リクゴウシュ

隍沸喰(隍沸かゆ)

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カナキリ

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 ヒグナル・バルマディッジ──カナキリを捕獲し、政府や悪組織に売り飛ばす、売買組織の創造主の一人である。
 それと正反対にあるのが、能力協会だ。
カナキリを保護し、仲間として迎え入れる。そして力の使い道や、制御の仕方を教育し、少しでも不安を和らげるのが目的である。
 カナキリがまた人として生活できるよう、支援するのが能力協会だ。
「で、目的は分からずってかァ……」
 それを指揮するボスが呟けば、聖唖が返事をする。
「はい」
「幡多ァ、お前は何も聞いてないのかァ? 聖唖の先に聞いてたんだろォ?」
「聖唖がさっき言ってたように、奴には何らかの目的があって、それに利用する゙何ががあります。その〝何か〟が見つかったって言ってました」
「──今回の事件でカナキリが襲われたなら、その〝何か〟はカナキリでしょう。あいつは〝標的を間違えた〟と言っていたので、被害者と容姿が似ている可能性があります。写真に写っていたのは金髪の男性。服装は来聖学園の制服でした。奴等の〝標的〟は来聖学園の生徒かもしれない」
 ──聖唖、やっぱり凄いな。
 幡多は聖唖の推測に、ただ隣で感心するだけだった。そして、幡多はふと浮かんだ疑問を投げかける。
「じゃあ来聖学園に協力を願うのか?」
 それにはボスが答えた。
「無理だなァ~俺達は表向きの機関じゃァない。協力関係にはあるが、騒ぎになることは向こうも避けたいだろうからなァ……」
 幡多とボスが作戦を考えていると、「じゃあ……」と、突然、聖唖が切り出した。
「来聖学園に、教育実習生として潜入してきます。教師に扮したら学年が限られてきますが、実習生なら学年も教科も関係なく色々なクラスに行けるだろうし、動きやすいと思います」
 なるほど、と思い、幡多はその作戦にフォローを入れる。
「──それに加えて、聖唖の美貌があれば、生徒教師共にメロメロ! たちまち大人気になって情報も集められると思います!」
 ぐっと親指を立てる自信満々の幡多を見て、ボスは静かに頷き、聖唖を見る。
「聖唖、任せてもいいか?」
「はい、もちろん。絶対に見つけ出して見せます」
 どこか他人事のような顔をしている幡多に、聖唖がちらりと視線を向ける。幡多にちらちらと視線を注ぐ聖唖を見て、ボスは聖唖の言いたいことを察した。
「幡多、聖唖を援護してやれェ。お前も、捜索に協力してこい」
「つまり、俺も実習生ですか……?」
 問われた本人はそれに答えることなく、にやっと悪そうな笑みを浮かべて告げた。
「決まったな。必要なモノはこちらで用意しよう。学校には実習生として入れるように裏で手を回しておくが、正体がバレない様に気を付けるのだぞ。お前たちは準備ができ次第出発だ」
「「おっけ!」」
「返事はちゃんとしたまえ君等……」



        ◇◇◇



 あの日から3日が経つ。子林は3日間ずっと学校に顔を出していない。
 子林がいない学校は静かだ。天地がそう思ってしまうのは、学校で彼に話し掛けてくる相手は子林くらいしかいないからだ。
「昨日言った通り、今日から一週間、教育実習生の方が来ます。二名来ると聞いています、うちのクラスでも一緒に授業をしてくれますね、確か3時間目の授業に来てくださる……はず……です、それと…………」
 あ、雀だ……。
 雀は木の枝から、窓枠に飛び移り、そして。天地の頭の上に、ちょん、ととまる。そこで幸せそうに頬を膨らませてのんびりしだした。どうしようと考えている天地に、先生が声を掛けた。
「天地、学校帰り子林の家に行ってみてくれないか、お前の家が一番近いし、仲良かったよな?」
「分かりました」
 ……仲が良い……か。幼馴染ってだけなんだけどな。



