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第一章 少年は旅立つ
幕間 冒険者の意地
しおりを挟む三人、やられた。
子どもたちを護衛したやつは、犠牲になって三人を逃した。
逃げてきた三人のうち一人を救おうと、一人は盾になった。
三人のうち二人を、一人が逃した。
仲間を守ろうと攻撃に集中した一人は、その隙をついて噛みつかれた。
そして俺は、三匹を相手におそらく死ぬ。
回らない頭で考える。
これでも代々狩人の家の生まれで、小さな頃から親父や祖父に鍛えられた。
三本打ちだってできる。
風を読むことだって、魔法で操ることだってできる。
離れた的にだって寸分狂いなく当てることができる。
今だって、奴らの目を貫いてやった。
でも、勉強は苦手だ。
簡単な計算くらいしかできないし、読み書きだって最低限だ。
それでもわかる。
俺たちは五人しかいなかった。
最初に一人倒れ、もう一人は子どもを連れて村に向かった。
敵は何匹いる?
少なくとも五匹だ。
俺は今、一人だ。
助けたのは何人だ?
最初に連れられていった二人はきっと無事だろう。
今さっき逃した一人も、無事であってほしい。
なんだ。
簡単な計算じゃないか。
守らなきゃいけないのが三人、俺たちは五人、敵は五匹。
三人とも守れたんなら、俺たちの勝ちだ。
自分の考えに自嘲する。
何が勝ちだ。
死んでいる。
死んでいるんだ。
死んだら帰ってこないんだ。
だから、殺す。
差し違えてでも、こいつらを、殺す。
ちくしょう。
俺の仲間を食いやがって。
あいつらはいい奴だった。
いい奴だったんだ!
だから、俺がここで、こいつらを殺す。
「風よ!我が矢をなぞり、切り裂け!」
わかってる。
勝てないのはわかっている。
ちくしょう。
怖い。
死ぬのが怖い。
あいつらのように、貪り食われるのが、怖い。
のうりからあの魔物の笑みが消えない。
あいつは確かに笑っていた。
俺たちを嘲笑っていた。
効かぬ攻撃を受け、足止めして――もしかしたら足止めすらする必要がなくて、俺たちで遊んでいたのかもしれない。
大型の肉食獣が時折そうするように。
弱肉強食とはこのことだ。
飛びかかってくる魔物を転がるように避ける。
避けた先でまた別の魔物が口を開く。
そいつの口内に矢を撃ち込んでやる。
怯んだ隙に体制を立て直しながら、矢筒に手を伸ばした。
そこで、手首をぞぶりと噛まれる。
ごきごきと骨が砕かれる。
このままでは食われると、力任せに引き抜くと、それはあっさりと抜けた。
俺の左手首から先を、魔物の口内に置き去りにして。
咄嗟に反対の手で、ナイフを抜く。
所詮、解体用のナイフだ。
こんなもので、何ができる。
痛い。
熱い。
怖い。
ちくしょう。
ちくしょう。
ちくしょう。
「ちくしょおおおおおおお」
目の前には三体の魔物。
あたりでは咀嚼音が響く。
「ああ……母さん……」
やっぱり、こういうときは母親を求めるもんなんだな。
その時だった。
風が、一閃。
二閃。
三閃。
四。
五。
六。
数えきれないほどの風の刃。
嵐のように、荒れ狂う。
「ぐるるううううあああああ!」
目の前の三体の魔物は叫び声を上げる。
そして血飛沫をあげて崩れ落ちる。
木陰から、ざくざくと足音を立てて誰かが近づいて来る。
仲間たちを貪り食っていた魔物たちが、警戒の声をあげる。
月明かりに照らされ見えたその姿。
まず目に入ったのは無造作に持たれた装飾の派手な剣。
次に、簡素などこにでもあるチュニックとズボン。
男にしては少し長めのその髪は、漆黒の闇の如く黒々としている。
そして、煌々と輝く首飾り。
その男は、魔王を倒した、勇気ある者。
「ゆ、勇者、ジェダ・イスカリオテ……」
その人だった。
勇者はため息をするように息を吐くと言った。
「息子は、ウェダはどこへ行った?」
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