リクゴウシュ

隍沸喰(隍沸かゆ)

文字の大きさ
66 / 299
ヴァラヴォルフ

しおりを挟む
 孤島=ゼブラの最東端に位置する大クスの傍は、人間にもヴァラヴォルフにも唯一の絶景ポイントとして有名だった。
 大クスと言っても半分上は朽ちて地面に横たわり根本だけが大地に食いついている。空洞になった木の中には大人でも入ることが出来、付近で化け物に遭遇した時はそこへ身を隠す者も多かった。
 しかし、身を隠した所で、嗅覚で発見され。
結局奴等に貪り食われておしまいだ。
 巨木の中の安心感と、敵の見えない瑕疵は化け物達には格好の餌場として魅力があるらしく、大クスの周辺にはうじゃうじゃいる。
 絶景ポイントとして有名であることも確かだが、彼等の狩場として有名であることにも変わりはなかった。
 そんな大クスの根元にぽつんと小さな赤いモノがウロウロと蠢いていた。
赤いモノは自分の身体より倍以上もある太い根を這い上がって降りてはを繰り返し何かを探しているようだった。
巨木の存在とその小さな存在はまるで木の幹に蟻が一匹食べカスを探して彷徨っているように見えた。
 蟻はやがて目的のモノを見つけてやっとその前で足を止める。
 その後方から仲間達がやって来ていることに、彼は気付いていたらしい。
「躾様! 見つけましたよ……!」
「坊ちゃん、大クスの近辺は危ねえってあれほど――」
「――地上に上がってはいけませんとあれほど!」
「今は俺の番だ!」「今は私の番だ!」
 ぎゃーぎゃーと揉み合い出す大人の男二人を一瞥して、蟻――真っ赤な髪の少年が低い声で言った。
「うるせぇ」
 二人の男はその一声にビクッと肩を揺らし、掴み合っていた手を離す。
「帰りますよ。いつ化け物に見つかるか……導様はもう……」
「そうだぜ、坊ちゃん。こんなの、導なんかじゃあねえよ」
 嘗ての長の成れの果ての姿に二人の大人は動揺していた。しかし、躾と呼ばれた少年は首を振る。
「違え。これは元々親父じゃねえ」
「……な、何を。それはどういう……」
「毛の模様だ。親父は腹に少し白色が混じってた。でもこいつは全身真っ黒だし、何より体調が小さ過ぎる」
「病のせいで毛が抜けたのでは? 衰弱して痩せてしまわれた可能性もあります。導様でないとは断言出来ませんが、導様であるとも言い難い」
酷い腐臭と死後のウイルス感染者の独特な香りで鼻がひん曲がりそうだ、匂いでも全く判断ができそうにない。
「……違えよ。たぶん。そんな気がする」
 子供による身近な人の死がそう言わせているのだと二人は考えたが、躾は悲しんでいる様子も動揺している様子もない。
もしかしたら、本当にこの獣は導ではないのかもしれない。
 見た目では判断出来ないが、確かにこの化け物から導から感じた圧倒的なプレッシャーは感じられなかった。死骸だからだとも考えたが、何となく、自分達も彼が導ではないような気がした。
「……ですが、もし導様が生きておられるなら……一体誰が討伐するのですか。現在我々の中で一番力を持っているのは躾様です。躾様と同等の力を持っていた朱衄様も導様でないこの者の手でお亡くなりになられた……。相手が導様となると、我々全員で立ち向かったとしても軽くあしらわれる可能性もあります」
「だからあいつに頼むんだろ。その導の暴走をいとも簡単にいなした女神様によ」
「女神……?」
 躾は聞き慣れない単語に首を傾げてみせる。
すると、稟終が恍惚の表情を浮かべて自慢げに答えた。
「とても美しく聡明な方です。我々より格段に強く、彼女にはウイルスも感染しない。まさに神秘。優しいあの方を皆が女神だと崇めているのです」
「……女神」
 躾が興味を持った様子を見て、今度は胚邪が口を切った。いつもケラケラと笑い、ふざけたような男だが今は真剣な面持ちで躾に向き合っている。
「緊急会議でその女神様に次期族長になるように交渉しに行くことが決まったんだ。他の誰にも務まらねえって意見が一致した」
 族長であった導の後は本当ならその息子の躾が次期族長として仲間を守り、導かなければならない。
しかし、彼には族長としての実力が導に比べて全く足りていない。
 胚邪は言葉を選んだが、遠回しにそう伝えられていることに気付いて、躾は苦虫を噛み潰したような顔をした。
「その女神のところにはいつ行くんだ」
「ま、まだ決まってませんが」
 稟終は嫌な予感がしていた。
「このまま行くぞ。一刻を争うんだろ」
「躾様! たった三人では無理です! 私達が二人で来たのも貴方を見つけた後すぐに引き返すつもりで――」
 稟終が指を立てて幼子に注意するみたいに躾を諭している姿を見て、胚邪はやれやれと首を振ってそれに答える。
「――場所も聞かずにもう行っちまったけど」
「あああああもう躾様あああああああああああああッ!!?!?」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...