転生勇者二世の苦悩

曇戸晴維

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第一章 少年は旅立つ

12.勇者の義務1

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 検分するかのように魔物と斧を交互に見る父さん。
 その顔にはまるで感情がない。
 冷静に、極めて冷静に、物事を見据える勇者、ジェダ・イスカリオテ。
 授業のときはいくらか柔らかであるが、今回は違った。
 これが、父の友人たちが言っていた、ジェダ・イスカリオテという勇者なのか。
 僕には勇者なんてまるでよくわからないけれど、肌で伝わってくる。
 英雄という存在感。

「ウェダ。これはお前がやったのか」

 魔物を検分しながら、父さんは言った。
 
「う、うん。こう、斧を投げたんだ。風を這わせて……回って」
「少し落ち着きなさい。言葉は的確に使いなさい」
「……はい」

 深呼吸する。
 ゆっくりと、二回。
 すると体から力が抜けて、がくがくと震え始めた。
 まるで緊張が溢れ出してどこかにいこうとしているみたいに。
 震えが止まらず、思わず自分の体を抱きしめる。

「落ち着きなさい。体が恐怖と安堵に戸惑っているのだろう。お前は初めての実戦だったのだから」

 そう言いながら、父さんは僕のそばに立つと、しゃがみ込む僕の頭をがしがしと撫でた。
 僕はそこでやっと、もう大丈夫なんだと気がついて、隠そうともせずに嗚咽を漏らして泣き始めた。

「と、父さん。冒険者の人たちが、里に来ていた冒険者の人たちが」
「ああ、知っている」
「僕は、僕は」
「とりあえず、泣き止みなさい」

 手渡された手ぬぐいで顔を拭く。
 その間も、父さんは辺りを警戒していた。

「まだ……いるの?」
「いや、この辺りにはいないだろう」

 ほっと胸をなでおろす。
 そして、なんとか立ち上がる。

「もう、大丈夫」
「そうか。お前が一匹、私が五匹。さすがにこれですべてか」
「そうなの?」
「ウェダ、魔物はなぜ現れる?」

 唐突な質問。
 いや、これは授業だ。
 習ったところの復習だ。

「動物からの突然変異体です。身体強化の魔法を得た動物が、強い変身魔法によって魔物に変わります」
「よろしい。では、この魔物はどんな動物だったろう」
「……四足で鋭い犬歯――肉食です。魔物状態での知性の高さは元から賢いことを想像させます。イヌだと思います」
「……本当にそうか?」

 黒い、真っ黒い瞳が、僕を見る。
 途端に緊張で体が強ばる。
 目を逸らせない。
 緊張で息が上がる。

「イヌにしては体が大きすぎます。それに知能が高すぎる……あの、間違っているかもしれないけど……」

 言い淀む僕を、さらに見る。

「続けなさい」
「イヌの祖先に、オオカミというのがいるというのを聞きました。神代よりずっと昔に……そのくらい昔の生き物なら強く大きく賢いのも頷けるかなって……」
「物事ははっきりと言いなさい」
「……ごめんなさい」

 父さんは大きくため息をすると、言った。

「オオカミだ。こういうのを先祖帰りというらしい。よく導き出した」

 当たった!
 褒められて、思わず笑顔になる。
 嬉しくて、大きな声で返事をすると、父さんは険しい顔で再び僕を見つめた。


「えっ?」
「宿屋で残っていた冒険者に聞いたぞ。ドリーたちとケンカをして飛び出ていった、と。魔物がいると知っていて」
「だ、だって……」
「冒険者に守られたそうだな。私が着いたころには息も絶え絶えだった」
「ゆ、弓の人!?生きてるの!?」
「ああ、生きている。まだ動けるようだったから一人で村に戻ってもらった」

 生きている。
 良かった。

「良かった……」
「良かった?」

 父さんの顔がさらに険しくなった。
 
「えっ……」
「聞けば、三人死んだそうではないか」
「それは、僕らを逃がそうとして……」

 守ってくれた。
 それを忘れて笑顔になっていた。
 それは、よくないのかもしれない。
 一人だけ生き延びてくれたことを喜んで、死者を尊ぶ気持ちを忘れていたのかもしれない。
 そう思うと、僕は心が重くなった。

「ごめんなさい」

 そう言うと、父はまた大きくため息を吐いた。
 そして、僕の肩を掴んで、腰を落としてまっすぐと目を見て、言った。

 
「ウェダ、
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