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「やめてください、やめてください坊っちゃまああああッ!? 教授は旦那様より身分が高いお方なんですよぉお!?」
「そうなのか? 俺を処刑してくれ! さあ、処刑してやると言わないと水から出してやらないぞ」
「おごごごごごご!」
「水攻めの刑はやめてあげて下さい! ほんとどこで覚えたんですか!!」
 庭先の木に吊るされ、水たっぷりの樽に頭を突っ込む教授。縄を引けば上がり、縄を離せば樽の中にぽっちゃんの便利な仕組みだ。即興とはいえよく出来ている。樽の中でもがいているようだ。往生際が悪いぞ。さあ、墜ちろ。そして俺の頭脳となれ。
「坊っちゃま本当に死んじゃいますよおおお!!」
 怪力の召使いの手によって転生阻止されてしまった。何故君はそうして邪魔をするんだ。俺だけでなく教授にも。何故だ。
「いいかこれは転生なんだ、殺人ではない。履き違えるな」
 額に手をついてはあ、と溜息を吐けば、水から顔を出した髭教授が喚いた。
「な、何て言う子供だ!? 恐ろしい! 早く下ろしてくれ、帰らせてくれ。いや、勉強なら教えます、教えますからどうか命だけは!」
「何を言っている俺は勉強などしない、貴様が死んで俺の頭脳になればいいそれだけた」
「ひいいいイカれている! 私の助手はどこへ行った!?」
「助手の安否を気にするか。心配するな、相応のもてなしをしている。君が転生しても俺が責任を持って飼おう。今は立派な木に飾らせて貰っている。1本に一体。うちの召使も偶に飾られている。気にするな」
「お助けぇぇぇぇ!!」
「何故だ、楽しいぞ。貴様も現に楽しかろう。転生を感じる瞬間こそ舌に甘露が降ると言うものだ」
 教授は俺の話に賛同はせず、しくしく泣き出した。
「わ、私は今頃帰っているのに、屋敷に帰りついている頃だと言うのに。妻と子が私の帰りを待って。ううう」
「ふむ。家族がいるのか。そうなると話は別だ。頭脳に転生したからと俺が家族になることは出来ぬ。それに子がいるとなると要らぬ知識を得そうだな」
 樽を押し退ける。勿体ないから花壇の水撒きに使いたまえ。
「濡れているな。少しの間干されていろ。致し方ない、乾いたら室内に戻れ。教わってやろう」
 そう言って踵を返して窓枠に登り室内に戻る。召使いは残るようだ。
「…………私が教えてやる立場なのに」
「申し訳ございません。坊ちゃんの常識を叩き直してあげてください」
「下ろしてくれない?」
「乾いてからです」
 召使いもイかれている、と思った教授であった。





🌟🌟





 時を経て30分後。勉強机を挟んで向こう側の教授は項垂れている。服はメイドが簡単な魔法で乾かした。
「何だこの赤ん坊でも解けそうなしょぼい問題は。勉強してやると言ってやったのにこの態度か、なっとらん」
「し、しかし、君の年齢に合わせた問題で」
「俺は今18だぞ! 早く問題を寄越せ!」
「坊っちゃまは7つですが」
 教授は鞄の中を漁り、3枚ほどの紙を取り出した。
「18となると……一応ここに問題がありますが」
「何故あるのです?」
「夕刻に別のお屋敷へ行くのです。ご子息は今年で18になられる」
「ほう。同い歳か」
「坊っちゃまは7つですが」
 用意された用紙を見れば、何だこれは小学生レベルの問題か?
「オイ、バカにしているのか、この程度の問題習わずとも解けるわ」
「そ、そんな、滅相もございません」
「どうして坊っちゃまより身分のお高い教授が頭を下げることになるのですか……」
 召使いは俺の手の用紙を覗き込んできて「坊っちゃま、幾ら勉強がしたくないからと教授を困らせてはいけませんよ」なんて言ってくる。
「してやると言っとろうが。無能か貴様は」
「酷い……っ、教授! 坊っちゃまにはもっとレベルの低い問題を解かせてあげてください! 強がっているだけなのです!」
「バカを言え。こんなの即答レベルだぞ」
「ならこの問題の答えを上から言えますか」
「ああ言えるとも」
 全ての答えを口にすれば教授は口をあんぐり開けて石像になってしまった。メデゥーサは恐ろしいな。
「君は眼鏡を付けた方がいい」
「何です急に。私の目は悪くありませんよ」
 しらけた目を向けられた。隠したいのか、仕方がない、秘密にしておいてやろう。
「ほ、他にも教授を雇っているのかい?」
 髭教授の問い掛けには召使いが答える。
「いいえ、勉強はしたがらないのでいつもご立腹して帰られて……旦那様が詫びに行く日々です。やはりそんな子には簡単な問題を……」
「いや。せ、正解している。全て正解だ。まだ7つなのだろう。しかも誰からも教わっていないとは、どういうことだ」
「いやだから転生をだな」
 召使いの目が見開かれる。
「支離滅裂なことを言う坊っちゃまが全問正解したんですか!? 有り得ません! コレですよ!?」
「おいコラ。クビにすんぞ」
 何が何だか分からんな。
 おい悪魔。
『今風呂タイムなんだけど~そんなに覗きたいの~一緒に入る~?』
 いいから答えろ。どうせ見ていたんだろう。
 気のせいか、シャワーの音が聞こえる気がする。
『そりゃ君の世界じゃ勉学は随分と発展していたからねぇ』
 つまりゲームの世界では頭良さそうなインテリが出てきてもウンコみたいな問題しか解いていなかったと?
『失礼だなオイ』
 そもそも何と言うゲームなんだ。それとも漫画か? 有名所だろうな? 端に追いやられ過ぎたモブでここがどこかも分からんぞ。
『ああ、残念ながら君は3国隣の小国の辺境に住んでいるよ』
 何故だ!?
『いやだって君を世に出すとか無理だし。赤ん坊の頃から、母親の腕から落ちようとしたり、母乳飲まなかったり、赤ん坊の通常のおぎゃあ泣きじゃなくてアクヤクレージョーアクヤクレージョーと泣くわ』
 最近前世の記憶を思い出したのに、流石は俺だ。前世の記憶がなくとも前世の悪役令嬢愛があったのだな。
 しかし、せめて近くのモブになって傍観したかったな。
『まあまあ、どうせ魔法学園に入れば会えるよ』
 まあそうか。魔力持ちは皆集まるのだしな。
「教授は皇太子とも面識があると聞いたが?」
「それは私の兄ですね」
「無能だな」
「うぐっ」
『おい、何する気だ』
 そんなの決まってる、国が違うのなら訪れてしまえ。
『やめてくんない、君のせいで世界作り替える羽目になったんだから大人しくしててくんない?』
 バカを言え。例えどんな存在であろうと神ならば平等に扱いたまえ。
『お前がそれを言うか。さんざん転生させろと喚いていた癖に』
 よし貴様こっちに転生して来い。母が近々弟を産む。よし俺の弟になれ。
『何でだよ!?』
 弟ならこき使える。前世では弟をよく利用していた。
『姉あるあるだな。分かった、転生してやる。傍で君が悪さをしないように見張ってやろうじゃないか。でも弟としては転生しない』
 え!?
『え、じゃない当たり前だ。どうして俺が君の弟なんか。ごめんだな。せめて従兄弟位にしとく』
 神の力を捨てるなよ。そのまま持ってこいよ。
そして可愛い年下従兄弟にゾッコンしてる設定で転生してきたまえ。
『お前シバくぞ』
 どうやら通話が切れたらしい。返事がない。まさか本当に転生したか?
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