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第二章
異世界での日常 1
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「あ~~~、暇っすねー」
「暇を持て余しているのはナツメだけだから。うちのお店は営業中だし、客もそこそこ来てるからね。閑古ってるような感じに言わないで。人聞きの悪い」
開店して数日が経ち。
初日以降、ナツメは頻繁にシラキ屋に出入りしていた。
入り浸っているというのが正しいかもしれない。
家業の鍛冶屋の三男坊という話だが、本格的な修業は兄たちに任せ、本人はもっぱら雑用を好んでやっているらしい。
そのせいで買い出しという名目のもと、現状に至るというわけだ。
「平和っすね~」
ナツメはこっちの話を聞いているのかいないのか、呑気に珈琲を啜っていた。
椅子に後ろ向きに跨り、背もたれにだらんと上体を預けている。
おもしろ動物の動画サイトで、こんなだらけた生き物の生態を見た気がする。
そんな俺の呆れっぷりも知らずに、ナツメは残った珈琲を飲み干すとおもむろに立ち上がり、お代わりを注ぎにいってから、また何事もなかったように同じポーズに戻る。
先ほどから何度も繰り返されている光景だ。
ちょっとした思いつきから、来客者へのサービスとしてインスタントながら珈琲を振る舞っている。
店内の一角にテーブルを設けてセルフサービスにしているのだが、これがなかなかに好評だ。
そもそも異世界には珈琲がなかったが、独特の苦味は好き嫌いがあるにしろ、香りはおおむね好まれている。
入店したときにほのかに香る匂いが堪らないらしい。
珈琲党の俺が、休憩時に自分用に淹れていたのを、客から問われたのが発端だ。
「自分、茶は苦手なんすけど、これは美味いっすね。癖になる味すよ。売り物としては出さないんすか?」
「売り物にできるほど、安定供給できなからやめとくよ」
というのが建前で、『異世界にないものは流通させたくない』というのが本音だ。
歴史が証明しているが、珈琲が流行らないわけがない。
儲けるためには有効かもしれないが、下手に流通させて流行らせた挙句、利権がらみの事態に巻き込まれでもしたらたいへんだ。
叔父と事前に相談し、どう転がるかわからない物には最初から手を出さないと取り決めていた。
そういうこともあり、周囲には遠い故郷でしか作られないマイナーな飲み物で、思い出したように地元からたまに送られてくる、とだけ説明している。
実際は、同じく珈琲党の叔父の要望もあり、ネット通販で個人用として購入した分の余りだ。
余りといってもとんでもない量があったので、家用で使う分を差し引いても、裏の倉庫にまだまだ充分な量が残っている。
好きなメーカーを選んでもらおうと、発注操作を叔父に任せたのが誤りだった。
いくら賞味期限が長いからとはいえ、まさかケース単位で購入するとは。
何度も頼むのが面倒臭いからと、横着してまとめ買いするのがよくないとの見本だった。
「こんちはー」
ドアのベルと同じように軽快な声音で飛び込んできたのは、リコエッタだ。
冷やかしのナツメと違い、こちらは本物の常連客。
主に食品素材や調味料を買っていっては、新しいお菓子を試作して持ってきてくれるという、ありがたすぎるおまけ付き。
今日もまたリコエッタの腕には、甘い匂いを漂わせるバスケットが抱えられていた。
「やたっ、おやつが来たっすよ」
「あんたのじゃない」
バスケットに伸びたナツメの手を、リコエッタが軽やかに躱す。
「あんた、今日もいるの? 親父さんにまたどやされるわよ?」
「いーんですよぉー、お構いなくぅー」
ここ最近の定番となった一連の流れだ。
「まあまあ。今回もリコエッタの新作?」
「そうなの。今日はちょっと自信作! アキトのとこは珍しいハーブとか調味料があるから、創作意欲が湧くわー」
「じゃあお客も途切れたし、ちょっと休憩にしようかな。リコエッタも珈琲でいい?」
「あたし、カフェオレお願いできる?」
「あんちゃん自分も珈琲お代わりで、よろしくっす」
「はいはい。ただいま」
追加のカップを取りに奥に下がる。
なんだか、大きな弟や妹ができた気分だ。
実際には同じくらいの年頃の妹がいるが、もう何年もスマホでの声や文字だけの繋がりなので、こうして直に接するのも新鮮な感じがする。
