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危機的現実
真夏の奇妙な体験
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高円寺駅の改札口10時に待ち合わせをして、彼女は孝雄と誠一のマンションを訪ねることにした。彼女が孝雄を誘ったのには理由がある。大学時代に孝雄が
「原因不明の体調不良は霊とかの仕業もあるんだよ」
と言っていたのを思い出したからだ。
今回の誠一の様子を孝雄に話すと『俺も行くよ』と快く言ってくれた。だが誠一には、そのことは言っていない。ただ久し振りに会いたいから見舞いに行くんだとだけ…
道すがら孝雄は、
「もしあいつに悪霊がついていたら俺が成敗してやるよ」
冗談半分にニコニコ笑いながら言った。
「陰陽師の末裔って言ってたけど、陰陽師とか結界師って修行をすれば誰でもなれるの?」
彼女は真面目に横を歩いている孝雄の顔を見上げながら尋ねた。
「元々の家系が陰陽師でなければなれないよ。かつて陰陽寮という国が定めた機関に属していたらね。その機関に属していた者だけが陰陽師と名乗ることができるのさ。だから陰陽師と名乗れなくとも、それと同じことのできる人間はいるはずだよ…」
「そうなのね…」
誠一のマンションの近くまで来た。孝雄も誠一のマンションには学生時代何度か来たことがあるので知っている。先の四つ角を右に曲がり、すぐに見えるベージュ色の4階建てのマンションが誠一の住むマンションだ。
2人は角を曲がった。2.3歩歩いたところで孝雄の足が止まり、ガタガタと震え始めた。
「ゴメン、俺、無理だわ…」
孝雄の顔色が真っ青になっている。
「どういう事?」
「ミサキは感じないのか…」
ミサキとは彼女の名前だ。
「あのマンションの4階の窓や壁の隙間からどす黒い異様な妖気みないなものが出てるのが見えるんだ」
「それって、さっき話していた悪霊とか…」
「全然違う…そんな生やしいレベルじゃないよ。霊は所詮、何か生き物の魂の残骸というべきなのかな。霊ならその魂を元ある場所へ返してあげればいい。でもこの気配は俺も今まで感じたことのない、そう…バケモノの気配とでもいうべきなのかな…とんでもないバケモノがあいつの部屋にいる違いない。そいつのせいであいつが弱っているのかもしれない…ヤバイぞ、これは…」
孝雄の全身の震えは一向に収まらず、とうとう道路に座り込んでしまった。
「じゃぁ、どうすればいいのよ!」
ミサキは、座りこんでしまった孝雄を見下ろし、怒るように言い放った。
「幸い、お前は気配を全く感じないようだから、俺の携帯を預けるから、こっそりあいつの部屋の様子を撮影してきてくれ」
「えっ!私一人で行けってか?」
「俺が動けない以上、お前に頼むしかないんだ。頼む…」
「だって…私は入っても大丈夫なの?やられたりしないの?」
ミサキが不安そうに尋ねる。
「ああ、大丈夫だ。バケモノはあいつに寄生しているだろうから、お前が何かされることはない…」
「でもバケモノの正体って何なのよ」
「それがわからないから、部屋の様子を撮影してきて欲しいんだ」
ミサキは意を決して誠一のマンションを訪ねた。孝雄とは駅前のコーヒーチェーン店で落ち合う約束をした。4階まで上がっても孝雄の言う通り、ミサキは何も感じない。普通の訪問だ。呼び鈴を鳴らす。玄関先に出て来た誠一は目が窪み弱っているのが一目でわかる。この間会った時とは大違いだ。
(こんな短期間に人間が弱ることがあるのだろうか)
ミサキは単純にそう思う。
「孝雄は?」
誠一は、孝雄が一緒にいないことに気づき、弱弱しい声で尋ねた。
「今朝、孝雄から熱があるって連絡がきたの。最近流行しているアレかも知れないって…」
ミサキはそう言うしかなかった。
「そうか、残念だな。まぁ…入れよ…」
ふらふらしながら誠一は奥へ入った。ミサキは孝雄に言われた通り、バッグに忍ばせた携帯で撮影を始めた。ミサキの目に最初に飛び込んできたのは。こちらの様子を窺うようにソファに座っている猫だった。こっそりカメラを向けると、それに気づいたのかすぐに隠れたしまった。
ミサキは思った。
(あれが誠一の言っていた茶トラの猫?まるで黒トラじゃないの…)
霊感のないミサキでもあの猫はどこかおかしいと気づく。もっとあの猫を撮影したかったのがすぐに隠れて撮れない。
(たぶん、最初の一瞬だけは撮れていると思うけど…)
1時間ほど、部屋のあちらこちらをこっそり撮影した。猫の撮影はあきらめた。
「長居すると誠一も疲れるだろうから、今日はこれで帰るね。これ、私が作ってきたから後で食べて…」
ミサキは手作りの肉じゃがをローテーブルの上に置いた。
「あと、冷凍物もいくつか作ってきたからさ…」
ミサキはそう言うと、一人暮らし用の冷蔵庫の冷凍室に自分が作ってきた料理をしまった。
「ありがとう…」
誠一が弱弱しい声で礼を言う。
「じゃぁ、お大事にね…」
ミサキはいたって冷静を装って玄関の方へ向かった。
