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第一章 少年は旅立つ
25.正気と狂気8
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そこからはあっという間だった。
残った魔物たちは父、ジェダ・イスカリオテが瞬く間に倒していく。
僕たちはそれを呆然と眺めていた。
やがて、祈りのような声と共に誰かが父を拝み始めた。
最後の一匹を切り刻み、父は周囲を見渡した。
一息ついた後、ゆっくりとした動作で剣を天に掲げる。
「我々の勝利である!」
父のその宣言と共に、皆が歓声をあげる。
その中にはいつの間に出てきたのか、ドリーたちの姿もあった。
父は、正しく英雄で勇者だった。
僕はただ、それを眺めていた。
レヴィさんはただ僕の肩をぎゅっと抱いてくれていた。
ローブに隠すように。
父はそんな僕を見ると、早足で歩いてきた。
そしてレヴィさんから僕を剥ぎ取るようにローブの中から引っ張り出す。
父は僕の腕を掴み、自分と同じように高らかに挙げさせる。
掴まれた手首が熱く、痛かった。
そしてまた、歓声が起こる。
「もう一人の勇者、ウェダ・イスカリオテに感謝を!」
「ウェダ様!」
「さすが勇者様の御子息だ!」
そんな声が響き渡る。
僕はなにがなんだかわからなくて、泣きそうになる。
助けを求めるように周りを見た。
ドリーは、ただ俯いて拳を握っていた。
アンは、可哀想なものを見るような目で僕を見ていた。
宿屋の女将さんは、複雑そうな顔をしていた。
狩人のサムは、そんな三人を不思議そうに見ていた。
弓の冒険者は、仲間に支えられながら立って笑顔でこちらを見ていた。
ギュンターさんは、兵士たちに声をかけて回っていた。時折、心配そうにこちらをちらちらと見ながら。
レヴィさんは、今にも泣きそうな表情で僕を見ていた。手を伸ばそうとして、その手は力なく落ちた。
父は、僕を見ていなかった。
ただ前を向いていた。
鋭く黒い瞳は、ここにいるなにも見ていないようだった。
そして僕にその瞳を向けて言った。
「ウェダ、よくやった」
何が。
何で。
僕は戦えなかった。
それを責めたじゃないか。
僕は戦った。
それを見てないじゃないか。
僕は誰も助けていない。
僕はみんなを犠牲にした。
父さんはなぜ僕を助けに来たんだ。
こんなに強いなら、里がこんなにめちゃくちゃになることはなかった。
父さんが里にいてくれたら。
あれ、父さんは僕を助けに来た。
僕は父さんに戦わなかったことを怒られた。
里はその間に襲われた。
僕が戦えていたら、父さんは里に残った?
そうしたら、里は無事だった?
僕が戦えていたら、冒険者のみんなは無事だった?
里に父さんが残っていたら、里のみんなは無事だった?
レヴィさんが来てくれたから、今生きている。
もしレヴィさんが来てくれなかったら?
間に合わなかったら?
ぼくが戦えなかったせいで、みんな死んだんじゃないか。
そうだ。
そうだとしても。
そうだとしても僕は……
「父さん。父さんはなんで僕を助けに来たの?」
父は、答えない。
ただ歓声をあげる人たちをまたあの目で見ている。
「ねえ、父さん」
父は、一切僕を見ずに答えた。
「お前が、勇者の息子だからだ」
僕はその言葉を聞いて、意識を失った。
ああ、そうだよね。父さん。
残った魔物たちは父、ジェダ・イスカリオテが瞬く間に倒していく。
僕たちはそれを呆然と眺めていた。
やがて、祈りのような声と共に誰かが父を拝み始めた。
最後の一匹を切り刻み、父は周囲を見渡した。
一息ついた後、ゆっくりとした動作で剣を天に掲げる。
「我々の勝利である!」
父のその宣言と共に、皆が歓声をあげる。
その中にはいつの間に出てきたのか、ドリーたちの姿もあった。
父は、正しく英雄で勇者だった。
僕はただ、それを眺めていた。
レヴィさんはただ僕の肩をぎゅっと抱いてくれていた。
ローブに隠すように。
父はそんな僕を見ると、早足で歩いてきた。
そしてレヴィさんから僕を剥ぎ取るようにローブの中から引っ張り出す。
父は僕の腕を掴み、自分と同じように高らかに挙げさせる。
掴まれた手首が熱く、痛かった。
そしてまた、歓声が起こる。
「もう一人の勇者、ウェダ・イスカリオテに感謝を!」
「ウェダ様!」
「さすが勇者様の御子息だ!」
そんな声が響き渡る。
僕はなにがなんだかわからなくて、泣きそうになる。
助けを求めるように周りを見た。
ドリーは、ただ俯いて拳を握っていた。
アンは、可哀想なものを見るような目で僕を見ていた。
宿屋の女将さんは、複雑そうな顔をしていた。
狩人のサムは、そんな三人を不思議そうに見ていた。
弓の冒険者は、仲間に支えられながら立って笑顔でこちらを見ていた。
ギュンターさんは、兵士たちに声をかけて回っていた。時折、心配そうにこちらをちらちらと見ながら。
レヴィさんは、今にも泣きそうな表情で僕を見ていた。手を伸ばそうとして、その手は力なく落ちた。
父は、僕を見ていなかった。
ただ前を向いていた。
鋭く黒い瞳は、ここにいるなにも見ていないようだった。
そして僕にその瞳を向けて言った。
「ウェダ、よくやった」
何が。
何で。
僕は戦えなかった。
それを責めたじゃないか。
僕は戦った。
それを見てないじゃないか。
僕は誰も助けていない。
僕はみんなを犠牲にした。
父さんはなぜ僕を助けに来たんだ。
こんなに強いなら、里がこんなにめちゃくちゃになることはなかった。
父さんが里にいてくれたら。
あれ、父さんは僕を助けに来た。
僕は父さんに戦わなかったことを怒られた。
里はその間に襲われた。
僕が戦えていたら、父さんは里に残った?
そうしたら、里は無事だった?
僕が戦えていたら、冒険者のみんなは無事だった?
里に父さんが残っていたら、里のみんなは無事だった?
レヴィさんが来てくれたから、今生きている。
もしレヴィさんが来てくれなかったら?
間に合わなかったら?
ぼくが戦えなかったせいで、みんな死んだんじゃないか。
そうだ。
そうだとしても。
そうだとしても僕は……
「父さん。父さんはなんで僕を助けに来たの?」
父は、答えない。
ただ歓声をあげる人たちをまたあの目で見ている。
「ねえ、父さん」
父は、一切僕を見ずに答えた。
「お前が、勇者の息子だからだ」
僕はその言葉を聞いて、意識を失った。
ああ、そうだよね。父さん。
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