調子に乗りすぎた男

ゆきもと けい

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6章 狂い始める・・・

調子に乗りすぎた男

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 その日は雄一郎にとって大忙しな日となった。
 器にきれいに盛られた朝食を食べ終え、部屋で浴衣からスーツに着替えた後、観光案内所に向かった。

 とりあえず、宿は明日まで予約してある。

 取材の承諾をした後、菊池さんから連絡があり、取材のすべては観光案内所で行うことになったからだ。

 取材は昼前から始まり、夕方までに及んだ。情報誌の取材とテレビ局の取材。

 どちらの取材も事実確認から始まる。2回とも、同じ事を答える。
 その取材の様子を情報誌は写真を撮り、テレビ取材はカメラに録画する。

 雄一郎ひとりの話なら信憑性に欠ける部分もあるが、観光案内所の2人の話や母親の話などを総合的に判断すると、かなりの信憑性が出てくるようだ。そして最後に聞かれる質問もほぼ同じだ。

「こんな体験をする何か心当たりはありますか?」

 そして答えは一緒だ。

「いえ、何もありません」

 こうして、その日の取材が終わった。
 初めての体験・・・
 どっと疲れが出る。

 旅館に戻り、入り口の、年季の入ったガラスドアをガラガラとスライドさせ、中へ入ると、

「お客さん、何か時の人みたいだね・・・」

 木製のカウンターの奥から主人が顔を覗かせ、面白そうに声をかけてきた。雄一郎の事は昨日、菊池さんから聞いて知っている。

 この宿は年配のご夫婦で切り盛りしているようだ。ご夫婦の年齢はとうに70歳を過ぎているように思える。
最も、料理人は別にいるのかもしれないが・・・

「そうですね~
何か変な感じがします。
今まであまり人から注目される事なんてなかったですから・・・」

 雄一郎は照れくさそうに答える。

「そうですか・・・
もうすぐ、お食事の用意ができますから、落ち着いたら、食事処へお越し下さい・・・」

 主人はそう言うと、カウンターの奥へ消えて行った。

 食事は美味しかった。昨日もそうだが、地元の食材を使った料理が多いように思える。
 個々にパーティションで仕切られた10個くらいのテーブルだが、たぶん他に客はいないと思われる。
 温泉にゆったり浸かりながら、今日の事を思い返す。

(こんなに注目浴びた事なんて今までなかったな~
どちらかというと、地味な存在だからな~
でも、なんか今日は上手く話ができた気がする・・・
諏訪大社様のお陰かな~)


 翌朝、TV局から朝の情報番組で取り上げる旨の連絡がきた。
 雄一郎の顔はわからないようにモザイクをかけることになっている。

 雄一郎は食事処で朝食を終えると、部屋に戻り、テレビで取材の様子を見た。
 観光案内所での取材である事は、地元の人ならわかるかもしれない。

 顔がわからないようにされているとはいえ、自分がテレビに出ている…
 みんなが自分に注目している…
 なんとも妙な気分になる。
 英雄にでもなった気分だ・・・
 少しだけ嬉しくなる・・・

 コメンテーターの中には、超常現象の専門家なども呼ばれている。
 取材ビデオが一通り終わると、コメンテーターたちが無責任な発言を繰り返す。
 何もわかるはずがないのに、肯定派も否定派もわかったような口ぶりで話す。
 それを司会者は双方の意見に納得するように進行させる。

 雄一郎はモザイクのかけられた自分の姿を観ながらふと思った。

(僕を知らない人物ならいざ知らず、僕を知ってる人物が見たら、正体がわかるのではないか…)

 そしてそれは、図らずも現実となっていく・・・


  狂い始める・・・ 完 続く
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