転生勇者二世の苦悩

曇戸晴維

文字の大きさ
3 / 38
プロローグ 勇気ある者

プロローグ1.勇者の認定3

しおりを挟む
 授与式が終わり、数人と歓談――といっても、今後の経済の在り方や、農業指導、工業発展のための打ち合わせだ。
 寄ってくる貴族たち。
 いずれ貴族制もやめなければいけない。
 変えなければいけないことが多すぎる。
 しかし、そうしなければこの国はどんどん腐っていく。
 
 そんなことを思索しながら、先んじて帰路に着こうと歩を早める。
 中庭が見える通路は、石畳に真っ赤な絨毯がひかれ、石造りの柱と壁には見事な彫刻が刻まれている。
 私のような芸術に興味のない者でも惹きつけるそれは前史において強い意味合いを持ち、神との対話さえ用いられたとか。
 それも今は形骸化し、このように飾りつけのひとつとされてしまって誰も覚えているものなどいない。
 神々も報われないだろう。
 思考の箸休めにそれらを指でなぞり、うつつを抜かしていると、不意に話しかけられる。

「やあ、『勇者』様」
「『勇者』様はやめてくれ」
「いやあ、女性陣は大賑わいだったよ?あの『勇者』様に恋人がいらっしゃったなんて!ああ、その上、婚約されてらっしゃるとか!!なんてこと!ワタクシお慕いしていたのに!ワタクシもよ!」

 演技がかった口調で手をひらひらさせ、くるくると回りながら言う。人を揶揄う癖はいつまで経っても変わらない。
 肩口まで伸びたくせのある白髪は太陽光が反射して輝き、時折、前髪が邪魔らしく耳にかけるように手でどけている。
 黒いローブから覗く赤いチュニックは、血で染めたように真っ赤で、ローブと同じく黒いズボンはピタッと細い折れそうな脚のラインを出している。
 そして、極めつけは名役者のような、通るハスキーボイス。
 容姿と高身長も相まって、王宮内外問わず女性人気が高い。
 名は『レヴィ・マティウス』。
 私が苦手な女だ。

「やめろよ。レヴィ」
「おやおや、つれないなあ。冗談じゃないか。せっかく同門の出である僕が顔を見せたのに」

 その通り、私とレヴィは同門だ。
 同じ奴を師と仰ぎ切磋琢磨し合った仲、と言えば聞こえはいいが、あまりにも専門分野が違いすぎる上、誰にでもこんな調子で絡んでいくこの女が私は心底苦手だ。

「ま、女性達の話は本当だけどね~」
「……なんの用だ」

 この女、『研究狂い』ことレヴィ・マティウスが研究そっちのけで私に会いにくるはずがない。

「いや~、そうそう。やっと試作品ができたんだよ。苦労したなあ」
「金もかかったな」
「ホントにね!でも金なんてどうでもよくない?魔学の発展のためにはさ!」
「変わらないな、お前は」

 昔から、顔を突き合わせれば自分の研究のことばかり、変わらず突き進む姿勢は好ましい。

「そういう君は、変わったよね。ジェダ・イスカリオテ。おめでとう」

 急に真顔になるレヴィ。
 冬の湖の底から聞こえてきそうな、冷たいくぐもった声。
 あまりの変容に私は声を出せなかった。

「聞いたことがなかったな。君が転生者だなんて。転生ねえ……そういうこともあるのかもしれない。何より君の知識だ。説明も付く。数々の逸話も、転生者だとすれば納得がいく。君のやり方は確かに理に適っている。そしてその恩恵は僕も受けている。この国も民もだ。そしてこれからのためにもなる。だから、僕は言ってやらない。ただ……」

 ふわっと近づいてきたと思えば、おもむろに軽く抱きついてくる。
 身長差があまりないのもあって、互い違いになった顔は、頬を重ねる。
 強い炭の匂いに加え、柑橘の香りがした。
 耳元で、奴は、誰にも聞こえないように、囁いた。

「ジェダ。ジェダ・イスカリオテ。我が同胞よ。お前は本当に転生者か。魔王は、魔王だったのか。彼を滅ぼした弊害がないとは言わせない。おめでとう。君の世に、平穏が続くことを祈っているよ」

 そう言うと、そっと頬を撫でながら離れていく。
 肩を軽くぽんぽんと叩いて、にっこり笑って、奴は言う。

「求めよ、さらば与えられん」

 私は自信満々こう返してやった。

「求めたさ。誰よりもね。だから、今、平和だ」

 すると彼女は珍しく驚いたようだ。
 一本取ってやった、という充実感の元、奴を無視して歩き出す。

「住むところが決まったら手紙を送れよ!」

 後ろから大きな声をかけられて、私はこの奇妙な友人に、振り向かずに手を振った。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生先はご近所さん?

フロイライン
ファンタジー
大学受験に失敗し、カノジョにフラれた俺は、ある事故に巻き込まれて死んでしまうが… そんな俺に同情した神様が俺を転生させ、やり直すチャンスをくれた。 でも、並行世界で人々を救うつもりだった俺が転生した先は、近所に住む新婚の伊藤さんだった。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

処理中です...