        ◇◇◇



 ────1-E、金髪、カナキリはいない、なしだ。
 ────3-C、金髪、カナキリ、なしだぜ~。
 聖唖と幡多は、思考通信機──所謂テレパシー装置で情報交換をしていた。
 通信機を指輪にカモフラージュし、それを反対側の人差し指に当てると通信できるようになっている。他の指にもそれぞれ機能があるが、使う機会は少ない。
 ────つーかカナキリってどうやって調べるんだよ。普通に言っちまったけど……。
 幡多は3-Cの教室を出て、廊下を通り過ぎていく生徒にも目を配る。一方聖唖は女生徒が両側に列をなして並ぶ廊下にて、手を振りながら歩いている。いつもは浮かべない爽やかな笑顔を浮かべて。
 ────声が綺麗だ。それから、動物が近くにいたりすると、可能性が高いな。
 ────声が綺麗ってなんだよ……動物がいるってなんだよ……。
 幡多は呆れたように問いかける。現状、彼は呆れて額に汗を垂らしていた。いや、夏だからか?
 ────あとは…………耳鳴りがしたり、するな?
 ────もし、偶然、声が綺麗で、動物が傍にいて、耳鳴りがしたら、どうすんだよ。
 ────カナキリが近くにいるかもって思えばいい。ああ、そうだ、右手首にカナキリの音波を察知する装置があるはずだ。
 幡多は右手首を顔の前まで持ってきて、それを確認した。
 ────もしかしてこの腕時計か?
 ────音波を察知すると針が止まる仕組みだ。針が居場所を指してくれる。
 ────カナキリに向く方位磁針みたいなもんか、てか、こんな時計絶対いやだな。針止まるとか。
 ────それを見ればカナキリか人かまる分かりだぞ。
 幡多は腕時計を確認しながら、顔を顰める。
 ────何で声とか動物とか言ったんだよ。
 ────装置がない時使える情報だろ、覚えておきたまえ。
 ────おっけ。で、次はどこに行けばいい?
「次は1-Aだ。私も一緒に行く」
 背後から声がして幡多はバッと振り返る。
「な、何だ、いたなら声掛けろよ」
「今見つけたんだ」
 二時間目の休み時間で、廊下には生徒がいっぱいいる。特に聖唖を見に来ている女子が。幡多が手を振るが、彼女たちの視線は聖唖に釘付けだ。男子生徒まで見に来ている始末だ。
 ――潜入、一人で良かったんじゃねえの? と幡多は思う。
 生徒が多いからだろう、聖唖は指輪に人差し指を触れた。端から見れば、実習生たちが隣に並んでお揃いの指輪をいじっているだけだ。
 ――どんな状態だ……。と、幡多は指輪の機能を改善して貰おうと考える。――いや、せめて指輪じゃなくして貰いたいな。
 幡多が途中で指を外してしまったので、聖唖は幡多がそんなことを考えているなんて分からない。幡多は隣からの視線に気が付いて慌てて指輪に人差し指を添えた。
 ────幡多、次は注意しろ。カナキリの被害者の妹がいる。
 ────あれ? カナキリに血のつながりは関係ないんだろ?
 ────ある。今までずっとカナキリと暮らしてきたんだ。その癖生きている。目立った怪我もない。ヒグナルの所のカナキリ相手に即死じゃなかったのなら、兄は相当力の強いカナキリの筈だ。妹の無傷はまずありえない。それが人間だったらの噺だが。
 ────なるほど。ヒグナルのカナキリ相手にってのもそうだけど、標的に勘違いされるほどの力はあったみたいだし。もしその妹が本当に今まで無傷だったら結構厄介じゃねえか?
 ────だから、二人で潜入したんだ。
 ────でも俺っておまけだよな。ラ矢の方が良かったんじゃないか?
 ――――ヒグナルのことを知っている奴の方がいい。ラ矢はヒグナルの攫ったカナキリとなら接触したことがあるが、ヒグナル本人を相手したことはないからな。
 ――――それもそうか。
 ――――それにお前頑丈だろ?
 ――――まあ、それだけが取り柄だけどさ……。
 聖唖は中々のポーカーフェイスだが、幡多はコロコロと表情を変えて、危なっかしい限りだ。
 聖唖は右手首の、まだ正常な時計を見る。
「そろそろ移動しよう、休み時間もそう長くないだろう」
「そうだな」
 次の授業までまだ余裕はあったが、二人は急ぎ足で、次の調査現場へと向かった。
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