転生勇者二世の苦悩

曇戸晴維

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プロローグ 勇気ある者

プロローグ1.勇者の認定1

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「ジェダ・イスカリオテ。この国の民をたぶらかし、世界を支配しようとした魔王を撃退した貴殿の功績を讃え、ここに勇者の称号を授ける」

 王の間に響く、威厳のある声。
 我が王、シヴ四世の声だ。

 膝をついたまま、ゆっくりと顔をあげると、しっかりと見据え、頷く。
 頷き返す王の満足げな顔たるや。
 そのまま、王は自ら私の首に首飾りをかける。
 それは豪勢に金が使われ、細かな宝石が散りばめられた首飾り。
 真ん中には、そっぽを向く犬の顔のレリーフが施されている。
 「恐怖知らずの犬フィアレスドッグ」と呼ばれるその犬は、例え魔物であっても決して恐れず、忠義を果たし縄張りを守る。
 その紋章は栄誉ある勇者の称号と共に、私に与えられた。

「至極光栄にございます。勇者の名に恥じぬよう、これからも民のために尽力致します」

 私が答えると、場は盛大な拍手で包まれた。

「つきましては、我が王にひとつ、願い事を叶えていただきたいのです」

 一言、そう付け加えると、拍手はぴたっと鳴り止む。
 横に控える大臣は驚きと憤怒の形相でこちらを睨み、一歩前に出た。
 警護を担当する近衛隊の面々、この儀式に参列した軍部担当者、騎士団長は一同に殺気立ち、場に緊張が走る。

「よい。申してみよ」

 それを手のひらひとつで抑えるのは、さすが王の威厳といったところだろうか。

「真のご配慮、痛み入ります。陛下のご存知の通り、私とルーアは他ならぬ関係にあります。これを期に、少し人里離れたところを安寧の地とし、暮らそうと考えています。その許可を頂きたく……」
「ふむ。理由を述べよ。そなたほどの人間、我が国としても要人として迎え入れたいという者がいくらでもおる。私とてその一人だ」

 王はゆっくりと、その威厳を練ったような低く、腹に響く声でうやうやしく言った。
 それに負けることなく私も気を張る。
 
「世の平和のため、国の繁栄のために尽力する覚悟であるのは当然の如く変わりません。しかし、私にできることといえば、この頭をうまく捻らせ知恵を絞り出すこと。人心を掴むことや、権謀術数に長けているわけでも、武力に優れるわけでもございません。どこに居ても、この知恵と知識は、変わらず陛下の国のために使われます。」

 王はニヤリと笑う。
 
「……本音はどうだ?」


 御年六十を超えたというが本当だろうか。
 サタニオノ王国では王の崩御を持って王子の披露をするという特殊な習わしがある。
 特殊、といっても私はこの国しか知らず聞きかじった話だが。
 よって、王が崩御したときには王子はすでに三十を超え、王妃と次の王子がいるということが当たり前である。
 そして代々、『シヴ・サワトーマ・サタニオノ』を名乗る。
 現シヴ王はその四世だ。
 
 それにしても、年齢がその通りなら食えない爺さんだ。
 一呼吸置き、諦めて本当の理由を話す。
 大げさに懇願するような目で訴えながら。

「――私とルーアで婚約をしております。結婚ともなれば盛大な催しも予想されます。民のため、その責があるのは重々承知の上、申し上げます。ルルイエの体のことを思えば、静かなところで安息の日々を送りたいのです」
「……さしもの勇者も惚れた女には敵わぬ、か」

 王は玉座に座りなおすと何かに想いを馳せるように、遠くを見る。
 
「敵いませんね」

 顔から火が出そうだが、真っ向勝負だ。即答してやった。
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