた。
 血液は手にねっとりとくっ付いてくるものの、その先に傷口は見付けられず、奏は自分の身体の不可思議なことに震えた。
「な、なに、なんなのこれ。傷がない」
「やっぱり死ななかったか」
 カナタの冷たい声が鼓膜に響く。
 今はあの青年と同じくらい、存在感のある声だった。
「だから俺に殺らせろって言ってるのに」
 と、ミドノがカナタのナイフを奪い取る。
「奏。大丈夫、俺が幸せなまま殺してあげるから」
「な、に。言ってるの」
「分からないの? 大丈夫。今から教えてあげるよ」
 ミドノはナイフに着いた血液を舌で舐め取ると、すぐに奏に向かって飛び出してきてナイフを掲げた。
 太陽の光に煌めくナイフが恐ろしくて、奏は身体が動かなくなり、そのナイフを心臓に受けた。心臓の鼓動は速まり、ナイフが抜かれると傷口がぶくぶくと泡を立てて一瞬にして塞がった。
 奏は破けた服と血液と、痛みの感覚、体内に入るナイフの感触だけでしか、親友二人の敵意を感じ取れなかった。
 信じられなかったのだ。
 夢がまさか現実になるなんて。
 奏は必死だった。
公園から飛び出し、走って逃げた。
 後ろから迫る空気が絶望の闇のように感じる。
 奏の足は昔から早かったが、ミドノもカナタもどちらも奏に追いつける程には早かった。
「奏、待ってよ」
「逃げるな」
「うるさい話しかけないで!」
 奏は彼等と過ごした日々が頭に過った。
 自然と涙が溢れてくる。
 奏は歯を食いしばりながらその涙を拭った。
 奏は少しずつ距離を離し、順調に逃げられていたが、カナタが銃を取り出し狙いを定め。
 足に弾を食らってしまった。
 奏は地面に倒れ伏し、痛みに悶える。
 傷が治り、その痛みがなくなり、這いつくばって逃げようとした時、背中にミドノの足が乗せられ、再び地面に倒れ伏した。
「奏見て見て、俺も持ってるんだ!」
 ミドノは銀色の銃を取り出して、何度も何度もトリガーを引く。
「あはははははは、はははははははははは!」
 高笑いしながら、奏の背に銃弾を食らわせた。
 奏の背は幾度も撃たれる弾にぐちゃぐちゃと音を立てて破壊されていく。それでも少しずつ再生していくが、貫通せずにまばらに重なる鉛玉が体内に残る。
 奏は血液を口から零しながら、ミドノの足の下でもがいた。
「まだ生きてるの、しぶといなぁ。ゴキブリみたい」
「次は俺が殺る。どけミドノ」
「や~だね」
「ミドノ!」
「カナタぁ。俺の邪魔しちゃダメだよね?」
「……っ」
 ミドノの眼光がギラリとカナタに向けられる。カナタは無意識に後ずさる。
カナタは大人しく自分の順番を待ち、奏の哀れな姿を見つめることにした。その目には憐れみなど宿ってはいないが、カナタの拳は力を持て余し震えた。
「か、なた」
 奏が名前を呼べば、銃を構え、彼女の言葉を待つ。
 奏は自分を憐んでいた。
どうしても、自分はバカにしかなれないのだと責めていた。
「たす、け」
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