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第一章 少年は旅立つ
5.少年の苦悩5
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「坊っちゃんたち、申し訳ないが感動の再開はまたあとでにしてくれ」
ぐずぐずとしている僕たちとは目を合わせずに冒険者が言う。
その声は明らかに警戒していて、ぴりぴりとした空気が一気に場を包んだ。
できるだけ優しく言ってくれたのだろうけど、僕たち三人はその空気に飲まれて押し黙る。
「ああ、いや、すまない。御子息殿はお父上から聞いてらっしゃるかと思いますが、魔物は厄介です。ここはまだ林と森の間だが、もう奴らのテリトリーだ。早く離れたほうがいい」
冒険者は僕たちを落ち着かせるべく言葉を選んだつもりだろう。
先程より、優しく、諭すように述べた。
ドリーとアンはそれで落ち着きを取り戻したようだけど、僕は内心焦っていた。
だって、言葉を選んでいるのに言葉も口調も選べていないほど余裕がない状況だとわかってしまったから。
「ドリー、アンと手を繋いで。アン、どっちから来たんだい?」
ドリーは気恥ずかしそうにアンの手を取る。
アンは、あっちをまっすぐ、と指で指し示した。
――風が、回るように吹く。
「僕がまっすぐ走るから、二人は僕が通ったところをついてきて。僕は勉強ばかりじゃなくて体も鍛えているから、たまにはかっこつけたいんだ。さっきはかっこわるいところ、見せちゃったから」
「あ、ああ」
気取られてはいけないと思ってこんな言い方になった。
アンは不思議そうな目をしているがドリーは感づいたようだ。
――草木がゆっくりと揺れ動く。
冒険者はすり足で僕たちの周囲を半円を描くように動く。
思い出した。
これは騎士階級の剣術の足運びだったはず。
父さんの友人の一人に教わったことがある。
なんでこんなところで冒険者と名乗っているのかはわからないけど、今はそんなことを気にしている場合じゃない。
「そうだ。アン、こうしよう。一番早く、宿屋についたやつが一等賞だ。ウィダのお父さんにウィダに勝ったぞって自慢してやろう。他の冒険者のみんなだって褒めてくれるはずだ。な?いいだろ、ウィダ?」
ドリーは僕に目配せしながら言う。
その目は必死で、なにかの覚悟を決めた目だった。
――パキリ、と枝が折れる音がした。
「ああ、もちろん!僕は林に入ったら君たちが追いつくまで待つよ。それでハンデなしだ、いいだろ?」
あまりにも不自然な僕たちの会話。
こくこくとうなずくアン。
これは、アンにも感づかれたな。
ええい。僕の下手くそ!
それを見て、肩をすくめるドリーに、ごめんとばかりに目配せする。
ドリーは、こちらを見て優しく微笑むだけだった。
――虫の声が止んだ。
「坊っちゃんたち。作戦会議は終わったか?そろそろカウントダウンだ」
冒険者の声に、息を呑む。
「よーい……」
どん、の掛け声はいらなかった。
背後の茂みから叫び声と共に何かが飛び出して来た。
それを冒険者が腰に携えた片手剣で受け止める。
その、ガキン!と甲高い音がスタートの合図だった。
ドリーとアンが振り向きそうになっているのを横目で見ながら、足を踏み込む。
「見るな!行け!走れ!」
叫ぶような冒険者の声に気圧され、ドリーとアンも走りだす。
それを見て、僕も走り出した。
ふと、少しだけ後ろを見てしまった。
恐ろしいほどに美しい毛並みが木々の隙間から入った夕日に照らされ、真っ赤な炎に覆われているようだった。
片手剣を構える冒険者の倍もあろうかという身の丈。
本で見たことのある魔物の姿。
その目はぎょろぎょろと動いて、確実に僕たちを見据えていた。
ぐずぐずとしている僕たちとは目を合わせずに冒険者が言う。
その声は明らかに警戒していて、ぴりぴりとした空気が一気に場を包んだ。
できるだけ優しく言ってくれたのだろうけど、僕たち三人はその空気に飲まれて押し黙る。
「ああ、いや、すまない。御子息殿はお父上から聞いてらっしゃるかと思いますが、魔物は厄介です。ここはまだ林と森の間だが、もう奴らのテリトリーだ。早く離れたほうがいい」
冒険者は僕たちを落ち着かせるべく言葉を選んだつもりだろう。
先程より、優しく、諭すように述べた。
ドリーとアンはそれで落ち着きを取り戻したようだけど、僕は内心焦っていた。
だって、言葉を選んでいるのに言葉も口調も選べていないほど余裕がない状況だとわかってしまったから。
「ドリー、アンと手を繋いで。アン、どっちから来たんだい?」
ドリーは気恥ずかしそうにアンの手を取る。
アンは、あっちをまっすぐ、と指で指し示した。
――風が、回るように吹く。
「僕がまっすぐ走るから、二人は僕が通ったところをついてきて。僕は勉強ばかりじゃなくて体も鍛えているから、たまにはかっこつけたいんだ。さっきはかっこわるいところ、見せちゃったから」
「あ、ああ」
気取られてはいけないと思ってこんな言い方になった。
アンは不思議そうな目をしているがドリーは感づいたようだ。
――草木がゆっくりと揺れ動く。
冒険者はすり足で僕たちの周囲を半円を描くように動く。
思い出した。
これは騎士階級の剣術の足運びだったはず。
父さんの友人の一人に教わったことがある。
なんでこんなところで冒険者と名乗っているのかはわからないけど、今はそんなことを気にしている場合じゃない。
「そうだ。アン、こうしよう。一番早く、宿屋についたやつが一等賞だ。ウィダのお父さんにウィダに勝ったぞって自慢してやろう。他の冒険者のみんなだって褒めてくれるはずだ。な?いいだろ、ウィダ?」
ドリーは僕に目配せしながら言う。
その目は必死で、なにかの覚悟を決めた目だった。
――パキリ、と枝が折れる音がした。
「ああ、もちろん!僕は林に入ったら君たちが追いつくまで待つよ。それでハンデなしだ、いいだろ?」
あまりにも不自然な僕たちの会話。
こくこくとうなずくアン。
これは、アンにも感づかれたな。
ええい。僕の下手くそ!
それを見て、肩をすくめるドリーに、ごめんとばかりに目配せする。
ドリーは、こちらを見て優しく微笑むだけだった。
――虫の声が止んだ。
「坊っちゃんたち。作戦会議は終わったか?そろそろカウントダウンだ」
冒険者の声に、息を呑む。
「よーい……」
どん、の掛け声はいらなかった。
背後の茂みから叫び声と共に何かが飛び出して来た。
それを冒険者が腰に携えた片手剣で受け止める。
その、ガキン!と甲高い音がスタートの合図だった。
ドリーとアンが振り向きそうになっているのを横目で見ながら、足を踏み込む。
「見るな!行け!走れ!」
叫ぶような冒険者の声に気圧され、ドリーとアンも走りだす。
それを見て、僕も走り出した。
ふと、少しだけ後ろを見てしまった。
恐ろしいほどに美しい毛並みが木々の隙間から入った夕日に照らされ、真っ赤な炎に覆われているようだった。
片手剣を構える冒険者の倍もあろうかという身の丈。
本で見たことのある魔物の姿。
その目はぎょろぎょろと動いて、確実に僕たちを見据えていた。
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