7 / 184
第一章
異世界の朝
しおりを挟む
差し込む日差しの温かさに誘われ、瞼をゆっくりと持ち上げた。
普段の万年床とは違う、柔らかで真っ白なシーツの肌触り。
胸元にはさらにふかふかで柔らかな感触がし、抱き締めてみるとお日様の匂いがする。
少しずつ覚醒していく意識の中、俺はぼんやりと天井を見上げた。
古ぼけた木造の天井は、見慣れないがなんだか懐かしい感じがした。
鼻腔をくすぐる食べ物の香りと、窓辺からの小鳥の声。
平和だなぁ、と意味もなく安堵した途端、意識は再び沈み出した。
(もこもこ……気持ちいい……もこもこ)
極上の感触をさらに得ようと、抱き締めたもこもこに頬ずりをする。
しばらくそうしていると、なぜかそれがごそごそと身動ぎした。
「…………?」
不可解に思って目を開けると、至近距離に小さな顔があった。
ピンク色の髪に獣耳、半開きの眼を眠そうにこすりながら、その幼女は大きく欠伸をした。
「おふぁよー、にーたん」
一瞬、思考が追いつかなかったが、一緒に寝ていた相手をようやく思い出し、慌てて返事をした。
「あ、おはよ。リオちゃん」
叔父の征司とその妻リィズさんの娘にして、俺の歳の離れた従姉妹。獣人族の少女。
(ここは異世界でした)
昨日の記憶を反芻し、一息吐く。
あの宴会でしこたま飲まされた割には、さほどアルコールが残っている感覚はない。
生来、強くはないのだが、こちらのエールがそういうものなのか、それとも最後にリィズさんが出してくれた、あの小さな果実のおかげなのか。おそらくは後者だろうが。
「ままも、おあよー」
「はい、おはよう」
にこやかに微笑みながら、リィズさんがトレーに朝食を載せてやってきた。
香ばしい匂いのするパンが入ったバスケットと、湯気立つホットミルクの入った木製のコップ。先ほど、霞がかった意識下で感じた香りはこれだったらしい。
「おはようございます、リィズさん」
「おはようございます。アキト様、こちらへどうぞ」
ベッド脇のテーブルに勧められる。
「えっと、様は止めてもらえますか? 秋人でいいです。様付けなんて、生まれてからされたことないから、なにか変な感じがして……すみません」
こめかみを掻きながら頭を下げると、リィズは小さく噴き出した。
「あ、ごめんなさい。あの人と初めて会ったときを思い出しまして。セージ様ったらおんなじ仕草でおんなじことを言ったものだから、おかしくて。血の繋がりって不思議ですね」
「そうなんですか?」
「もう15年も昔のことですけれど」
トレーをテーブルの上に置き、リィズさんは懐かしそうに呟いた。
15年前というと、叔父がこの異世界にきた時期である。
「ええ。セージ様と最初に出会ったこちらの住人はわたしです。あのときはびっくりしました。誰も住めないはずの森のほうから、血だらけの男の子が出てきて――出てくるなり、ぱたっと倒れてしまって。もう、どうしたものかと右往左往してしまって。ふふっ」
「なんというか、叔父さんらしいですね」
「ええ、まったく」
大人ふたりで笑い合っていると、朝食を前に痺れを切らしたリオちゃんが、ほっぺたをぷくーっと膨らませた。
「にーたん、はやく! ここ、ここ!」
椅子をばんばん叩く。
俺が腰を下ろすと、すかさずその上にリオちゃんが座った。
えへー、と満足げな笑みを浮かべて、一心不乱にパンに噛り付きはじめた。
「あら。ずいぶん懐かれてしまいましたね」
「そうみたいですね。はは」
そういえば昨夜も、当然一人で床に付いたはずである。
寝ている間にリオちゃんが潜り込んできたということだろう。別段、子供から慕われる経験はなかったのだが。
「きっと、セージ様とおんなじ匂いがするからですね」
「匂い? そうなんですか?」
すんすんと自分の匂いを嗅いでみるが、よくわからない。
そもそも自分の匂いなんて意識したことがなかった。
「あ、変な意味ではなくて、気になされたのならごめんなさい。わたしたち獣人は、嗅覚が鋭いので、人間ではわからない匂いも感じ取れますので、そのせいです」
「そー、にーたん。ぱぱとおんなじ! きゃはっ! はい、あーん」
鼻先にパンが差し出される。
ベリー系らしいジャムをふんだんに――というか、リオちゃんの手にまでべっとりと付いた状態で差し出されたパンを、どうやらあーんして食べるのは決定事項らしい。期待でぴこぴこと獣耳が動いている。
リィズさんに目を向けると、苦笑してからこっそり『ごめんなさい』と合掌していた。
