6 / 7
6章 狂い始める・・・
調子に乗りすぎた男
しおりを挟む
その日は雄一郎にとって大忙しな日となった。
器にきれいに盛られた朝食を食べ終え、部屋で浴衣からスーツに着替えた後、観光案内所に向かった。
とりあえず、宿は明日まで予約してある。
取材の承諾をした後、菊池さんから連絡があり、取材のすべては観光案内所で行うことになったからだ。
取材は昼前から始まり、夕方までに及んだ。情報誌の取材とテレビ局の取材。
どちらの取材も事実確認から始まる。2回とも、同じ事を答える。
その取材の様子を情報誌は写真を撮り、テレビ取材はカメラに録画する。
雄一郎ひとりの話なら信憑性に欠ける部分もあるが、観光案内所の2人の話や母親の話などを総合的に判断すると、かなりの信憑性が出てくるようだ。そして最後に聞かれる質問もほぼ同じだ。
「こんな体験をする何か心当たりはありますか?」
そして答えは一緒だ。
「いえ、何もありません」
こうして、その日の取材が終わった。
初めての体験・・・
どっと疲れが出る。
旅館に戻り、入り口の、年季の入ったガラスドアをガラガラとスライドさせ、中へ入ると、
「お客さん、何か時の人みたいだね・・・」
木製のカウンターの奥から主人が顔を覗かせ、面白そうに声をかけてきた。雄一郎の事は昨日、菊池さんから聞いて知っている。
この宿は年配のご夫婦で切り盛りしているようだ。ご夫婦の年齢はとうに70歳を過ぎているように思える。
最も、料理人は別にいるのかもしれないが・・・
「そうですね~
何か変な感じがします。
今まであまり人から注目される事なんてなかったですから・・・」
雄一郎は照れくさそうに答える。
「そうですか・・・
もうすぐ、お食事の用意ができますから、落ち着いたら、食事処へお越し下さい・・・」
主人はそう言うと、カウンターの奥へ消えて行った。
食事は美味しかった。昨日もそうだが、地元の食材を使った料理が多いように思える。
個々にパーティションで仕切られた10個くらいのテーブルだが、たぶん他に客はいないと思われる。
温泉にゆったり浸かりながら、今日の事を思い返す。
(こんなに注目浴びた事なんて今までなかったな~
どちらかというと、地味な存在だからな~
でも、なんか今日は上手く話ができた気がする・・・
諏訪大社様のお陰かな~)
翌朝、TV局から朝の情報番組で取り上げる旨の連絡がきた。
雄一郎の顔はわからないようにモザイクをかけることになっている。
雄一郎は食事処で朝食を終えると、部屋に戻り、テレビで取材の様子を見た。
観光案内所での取材である事は、地元の人ならわかるかもしれない。
顔がわからないようにされているとはいえ、自分がテレビに出ている…
みんなが自分に注目している…
なんとも妙な気分になる。
英雄にでもなった気分だ・・・
少しだけ嬉しくなる・・・
コメンテーターの中には、超常現象の専門家なども呼ばれている。
取材ビデオが一通り終わると、コメンテーターたちが無責任な発言を繰り返す。
何もわかるはずがないのに、肯定派も否定派もわかったような口ぶりで話す。
それを司会者は双方の意見に納得するように進行させる。
雄一郎はモザイクのかけられた自分の姿を観ながらふと思った。
(僕を知らない人物ならいざ知らず、僕を知ってる人物が見たら、正体がわかるのではないか…)
そしてそれは、図らずも現実となっていく・・・
狂い始める・・・ 完 続く
器にきれいに盛られた朝食を食べ終え、部屋で浴衣からスーツに着替えた後、観光案内所に向かった。
とりあえず、宿は明日まで予約してある。
取材の承諾をした後、菊池さんから連絡があり、取材のすべては観光案内所で行うことになったからだ。
取材は昼前から始まり、夕方までに及んだ。情報誌の取材とテレビ局の取材。
どちらの取材も事実確認から始まる。2回とも、同じ事を答える。
その取材の様子を情報誌は写真を撮り、テレビ取材はカメラに録画する。
雄一郎ひとりの話なら信憑性に欠ける部分もあるが、観光案内所の2人の話や母親の話などを総合的に判断すると、かなりの信憑性が出てくるようだ。そして最後に聞かれる質問もほぼ同じだ。
「こんな体験をする何か心当たりはありますか?」
そして答えは一緒だ。
「いえ、何もありません」
こうして、その日の取材が終わった。
初めての体験・・・
どっと疲れが出る。
旅館に戻り、入り口の、年季の入ったガラスドアをガラガラとスライドさせ、中へ入ると、
「お客さん、何か時の人みたいだね・・・」
木製のカウンターの奥から主人が顔を覗かせ、面白そうに声をかけてきた。雄一郎の事は昨日、菊池さんから聞いて知っている。
この宿は年配のご夫婦で切り盛りしているようだ。ご夫婦の年齢はとうに70歳を過ぎているように思える。
最も、料理人は別にいるのかもしれないが・・・
「そうですね~
何か変な感じがします。
今まであまり人から注目される事なんてなかったですから・・・」
雄一郎は照れくさそうに答える。
「そうですか・・・
もうすぐ、お食事の用意ができますから、落ち着いたら、食事処へお越し下さい・・・」
主人はそう言うと、カウンターの奥へ消えて行った。
食事は美味しかった。昨日もそうだが、地元の食材を使った料理が多いように思える。
個々にパーティションで仕切られた10個くらいのテーブルだが、たぶん他に客はいないと思われる。
温泉にゆったり浸かりながら、今日の事を思い返す。
(こんなに注目浴びた事なんて今までなかったな~
どちらかというと、地味な存在だからな~
でも、なんか今日は上手く話ができた気がする・・・
諏訪大社様のお陰かな~)
翌朝、TV局から朝の情報番組で取り上げる旨の連絡がきた。
雄一郎の顔はわからないようにモザイクをかけることになっている。
雄一郎は食事処で朝食を終えると、部屋に戻り、テレビで取材の様子を見た。
観光案内所での取材である事は、地元の人ならわかるかもしれない。
顔がわからないようにされているとはいえ、自分がテレビに出ている…
みんなが自分に注目している…
なんとも妙な気分になる。
英雄にでもなった気分だ・・・
少しだけ嬉しくなる・・・
コメンテーターの中には、超常現象の専門家なども呼ばれている。
取材ビデオが一通り終わると、コメンテーターたちが無責任な発言を繰り返す。
何もわかるはずがないのに、肯定派も否定派もわかったような口ぶりで話す。
それを司会者は双方の意見に納得するように進行させる。
雄一郎はモザイクのかけられた自分の姿を観ながらふと思った。
(僕を知らない人物ならいざ知らず、僕を知ってる人物が見たら、正体がわかるのではないか…)
そしてそれは、図らずも現実となっていく・・・
狂い始める・・・ 完 続く
5
あなたにおすすめの小説
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる