リクゴウシュ

隍沸喰(隍沸かゆ)

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ディーヴァ

17

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 KTB第一基地は無人島の崖側に存在していた。
 4階滑走路に一機の姫存軍と書かれた小型船が到着する。小型船すぐにKTB隊員たちに囲まれ、銃を突きつけられる。その奥にはミドノの姿もあったが、彼は柱に背を預けて立っているだけで何もしてこない。小型船の中にいた人物は、両手を上げて船の外へ出てきた。人混みが割れ、人の道ができる。少尉がやって来て言った。
「おかえりカナタちゃん。すまんが拘束させてもらう
 カナタは隊員たちに拘束され、また牢獄へ捕えらえる。
 地下2階の牢獄は古めかしく湿気も多く、虫も湧いていた。姫存軍とは大きく違う。
 姫存軍と書かれた小型船が戦闘機たちに迎撃されなかったのは、通信で自分がカナタであると話したからだ。
 しかし、ミドノによってカナタは裏切り者だと周知させられている。まったくその通りで反論すらできない。
 カナタは壁に埋め込まれた手錠に後ろ手に拘束されていた。
 牢獄へは何回か捕えた者を拘束しにやってきたことはあったが、すべて地下1階で済まされていたことだった。
 地下2階に来るのは初めてだ。確か、この階ではディーヴァの洗脳をしていた筈だが。
 まさか俺にも……。
 カナタはそう考えて身を震わせる。やって来たのは、翡翠の瞳の男だった。
 一見美しく見える瞳はじっくりと目を合わせると、泥濘に何度も顔を押し付けられるような感覚さえあった。ミドノの瞳に酷く似ている……。
 相手はカナタの拘束を解き、ヒソと名乗った。ヒソはカナタに口を休ませる暇もなく話しかけてくる。
 姫のことをどう思っているのか、ディーヴァとは自分にとって何か、自分達の信仰するべき対象は何か、生きると言うことに美しさがあるか、死こそが何よりも美しいのだ、と。
 彼の話は単純に聞こえて相当に難しかった。カナタは考えるうちに、考えることを放棄しようとしている自分がいることに気が付いた。
 そして彼の話を聞いているフリをして聞こうとしないように心がけ、後ろ手に隠し持っていた小型のピックで素早く拘束を解いた。
 小型船を降りる時から隠し持っていたのだ。
 話し続けていたヒソの声がピタリと止み、カナタはナイフを掲げて飛び掛かった。
 ヒソは身体を翻し、カナタのナイフを避ける。カナタはヒソが身を翻す最中に、銃に持ち替えて、ヒソに銃口を向けた。
「両手を上げろ。少しでも怪しい動きをしたら撃つ」
 彼は両手を上げなかった。むしろ近づいてくるではないか。
 カナタは迷わず弾を撃ちは放つ、しかし、は奏と比べるとかなり遅いもののその傷は修復していく。
 完全に塞ぎきる前に、カナタは最新兵器の銃に持ち替え、心臓目掛けて何発も打ち放った。
 相手が気絶している間に、カナタは牢屋のカギを開けて脱走する。
 カナタは基地の中にある青龍子のタンクのある部屋を占拠し、基地全体を破壊しようとするが。
 真っ暗闇の部屋の、両端に並ぶ光り輝くタンクの先に、明かりと大きな机と紙の資料が散乱している様を見て、その場所へ近づいていく。
 資料に目を通してカナタの指の力が抜ける。紙の資料は床にパラパラと落ちていった。
 床に広がった資料を眺め、カナタは涙を一筋流した。
 ぼうっと、光を映さない瞳で、机の上に残る別の資料を握りつぶした。
「ミドノ……」
「呼んだか?」
「……ッ!!」
 この資料は奴が置いたのか。俺が帰って来た時からすべて読んでいたんだ。いや、帰ってくることすら読んでいたのだろう。
