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第一章 少年は旅立つ
9.狩るものと狩られるもの4
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「だめだ!」
反射的に叫んだ僕に驚く冒険者たち。
それでも攻撃の手は休めず、視線は魔物に集中している。
「一匹じゃないんだ!何体いるか――」
そう。
何体いるか、わからない。
「なんだと!?まずい!」
「おい!振り解け!」
弓の冒険者とローブの冒険者が叫ぶ。
大柄な冒険者は慌てて魔物を振り払おうと力を入れる。
「ぐうう、ダメだ……こいつをさっさとやるぞ!」
彼の力を持ってしてもその口から逃れることはできないようだ。
「おい!もっと魔法を!」
「さっきから撃てるだけ撃ってる!」
冒険者たちの焦りが伝わる。
汗が止まらない。
「くっ……赤熱の炎よ。我が心を映し燃え盛る炎よ……」
ローブの冒険者は呪文を唱える。
先ほどとは別の魔法――もっと大きく、強い炎の魔法だ。
だが、それは先ほどよりも小さな火球を生み出していた。
「おい!」
「うるせえ!こっちだって焦ってんだ!」
弓の冒険者に叱咤され、ローブの冒険者が悪態をつく。
昔、父さんの友人だという人が訪ねてきたことがあった。
僕はそのとき魔法がうまく使えなくて悩んでいた。
父さんもどうしていいかわからなかったのか、友人を呼んだ。
別に魔法に詳しくない、なんて言っていたその人から僕は魔法の基礎――考え方を学んだ。
魔法の呪文を構成する言葉には意味がある。
集中するため、その効果を定めるため、それぞれが一言一句意味がある。
言葉を読み解くことが第一段階。
言葉の通りに持っていくことが第二段階。
その先は、今度教えてくれると言ったきり、その人はもう何年も来ていない。
だから、だめなんだ。
あんなに焦っている状態では、あの魔法は発動しない。
「おい……」
言い合いを続ける二人に、大柄な冒険者が声を掛けた。
「なあ、こいつ……」
大柄な冒険者は、もう魔物を見ていない。
ただ焦点の定まらない目で、こちらを見ていた。
脂汗が浮かび、不自然に、誤魔化すように笑い、その目には涙を浮かべ――恐怖の表情で言った。
「笑ってるよ、こいつ」
魔物が笑う。
そんなわけがない。
だって今だって、二人が攻撃しているじゃないか。
辛いはずだ。
痛いはずだ。
炎に焼かれ、矢が何本も突き刺さっているんだぞ。
その時だった。
くるるる……
ほど近い場所で聞こえる、唸り声。
そして――
「所詮獣だぞ!笑うわけ……ギャッ!」
ローブの冒険者が、消えた。
いや、消えたのではない。
押し倒されたのだ。
どこからか飛び出してきた、四つ足の生き物。
銀と黒の体毛。鋭い牙。
落とした杖から火が枯草に燃え移り、その体躯は照らされ赤々と輝く。
「ぐぎゃ!ああああああ!やめ!」
ばりんごきんと音がする。
まるで木製の人形を壊す子どものように。
魔物は彼を食い殺す。
それを呆然と眺める僕と弓の冒険者。
「うわあああああああ」
叫び声にハッとなり、声の方向を見る。
ごきん、という濡れた音がする。
そこには片手剣ごと腕をもがれた大柄の冒険者がうずくまっていた。
「腕が……俺の腕が……」
魔法が解けたのだ。
ローブの冒険者が襲われたのを見て、心が折れたのだ。
「ちくしょう!おい!てめえはさっさと走れ!」
弓の冒険者はそう叫んで、僕を力一杯突き飛ばした。
転がる僕を見て、彼は目を見開いき、そしてひとつ深呼吸すると、言った。
「ぼっちゃん、大丈夫だ。ここは食い止める」
なにを。
「なあに、時間稼ぎぐらいはするさ」
なんで。
「村に戻って、このことを父君に知らせるんだ」
そんな。
「それで、俺らは任務達成だ。頼むぞ?」
頷く僕を見ると、彼は静かにゆっくりと笑った。
そして、叫ぶ。
「走れえ!」
その弓を構え、矢をつがい、一瞬で三本をそれぞれ茂みに撃つ。
