リクゴウシュ

隍沸喰(隍沸かゆ)

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バシリアス ※BL

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 3年後、咲路の愛が最高潮に達した時が来た。無事、羅聖は咲路の心臓を抜き取り、自分の心臓を彼に移植した。
 咲路は目を覚ましてすぐ、屋敷のダイニングキッチンに向かった。食卓に並ぶ自分の心臓を見て不思議な感覚に陥った。生のままなのか、血が皿いっぱいに溜められている。
 羅聖はさんざん心臓を愛撫した後に、ナプキンを首から掛け、ナイフとフォークを使い一口一口味わうように食していく。口の端から血が流れる姿が麗しかった。血抜きをし、焼いてはいるが、咲路も同じようにナイフとフォークを使いウサギの肉を食べていた。扱えずに結局丸かじりしていたのだけれど。
 咲路は自分の心臓を食べる弟の姿を眺めた。咲路は恐ろしさよりも喜びを感じていた。
 羅聖がその全てを食した時だった。羅聖はナイフとフォークを机に落とし、ゆらりと身体が横に傾き、地面に倒れ込む。
 咲路は一瞬呆けていた。
 いったい何が起きたのだと。
 しかし直ぐに弾かれるように席を立ち、咲路は羅聖に駆け寄る。彼は呼吸をしていない。彼は心臓を動かしていない。確かめて理解した。彼は死亡している。
「そんな……」
 まだ温かいままの羅聖を腕に抱きかかえる。
「嫌だ、嫌だ、いくな、いくな羅聖。一人にしないでくれ、俺を一人にするな、ずっと傍にいてくれ……っ」
 柔らかすぎる羅聖の身体を揺する。
「しっかりしろ、羅聖、羅聖!」
 彼は目を覚まさなかった。
「頼む、お前だけなんだ。目を開けてくれ。お前だけなんだお前しか信じられないんだお前しか愛せないんだ、お前しか要らない。お前しか要らないから目を開けて。俺を一人にするな。嘘つき。約束したじゃないか……俺の夢を叶えてくれるって言ったじゃないか。ずっと一緒にいてくれるって言ったじゃないか……っ! 目を開けろ、頼む、羅聖、羅聖……」
 ──羅聖はピクリとも動かない。
 何度呼び掛けても、返事をしない。手を握っても、抱き締めても、いつものように返してはくれない。死ぬのか、もう死んでいるのか、それともまだ生きているのか。
 分からない。分からない。
 羅聖は咲路に父から学んだ事を教えていた時、彼を天才だと褒めた。咲路はその時の事を思い出していた。
 本当にそうか?
 ならどうして死に行くお前を助けられない。
 俺は無能だ、未熟者だ。
 落ちこぼれのガキんちょだ。
 お前がいたからここまで来れた、お前がいたから天才になれたんだ。お前無しじゃ何をすれば良いのか分からない。お前がいないと必死になれない。
 一人にするな、広すぎる。
 ここは広すぎる。
 俺だけでは広すぎる。
 お前と屋敷で過ごしてきて、幸せだった。それはお前が隣にいたからだ。隣で俺を見ていてくれたからだ。俺はお前がいないと生きている意味がない。いっそお前の隣で一緒にくたばってしまおうか。
 ──嫌だ。嫌だ嫌だ。
 俺はお前ともっと長く生きたいんだ。もっと長く一緒にいたいんだ。こんなところでお前を死なせてたまるか。俺の心臓を食べた事でお前を死なせるなんて、そんな事許してたまるか。
 どうすれば良い。考えろ。失いたくないなら考えろ。
『ようは血を循環させられれば良い』
 ふと、彼の言葉が脳裏に過る。心臓について研究していた彼が言っていた様々な言葉の中の唯一理解出来た言葉だ。
 ──血が、循環……。
「……こいつの循環装置が停止したのか」
 考えろ。考えろ。止まったなら、動かせば良い。動かす為にはどうすれば良い。
「──循環装置の復元……修理。確か実験の記録をしていたな。修理についての説明書があるかもしれない。ダメだ、専門用語も何も分からない。何より羅聖ならすべて頭に叩き込んで処分しているかもしれない。あったとしてもまず解読する事にさえ時間が掛かってしまう」
 ならどうすれば良い。どうすれば良い。こうしている内に彼の身体がどんどん冷たくなっていく。冷たく……。
 冷えた彼の指先に触れながら、頭の中に再び彼の言葉が思い浮かんだ。
『冷凍だ。冷凍しながら作ったんだ。腐ってしまっては意味がないからな』
 ──冷凍。そうだ、冷凍だ。冷凍しよう!
「……手術室、まずは手術室に連れていく!」
 彼の膝下と肩を掴み、身体を抱き上げる。部屋を飛び出し、一心不乱に廊下を駆け抜けていく。こんなに走ったのは初めてだ。狩りの時は身を潜め、森の中は迷わぬように慎重に、体力も温存する為に軽めに走る。全力疾走などした事がない。
 そもそも、こんなに必死になった事すらない。
「それから、それから、冷凍室……っ」
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