 カナタはミドノに最新兵器の銃を向ける。向けはしたが、撃ちはしない。それが分かっているミドノはカナタの銃を持つ手を叩き落とし、地面に落ちた銃を足のつま先を使って遠くに離し、片手でカナタの首をひっ掴んだ。
「う……ぐっ」
「お前、俺を殺すために帰ってきたんだろ。何躊躇ってんだよ」
 カナタは少しの間もがいていたが、ミドノの腹に蹴りを入れ彼を遠退ける。カナタは咳き込んでから、ナイフを手に持つ。すると、ミドノは両手を広げてそれを待ち構える。
 カナタが瞠目していると、ミドノがまるで何もかもがどうでもいいかのように冷たく言い放った。
「ほら、チャンスだぞ」
「…………ッ!! ミドノおおおおおおおおおおおおッ!!」
 カナタはミドノに激昂し、ナイフを掲げて踊り掛かった。
 繰り返し突き出されるナイフをミドノは容易に避けていく。何故かその姿は雅で妖艶でカナタは悔しくなる。やけくそだった。ミドノはカナタの手首を掴み、反対の手でカナタの顔面に肘を打ち込んだ。カナタは後方にぶっ飛ばされ、地面に倒れ伏す。
 腹の上に足を乗せられ、カナタは腹這いになって床を爪で引っ掻き抵抗した。
 けれどもカナタは逃げることが出来ず、背にミドノの拳が降り注いでくる。カナタは雨に打ち付けられた水溜まりのように、凄まじい反動を受けて気を失った。それを、ミドノは丁寧に起こしてくれるのだ。ミドノはカナタの上から退き、ポンポンと、痛む背を叩く。
「ほら、起きろカナタ。まだ終わってないぞ。こんなんじゃつまんねえよ」
 ミドノが頭を鷲掴みにして振るえば、カナタは覚醒する。
「ミ……ドノ……」
「抵抗しろよ」
 カナタは朦朧としながら、自分では彼に勝てないのだと考えていた。何をしても、何を考えても、思考を止めてしまっても、勝てはしない。
「ミドノ……お前」
「言うなよカナタ。つまんねえ」
 ミドノはカナタの顔面を地面に叩き込み、カナタは意識を失った。
 目を覚ました時には、再び牢の中に閉じ込められていた。鉄格子の奥でこちらを見下げて、ミドノが立っている。
「ミドノく~ん!」
 その奥から、高い女の声が聞こえてくる。
「侵入者つっかまえたよ!」
 ミドノの同僚、ナナシと言う少女だ。灰色の髪と三つ編みが特徴の少女だった。彼女の後ろに体格のいい短髪の男も立っていた。顔や身体に幾つも傷跡が残るまるで幾千もの戦場を駆け巡ってきた戦士のような見た目だった。
 彼の名はシカソと言った。彼も同僚だ。
「あ~……なるほど。向かいに入れてやれ」
 ミドノはそう言うとカナタに向き直って言った。
「お前はここにずっといろよ。俺が奏を殺した知らせを受けられるのはここだけだぜ」
「ミドノ……!!」
 カナタが叫んだ時だった。視線が自然と動き、その姿を捉える。シカソの後ろに、手錠を嵌められたラドの姿があった。ナナシに銃口を向けられ、大人しく歩いてくる。
「ラドさん!?」
「も~お前を追ってたら捕まっちった~」
「軽ッ!?」
「いやぁ、牢屋まで追っかけてきたんだぞ? そしたらそこの二人が仲良く談話してて、楽しそうだったから俺も自然と会話に入ったら捕まっちゃって入れられちゃった」
 ラドは向かいの牢屋に入れられながらそんなことを言う。
「何してんだ」
 奏を任せれるのはこの人だけだったと言うのに。
 ミドノはそんな会話に興味はないようで、シカソだけ監視に残し、去っていった。
 カナタはミドノの背中を睨み付け、今になって奏の安全を誓った。
 必ずここから脱走して奏を守る、と。
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