気恥ずかしさを抑え、俺は小さな姫様の望むまま、朝食を摂ることに専念した。
普段の万年床とは違う、柔らかで真っ白なシーツの肌触り。
胸元にはさらにふかふかで柔らかな感触がし、抱き締めてみるとお日様の匂いがする。
少しずつ覚醒していく意識の中、俺はぼんやりと天井を見上げた。
古ぼけた木造の天井は、見慣れないがなんだか懐かしい感じがした。
鼻腔をくすぐる食べ物の香りと、窓辺からの小鳥の声。
平和だなぁ、と意味もなく安堵した途端、意識は再び沈み出した。
(もこもこ……気持ちいい……もこもこ)
極上の感触をさらに得ようと、抱き締めたもこもこに頬ずりをする。
しばらくそうしていると、なぜかそれがごそごそと身動ぎした。
「…………?」
不可解に思って目を開けると、至近距離に小さな顔があった。
ピンク色の髪に獣耳、半開きの眼を眠そうにこすりながら、その幼女は大きく欠伸をした。
「おふぁよー、にーたん」
一瞬、思考が追いつかなかったが、一緒に寝ていた相手をようやく思い出し、慌てて返事をした。
「あ、おはよ。リオちゃん」
叔父の征司とその妻リィズさんの娘にして、俺の歳の離れた従姉妹。獣人族の少女。
(ここは異世界でした)
昨日の記憶を反芻し、一息吐く。
あの宴会でしこたま飲まされた割には、さほどアルコールが残っている感覚はない。
生来、強くはないのだが、こちらのエールがそういうものなのか、それとも最後にリィズさんが出してくれた、あの小さな果実のおかげなのか。おそらくは後者だろうが。
「ままも、おあよー」
「はい、おはよう」
にこやかに微笑みながら、リィズさんがトレーに朝食を載せてやってきた。
香ばしい匂いのするパンが入ったバスケットと、湯気立つホットミルクの入った木製のコップ。先ほど、霞がかった意識下で感じた香りはこれだったらしい。
「おはようございます、リィズさん」
「おはようございます。アキト様、こちらへどうぞ」
ベッド脇のテーブルに勧められる。
「えっと、様は止めてもらえますか? 秋人でいいです。様付けなんて、生まれてからされたことないから、なにか変な感じがして……すみません」
こめかみを掻きながら頭を下げると、リィズは小さく噴き出した。
「あ、ごめんなさい。あの人と初めて会ったときを思い出しまして。セージ様ったらおんなじ仕草でおんなじことを言ったものだから、おかしくて。血の繋がりって不思議ですね」
「そうなんですか?」
「もう15年も昔のことですけれど」
トレーをテーブルの上に置き、リィズさんは懐かしそうに呟いた。
15年前というと、叔父がこの異世界にきた時期である。
「ええ。セージ様と最初に出会ったこちらの住人はわたしです。あのときはびっくりしました。誰も住めないはずの森のほうから、血だらけの男の子が出てきて――出てくるなり、ぱたっと倒れてしまって。もう、どうしたものかと右往左往してしまって。ふふっ」
「なんというか、叔父さんらしいですね」
「ええ、まったく」
大人ふたりで笑い合っていると、朝食を前に痺れを切らしたリオちゃんが、ほっぺたをぷくーっと膨らませた。
「にーたん、はやく! ここ、ここ!」
椅子をばんばん叩く。
俺が腰を下ろすと、すかさずその上にリオちゃんが座った。
えへー、と満足げな笑みを浮かべて、一心不乱にパンに噛り付きはじめた。
「あら。ずいぶん懐かれてしまいましたね」
「そうみたいですね。はは」
そういえば昨夜も、当然一人で床に付いたはずである。
寝ている間にリオちゃんが潜り込んできたということだろう。別段、子供から慕われる経験はなかったのだが。
「きっと、セージ様とおんなじ匂いがするからですね」
「匂い? そうなんですか?」
すんすんと自分の匂いを嗅いでみるが、よくわからない。
そもそも自分の匂いなんて意識したことがなかった。
「あ、変な意味ではなくて、気になされたのならごめんなさい。わたしたち獣人は、嗅覚が鋭いので、人間ではわからない匂いも感じ取れますので、そのせいです」
「そー、にーたん。ぱぱとおんなじ! きゃはっ! はい、あーん」
鼻先にパンが差し出される。
ベリー系らしいジャムをふんだんに――というか、リオちゃんの手にまでべっとりと付いた状態で差し出されたパンを、どうやらあーんして食べるのは決定事項らしい。期待でぴこぴこと獣耳が動いている。
リィズさんに目を向けると、苦笑してからこっそり『ごめんなさい』と合掌していた。
気恥ずかしさを抑え、俺は小さな姫様の望むまま、朝食を摂ることに専念した。
5
あなたにおすすめの小説