ミサキがドア付近まで行くと、猫はソファの上に現れ、じっとミサキを見ていた。
不気味なくらいに…
危機的現実 完 続く
「原因不明の体調不良は霊とかの仕業もあるんだよ」
と言っていたのを思い出したからだ。
今回の誠一の様子を孝雄に話すと『俺も行くよ』と快く言ってくれた。だが誠一には、そのことは言っていない。ただ久し振りに会いたいから見舞いに行くんだとだけ…
道すがら孝雄は、
「もしあいつに悪霊がついていたら俺が成敗してやるよ」
冗談半分にニコニコ笑いながら言った。
「陰陽師の末裔って言ってたけど、陰陽師とか結界師って修行をすれば誰でもなれるの?」
彼女は真面目に横を歩いている孝雄の顔を見上げながら尋ねた。
「元々の家系が陰陽師でなければなれないよ。かつて陰陽寮という国が定めた機関に属していたらね。その機関に属していた者だけが陰陽師と名乗ることができるのさ。だから陰陽師と名乗れなくとも、それと同じことのできる人間はいるはずだよ…」
「そうなのね…」
誠一のマンションの近くまで来た。孝雄も誠一のマンションには学生時代何度か来たことがあるので知っている。先の四つ角を右に曲がり、すぐに見えるベージュ色の4階建てのマンションが誠一の住むマンションだ。
2人は角を曲がった。2.3歩歩いたところで孝雄の足が止まり、ガタガタと震え始めた。
「ゴメン、俺、無理だわ…」
孝雄の顔色が真っ青になっている。
「どういう事?」
「ミサキは感じないのか…」
ミサキとは彼女の名前だ。
「あのマンションの4階の窓や壁の隙間からどす黒い異様な妖気みないなものが出てるのが見えるんだ」
「それって、さっき話していた悪霊とか…」
「全然違う…そんな生やしいレベルじゃないよ。霊は所詮、何か生き物の魂の残骸というべきなのかな。霊ならその魂を元ある場所へ返してあげればいい。でもこの気配は俺も今まで感じたことのない、そう…バケモノの気配とでもいうべきなのかな…とんでもないバケモノがあいつの部屋にいる違いない。そいつのせいであいつが弱っているのかもしれない…ヤバイぞ、これは…」
孝雄の全身の震えは一向に収まらず、とうとう道路に座り込んでしまった。
「じゃぁ、どうすればいいのよ!」
ミサキは、座りこんでしまった孝雄を見下ろし、怒るように言い放った。
「幸い、お前は気配を全く感じないようだから、俺の携帯を預けるから、こっそりあいつの部屋の様子を撮影してきてくれ」
「えっ!私一人で行けってか?」
「俺が動けない以上、お前に頼むしかないんだ。頼む…」
「だって…私は入っても大丈夫なの?やられたりしないの?」
ミサキが不安そうに尋ねる。
「ああ、大丈夫だ。バケモノはあいつに寄生しているだろうから、お前が何かされることはない…」
「でもバケモノの正体って何なのよ」
「それがわからないから、部屋の様子を撮影してきて欲しいんだ」
ミサキは意を決して誠一のマンションを訪ねた。孝雄とは駅前のコーヒーチェーン店で落ち合う約束をした。4階まで上がっても孝雄の言う通り、ミサキは何も感じない。普通の訪問だ。呼び鈴を鳴らす。玄関先に出て来た誠一は目が窪み弱っているのが一目でわかる。この間会った時とは大違いだ。
(こんな短期間に人間が弱ることがあるのだろうか)
ミサキは単純にそう思う。
「孝雄は?」
誠一は、孝雄が一緒にいないことに気づき、弱弱しい声で尋ねた。
「今朝、孝雄から熱があるって連絡がきたの。最近流行しているアレかも知れないって…」
ミサキはそう言うしかなかった。
「そうか、残念だな。まぁ…入れよ…」
ふらふらしながら誠一は奥へ入った。ミサキは孝雄に言われた通り、バッグに忍ばせた携帯で撮影を始めた。ミサキの目に最初に飛び込んできたのは。こちらの様子を窺うようにソファに座っている猫だった。こっそりカメラを向けると、それに気づいたのかすぐに隠れたしまった。
ミサキは思った。
(あれが誠一の言っていた茶トラの猫?まるで黒トラじゃないの…)
霊感のないミサキでもあの猫はどこかおかしいと気づく。もっとあの猫を撮影したかったのがすぐに隠れて撮れない。
(たぶん、最初の一瞬だけは撮れていると思うけど…)
1時間ほど、部屋のあちらこちらをこっそり撮影した。猫の撮影はあきらめた。
「長居すると誠一も疲れるだろうから、今日はこれで帰るね。これ、私が作ってきたから後で食べて…」
ミサキは手作りの肉じゃがをローテーブルの上に置いた。
「あと、冷凍物もいくつか作ってきたからさ…」
ミサキはそう言うと、一人暮らし用の冷蔵庫の冷凍室に自分が作ってきた料理をしまった。
「ありがとう…」
誠一が弱弱しい声で礼を言う。
「じゃぁ、お大事にね…」
ミサキはいたって冷静を装って玄関の方へ向かった。
ミサキがドア付近まで行くと、猫はソファの上に現れ、じっとミサキを見ていた。
不気味なくらいに…
危機的現実 完 続く
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