転生勇者二世の苦悩

曇戸晴維

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第一章 少年は旅立つ

16.勇者の義務5

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「ああ、ドリー!なんてこと言うんだい!」

 女将さんがドリーを叱責する。
 その目は僕の顔色を伺っていた。

 そうだね。
 わかっていた。
 わかっていたさ。

「だってウィダが魔物を倒していたら!」
「いい加減にしな!ドリー!」

 女将さんはドリーを叩いた。
 アンはぐしゃぐしゃと泣いている。

「おい、誰かいるの……か?」

 そこへ不意に声がかかった。
 僕たちがいる物置小屋の中からだ。

「こりゃあ、宿屋の女将じゃねえか」

 出てきたのは狩人のサムだった。

「ドリーにウェダ、アン、お前ら無事だったか」

 僕たちは、とぼけた顔で言うサムに面食らってしまっていた。
 そこに女将さんがはっとしたように言う。

「サ、サム、あんた、ここで何してんだい!」
「しっ……魔物に見つかっちまう。この物置小屋、地下倉庫があったろ?爺婆を何人か連れて隠れてたんだよ。女将たちも早くこっちに来な」
「あ、ああ」

 勝手知ったる人の家ならぬ、地下倉庫。
 サムの言われるがまま入っていく女将さんとアン。

「ドリー、早く」
「いやだ」
「なに言ってんだい!ドリー!」

 うつむくように泣いているドリー。

「ウィダと一緒は、いやだ」
「まだそんなことを……」

 女将さんがおろおろと、サムは何がなんだかわからないという顔をしている。

 ああ、ドリー。
 そうなんだね。
 僕はもう、君にとって――

「だってウィダが戦えるなら、魔物を殺せるならここはこんなことになってない。誰も死ななかった。怖い思いもしなかった」

 冷たく、静かに語る。
 その声は、怒りと悲しみに満ちていた。
 そしてもうひとつ。

「ウィダ、お前のせいだ。お前は魔物と同じ化け物だ!」

 憎しみと敵意で溢れかえっていた。

「魔物を殺したって……うおっ、これっ……ウィダ、お前がやったのか……」

 信じられないとばかりに僕を見るサム。
 やがてその顔も怪訝な、なにか得体をしれないものを見る顔へ変わる。
 女将さんは何も言わない。
 ただ、ひたすら俯いていた。
 アンは、静かに泣いていた。

「僕、行くよ」

 いたたまれなくなった僕は、それしか言えなかった。
 誰も何も言わなかった。

 剣を拾い上げ、一振り。
 付いた魔物の血を服で拭う。
 そういえば魔物にやられた額が痛い。
 そこも、服でぐりぐりと拭った。

 そして僕は走り出す。
 そのとき、ドリーが言った。

「お前が戦えるなら、ここは守られたんだ」

 どういう意味なのかはわからない。
 
 父の魔法はとうに切れていて、体が重い。
 がむしゃらに走って、がむしゃらに呪文を唱える。

「風の刃よ」
「疾く風の如く」
「炎を纏って舞え」

 呪文なんかじゃない。
 もう、ただの願望だ。
 ただ、魔物を殺す。
 きっとそれが僕の役割だから。
 人を貪っていた奴がこっちを向く。
 そろそろ新しい餌がほしいらしい。
 抵抗していた人で遊んでいた奴が邪魔そうに相手を投げ捨てた。
 こっちのほうが歯ごたえがありそうだとでも思ったんだろう。
 まだ無事な建物を荒らそうとしてた奴らが集まってくる。

 ああ、たくさん来た。
 死ぬかもしれない。
 でも、どうでもいい。

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