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~
喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。
おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。
ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。
落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。
機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。
覚悟を決めてボスに挑む無二。
通販能力でからくも勝利する。
そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。
アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。
霧のモンスターには掃除機が大活躍。
異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。
カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。
特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。
黄玉八重
ファンタジー
水無月宗八は意識を取り戻した。
そこは誰もいない大きい部屋で、どうやら異世界召喚に遭ったようだ。
しかし姫様が「ようこそ!」って出迎えてくれないわ、不審者扱いされるわ、勇者は1ヶ月前に旅立ってらしいし、じゃあ俺は何で召喚されたの?
優しい水の国アスペラルダの方々に触れながら、
冒険者家業で地力を付けながら、
訪れた異世界に潜む問題に自分で飛び込んでいく。
勇者ではありません。
召喚されたのかも迷い込んだのかもわかりません。
でも、優しい異世界への恩返しになれば・・・。
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
異世界に転移した僕、外れスキルだと思っていた【互換】と【HP100】の組み合わせで最強になる
名無し
ファンタジー
突如、異世界へと召喚された来栖海翔。自分以外にも転移してきた者たちが数百人おり、神父と召喚士から並ぶように指示されてスキルを付与されるが、それはいずれもパッとしなさそうな【互換】と【HP100】という二つのスキルだった。召喚士から外れ認定され、当たりスキル持ちの右列ではなく、外れスキル持ちの左列のほうに並ばされる来栖。だが、それらは組み合わせることによって最強のスキルとなるものであり、来栖は何もない状態から見る見る成り上がっていくことになる。
優の異世界ごはん日記
風待 結
ファンタジー
月森優はちょっと料理が得意な普通の高校生。
ある日、帰り道で謎の光に包まれて見知らぬ森に転移してしまう。
未知の世界で飢えと恐怖に直面した優は、弓使いの少女・リナと出会う。
彼女の導きで村へ向かう道中、優は「料理のスキル」がこの世界でも通用すると気づく。
モンスターの肉や珍しい食材を使い、異世界で新たな居場所を作る冒険が始まる。
人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)
葵セナ
ファンタジー
主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?
管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…
不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。
曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!
ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。
初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)
ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる