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ヴァラヴォルフ
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その頃、集会に使用された建物の二階では上位の者達での会議が開かれていた。その中には長老の姿もある。
一人の男が口を切った。
「族長の件だが、私は躾様に後継して頂く他ないと考えている」
「駄目じゃ。あの方は父親の死に傷心していらっしゃる。それにまだお若い。まだ7つじゃ」
最初に主張した男が、ダンッとコンクリートの床を叩く。
「朱衄様は7つで亡くなられた! 一刻を争うんだ! 躾様は族で一番のやんちゃ者、討伐隊に指名されていないというのに、討伐へ向かおうとしたり、遊びだと言って地上へ出たり。未だ上には討伐の完了されていない成れの果てがうじゃうじゃいるというのに。彼がこの先ずっと無事でいられる保証はない! 今すぐにでも後継して頂き、族長として振舞っていただくべきです!」
「ほざけ。族長ってのは俺達を統率する最上位の者だ。幾ら躾の坊ちゃんでも無理があるぜ。あいつは確かにそこ等の大人じゃ敵わねえが長老や導様程じゃねえかンな」
長髪の巨軀の男が冷静に対応すると、隣の女顔の若者が長老を見て言った。
「なら長老がなられてはどうでしょう?」
「何言ってンだよ、爺さんの変身は四年に一度するかしねえかまで衰退しちまってンだぞ。なあ爺さん?」
「そうじゃの。儂にはちと荷が重い」
「――長老に無理をさせる訳にもいかないでしょう。しかし、」
長老の隣で押し黙っていた男が口を切る。白い布を口元に覆った、梅御の父、芽柳主だった。
「それでは、一体どちらを推薦するのです? 長老や導様と同格を求めるならば、一生決まりはしないでしょう」
「女神に協力を願おうと思っておる」
――長老の突然の言葉に、ざわっと周囲は騒がしくなる。
最初に口を切ったのは巨軀――胚邪だった。
「爺さん、あいつが力を貸して呉れるとは思えねえんだが」
「――じゃが、あの方は地上で暮らしていても感染しない唯一の存在じゃ。我々のこともよく知っておる。あの方がいなければ、この地下都市も見付からず、皆命を落としていたことじゃろう」
「確かに彼女なら……。導様に求婚されて格闘していましたし。導様が惹かれた理由も怒りで暴れていた彼を一瞬で打ちのめしたからだとか」
女顔――呿久の言葉に、周囲から「なんと」「あの導様を」「女神様なら」と彼女を賞賛する声が上がる。
「美しき女帝の誕生か? 導が振られたなら、俺はもう一度ぶち当たって見てもいいか?」
「毎回そう言いながら彼女に言い寄っている癖に。莫迦莫迦しい。貴様など半径50キロ地点で死体として上がるのではないか?」
「手前だって花束なんか持ってってたじゃねえか。討伐の途中によぉ」
「と、討伐中ではない! ちゃんと討伐後に祈りを捧げた後に――!」
「ちゃんと口説いてるじゃねえか! 万年発情期!」
「貴様が言うな! 兆年盛りマントヒヒ!」
「誰がマントヒヒだ! 俺は狼だ動物系の悪口は無しだ!」
「黙れ貴様にはお似合いだ! 狼を名乗るな!」
犬猿の仲の二人が喧嘩し始め、周囲の者達は其々に溜め息を吐く。こうなっては止められないのだ。彼等が若い頃は放っておいたら3ヶ月は喧嘩し続けていたと言う。歳を食ってからは5時間もすれば自然に止むようになった。5時間もだが。
「――大変です! 躾様が地上へ向かわれました!!」
突然扉が開き、若者が入ってくる。取っ組み合い、噛み合っていた二人が即座に振り向いて言葉を投げた。
「何!? それは誠か!?」
「こんな時に何してンだあの坊ちゃんは!」
二人の喧嘩が止んだ嬉しさに浸る訳にもいかず、呿久が神妙な顔で呟いた。
「一体どちらへ行かれたのでしょうか」
「んなの決まってらぁ、導んとこだ!! 如何する爺さん、坊ちゃんまで感染しちまったら俺達じゃ歯が立たねえぞ!」
「滅を呼べ、導様を倒したあの娘なら」
「ダメじゃ。あの子こそ傷心の身。一度家族を失った滅を家族として迎えられたのは朱衄様じゃ。二度も家族を失い、更にあの子は父親のように振る舞った導様を慕っていた。あの子にこれ以上負担を掛ける訳には行かぬ」
「滅だけで討伐した訳でもないでしょう。躾様と同格であった朱衄様が彼を弱らせたことで成し遂げられたことです。今出せば、あの子は確実に命を落とす。一人で帰って来られたのも奇跡です。あの莫迦息子が帰ってきた時は滅も亡くなったのかと心配しましたが」
「余り梅御を攻めるなよ。あいつは優し過ぎる上、人間だ。手前だってそうだ。知り合いの化け物があんな化け物らしくなっちまえば、誰だって腰が引く。俺達一族は使命感が強いからな。手前達を守るのも俺達の役目だ」
「……お力添え出来なくて申し訳御座いません」
「何言ってンだ。怪我をしたら治療して呉れる。腹が空けば血を呉れる。助かってるぜ」
「我々がイブリヴォルフに成らないのも、貴方方が素晴らしい案を提案して下さったお陰です芽柳主様。この猿は世話され過ぎですが」
「……ありがとうございます。胚邪様。稟終()様。そう言って頂けるだけで不安だった心が癒されます」
「稟終手前今悪口言ったよな、芽柳主さんもひでぇよ。ちったぁ否定してくれよ」
「貴方を助けられて我々は幸せです」
「アンタ美人なんだからドキドキするんだよ、やめろよ」
「は、はい……? も、申し訳御座いません……?」
憎まれ口ばかり叩かれている胚邪には芽柳主は苦手なタイプだ。褒められたり感謝されたりすると返す言葉がなくなりまごつく。
「貴様は芽柳主様といればいい。俺が女神に謁見しよう」
「殺すぞ。芽柳主さんに謝れ。俺は正常だ」
「発情していた癖に何を今更」
「してねえよ!」
「自分の股間を見てから言え」
「め、女神を想像してたらついだ!」
「公開処刑としよう」
「ちょっと! それ処じゃないでしょう!? 早く躾様を連れ戻さなければ!」
「俺が行く!」「私が行きましょう!」
「「…………」」
「「キエエエエエエエエエエ!」」
「二人で行け!!!!!」
――呿久が「私としたことが年上に対して何と言う口の聞き方……」と落ち込んでいる内に、二人は競争がてら飛び出して行った。
一人の男が口を切った。
「族長の件だが、私は躾様に後継して頂く他ないと考えている」
「駄目じゃ。あの方は父親の死に傷心していらっしゃる。それにまだお若い。まだ7つじゃ」
最初に主張した男が、ダンッとコンクリートの床を叩く。
「朱衄様は7つで亡くなられた! 一刻を争うんだ! 躾様は族で一番のやんちゃ者、討伐隊に指名されていないというのに、討伐へ向かおうとしたり、遊びだと言って地上へ出たり。未だ上には討伐の完了されていない成れの果てがうじゃうじゃいるというのに。彼がこの先ずっと無事でいられる保証はない! 今すぐにでも後継して頂き、族長として振舞っていただくべきです!」
「ほざけ。族長ってのは俺達を統率する最上位の者だ。幾ら躾の坊ちゃんでも無理があるぜ。あいつは確かにそこ等の大人じゃ敵わねえが長老や導様程じゃねえかンな」
長髪の巨軀の男が冷静に対応すると、隣の女顔の若者が長老を見て言った。
「なら長老がなられてはどうでしょう?」
「何言ってンだよ、爺さんの変身は四年に一度するかしねえかまで衰退しちまってンだぞ。なあ爺さん?」
「そうじゃの。儂にはちと荷が重い」
「――長老に無理をさせる訳にもいかないでしょう。しかし、」
長老の隣で押し黙っていた男が口を切る。白い布を口元に覆った、梅御の父、芽柳主だった。
「それでは、一体どちらを推薦するのです? 長老や導様と同格を求めるならば、一生決まりはしないでしょう」
「女神に協力を願おうと思っておる」
――長老の突然の言葉に、ざわっと周囲は騒がしくなる。
最初に口を切ったのは巨軀――胚邪だった。
「爺さん、あいつが力を貸して呉れるとは思えねえんだが」
「――じゃが、あの方は地上で暮らしていても感染しない唯一の存在じゃ。我々のこともよく知っておる。あの方がいなければ、この地下都市も見付からず、皆命を落としていたことじゃろう」