それぞれの茂みから、醜い魔物の声がする。
その声が聞こえるときには、僕はすでに走り出していた。
反射的に叫んだ僕に驚く冒険者たち。
それでも攻撃の手は休めず、視線は魔物に集中している。
「一匹じゃないんだ!何体いるか――」
そう。
何体いるか、わからない。
「なんだと!?まずい!」
「おい!振り解け!」
弓の冒険者とローブの冒険者が叫ぶ。
大柄な冒険者は慌てて魔物を振り払おうと力を入れる。
「ぐうう、ダメだ……こいつをさっさとやるぞ!」
彼の力を持ってしてもその口から逃れることはできないようだ。
「おい!もっと魔法を!」
「さっきから撃てるだけ撃ってる!」
冒険者たちの焦りが伝わる。
汗が止まらない。
「くっ……赤熱の炎よ。我が心を映し燃え盛る炎よ……」
ローブの冒険者は呪文を唱える。
先ほどとは別の魔法――もっと大きく、強い炎の魔法だ。
だが、それは先ほどよりも小さな火球を生み出していた。
「おい!」
「うるせえ!こっちだって焦ってんだ!」
弓の冒険者に叱咤され、ローブの冒険者が悪態をつく。
昔、父さんの友人だという人が訪ねてきたことがあった。
僕はそのとき魔法がうまく使えなくて悩んでいた。
父さんもどうしていいかわからなかったのか、友人を呼んだ。
別に魔法に詳しくない、なんて言っていたその人から僕は魔法の基礎――考え方を学んだ。
魔法の呪文を構成する言葉には意味がある。
集中するため、その効果を定めるため、それぞれが一言一句意味がある。
言葉を読み解くことが第一段階。
言葉の通りに持っていくことが第二段階。
その先は、今度教えてくれると言ったきり、その人はもう何年も来ていない。
だから、だめなんだ。
あんなに焦っている状態では、あの魔法は発動しない。
「おい……」
言い合いを続ける二人に、大柄な冒険者が声を掛けた。
「なあ、こいつ……」
大柄な冒険者は、もう魔物を見ていない。
ただ焦点の定まらない目で、こちらを見ていた。
脂汗が浮かび、不自然に、誤魔化すように笑い、その目には涙を浮かべ――恐怖の表情で言った。
「笑ってるよ、こいつ」
魔物が笑う。
そんなわけがない。
だって今だって、二人が攻撃しているじゃないか。
辛いはずだ。
痛いはずだ。
炎に焼かれ、矢が何本も突き刺さっているんだぞ。
その時だった。
くるるる……
ほど近い場所で聞こえる、唸り声。
そして――
「所詮獣だぞ!笑うわけ……ギャッ!」
ローブの冒険者が、消えた。
いや、消えたのではない。
押し倒されたのだ。
どこからか飛び出してきた、四つ足の生き物。
銀と黒の体毛。鋭い牙。
落とした杖から火が枯草に燃え移り、その体躯は照らされ赤々と輝く。
「ぐぎゃ!ああああああ!やめ!」
ばりんごきんと音がする。
まるで木製の人形を壊す子どものように。
魔物は彼を食い殺す。
それを呆然と眺める僕と弓の冒険者。
「うわあああああああ」
叫び声にハッとなり、声の方向を見る。
ごきん、という濡れた音がする。
そこには片手剣ごと腕をもがれた大柄の冒険者がうずくまっていた。
「腕が……俺の腕が……」
魔法が解けたのだ。
ローブの冒険者が襲われたのを見て、心が折れたのだ。
「ちくしょう!おい!てめえはさっさと走れ!」
弓の冒険者はそう叫んで、僕を力一杯突き飛ばした。
転がる僕を見て、彼は目を見開いき、そしてひとつ深呼吸すると、言った。
「ぼっちゃん、大丈夫だ。ここは食い止める」
なにを。
「なあに、時間稼ぎぐらいはするさ」
なんで。
「村に戻って、このことを父君に知らせるんだ」
そんな。
「それで、俺らは任務達成だ。頼むぞ?」
頷く僕を見ると、彼は静かにゆっくりと笑った。
そして、叫ぶ。
「走れえ!」
その弓を構え、矢をつがい、一瞬で三本をそれぞれ茂みに撃つ。
それぞれの茂みから、醜い魔物の声がする。
その声が聞こえるときには、僕はすでに走り出していた。
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