「確かに彼女なら……。導様に求婚されて格闘していましたし。導様が惹かれた理由も怒りで暴れていた彼を一瞬で打ちのめしたからだとか」
女顔――呿久の言葉に、周囲から「なんと」「あの導様を」「女神様なら」と彼女を賞賛する声が上がる。
「美しき女帝の誕生か? 導が振られたなら、俺はもう一度ぶち当たって見てもいいか?」
「毎回そう言いながら彼女に言い寄っている癖に。莫迦莫迦しい。貴様など半径50キロ地点で死体として上がるのではないか?」
「手前だって花束なんか持ってってたじゃねえか。討伐の途中によぉ」
「と、討伐中ではない! ちゃんと討伐後に祈りを捧げた後に――!」
「ちゃんと口説いてるじゃねえか! 万年発情期!」
「貴様が言うな! 兆年盛りマントヒヒ!」
「誰がマントヒヒだ! 俺は狼だ動物系の悪口は無しだ!」
「黙れ貴様にはお似合いだ! 狼を名乗るな!」
犬猿の仲の二人が喧嘩し始め、周囲の者達は其々に溜め息を吐く。こうなっては止められないのだ。彼等が若い頃は放っておいたら3ヶ月は喧嘩し続けていたと言う。歳を食ってからは5時間もすれば自然に止むようになった。5時間もだが。
「――大変です! 躾様が地上へ向かわれました!!」
突然扉が開き、若者が入ってくる。取っ組み合い、噛み合っていた二人が即座に振り向いて言葉を投げた。
「何!? それは誠か!?」
「こんな時に何してンだあの坊ちゃんは!」
二人の喧嘩が止んだ嬉しさに浸る訳にもいかず、呿久が神妙な顔で呟いた。
「一体どちらへ行かれたのでしょうか」
「んなの決まってらぁ、導んとこだ!! 如何する爺さん、坊ちゃんまで感染しちまったら俺達じゃ歯が立たねえぞ!」
「滅を呼べ、導様を倒したあの娘なら」
「ダメじゃ。あの子こそ傷心の身。一度家族を失った滅を家族として迎えられたのは朱衄様じゃ。二度も家族を失い、更にあの子は父親のように振る舞った導様を慕っていた。あの子にこれ以上負担を掛ける訳には行かぬ」
「滅だけで討伐した訳でもないでしょう。躾様と同格であった朱衄様が彼を弱らせたことで成し遂げられたことです。今出せば、あの子は確実に命を落とす。一人で帰って来られたのも奇跡です。あの莫迦息子が帰ってきた時は滅も亡くなったのかと心配しましたが」
「余り梅御を攻めるなよ。あいつは優し過ぎる上、人間だ。手前だってそうだ。知り合いの化け物があんな化け物らしくなっちまえば、誰だって腰が引く。俺達一族は使命感が強いからな。手前達を守るのも俺達の役目だ」
「……お力添え出来なくて申し訳御座いません」
「何言ってンだ。怪我をしたら治療して呉れる。腹が空けば血を呉れる。助かってるぜ」
「我々がイブリヴォルフに成らないのも、貴方方が素晴らしい案を提案して下さったお陰です芽柳主様。この猿は世話され過ぎですが」
「……ありがとうございます。胚邪様。稟終()様。そう言って頂けるだけで不安だった心が癒されます」
「稟終手前今悪口言ったよな、芽柳主さんもひでぇよ。ちったぁ否定してくれよ」
「貴方を助けられて我々は幸せです」
「アンタ美人なんだからドキドキするんだよ、やめろよ」
「は、はい……? も、申し訳御座いません……?」
憎まれ口ばかり叩かれている胚邪には芽柳主は苦手なタイプだ。褒められたり感謝されたりすると返す言葉がなくなりまごつく。
「貴様は芽柳主様といればいい。俺が女神に謁見しよう」
「殺すぞ。芽柳主さんに謝れ。俺は正常だ」
「発情していた癖に何を今更」
「してねえよ!」
「自分の股間を見てから言え」
「め、女神を想像してたらついだ!」
「公開処刑としよう」
「ちょっと! それ処じゃないでしょう!? 早く躾様を連れ戻さなければ!」
「俺が行く!」「私が行きましょう!」
「「…………」」
「「キエエエエエエエエエエ!」」
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