カップを両手に戻ると、さっそくリコエッタがいつものごとくテーブルに新作の焼き菓子を広げていた。
場合によっては、気さくな来客がこれに混じることもある。
異世界ならではなのかこの街の風潮なのかわからないが、この堅苦しくない雰囲気は気に入っている。
試食と品評を終えて一息吐き、全員で珈琲を啜っていた。
リコエッタが切り出してきたのは、そんなときだ。
「アキトはもうギルドに加入したの?」
「ギルド?」
自然と鸚鵡返ししてしまう。
俺の知識でのギルドは、ラノベでお馴染みの冒険者ギルドや、ゲームのプレイヤーギルドくらいしかない。
いきなりこの場面で問われるにしては、あまりに脈絡がないので違いそうだけど。
素直に知らない旨を告げると、「そういうのもあるけどね」と言ってから、リコエッタは続けた。
それはそれで、あるんだ。
「暇を持て余しているのはナツメだけだから。うちのお店は営業中だし、客もそこそこ来てるからね。閑古ってるような感じに言わないで。人聞きの悪い」
開店して数日が経ち。
初日以降、ナツメは頻繁にシラキ屋に出入りしていた。
入り浸っているというのが正しいかもしれない。
家業の鍛冶屋の三男坊という話だが、本格的な修業は兄たちに任せ、本人はもっぱら雑用を好んでやっているらしい。
そのせいで買い出しという名目のもと、現状に至るというわけだ。
「平和っすね~」
ナツメはこっちの話を聞いているのかいないのか、呑気に珈琲を啜っていた。
椅子に後ろ向きに跨り、背もたれにだらんと上体を預けている。
おもしろ動物の動画サイトで、こんなだらけた生き物の生態を見た気がする。
そんな俺の呆れっぷりも知らずに、ナツメは残った珈琲を飲み干すとおもむろに立ち上がり、お代わりを注ぎにいってから、また何事もなかったように同じポーズに戻る。
先ほどから何度も繰り返されている光景だ。
ちょっとした思いつきから、来客者へのサービスとしてインスタントながら珈琲を振る舞っている。
店内の一角にテーブルを設けてセルフサービスにしているのだが、これがなかなかに好評だ。
そもそも異世界には珈琲がなかったが、独特の苦味は好き嫌いがあるにしろ、香りはおおむね好まれている。
入店したときにほのかに香る匂いが堪らないらしい。
珈琲党の俺が、休憩時に自分用に淹れていたのを、客から問われたのが発端だ。
「自分、茶は苦手なんすけど、これは美味いっすね。癖になる味すよ。売り物としては出さないんすか?」
「売り物にできるほど、安定供給できなからやめとくよ」
というのが建前で、『異世界にないものは流通させたくない』というのが本音だ。
歴史が証明しているが、珈琲が流行らないわけがない。
儲けるためには有効かもしれないが、下手に流通させて流行らせた挙句、利権がらみの事態に巻き込まれでもしたらたいへんだ。
叔父と事前に相談し、どう転がるかわからない物には最初から手を出さないと取り決めていた。
そういうこともあり、周囲には遠い故郷でしか作られないマイナーな飲み物で、思い出したように地元からたまに送られてくる、とだけ説明している。
実際は、同じく珈琲党の叔父の要望もあり、ネット通販で個人用として購入した分の余りだ。
余りといってもとんでもない量があったので、家用で使う分を差し引いても、裏の倉庫にまだまだ充分な量が残っている。
好きなメーカーを選んでもらおうと、発注操作を叔父に任せたのが誤りだった。
いくら賞味期限が長いからとはいえ、まさかケース単位で購入するとは。
何度も頼むのが面倒臭いからと、横着してまとめ買いするのがよくないとの見本だった。
「こんちはー」
ドアのベルと同じように軽快な声音で飛び込んできたのは、リコエッタだ。
冷やかしのナツメと違い、こちらは本物の常連客。
主に食品素材や調味料を買っていっては、新しいお菓子を試作して持ってきてくれるという、ありがたすぎるおまけ付き。
今日もまたリコエッタの腕には、甘い匂いを漂わせるバスケットが抱えられていた。
「やたっ、おやつが来たっすよ」
「あんたのじゃない」
バスケットに伸びたナツメの手を、リコエッタが軽やかに躱す。
「あんた、今日もいるの? 親父さんにまたどやされるわよ?」
「いーんですよぉー、お構いなくぅー」
ここ最近の定番となった一連の流れだ。
「まあまあ。今回もリコエッタの新作?」
「そうなの。今日はちょっと自信作! アキトのとこは珍しいハーブとか調味料があるから、創作意欲が湧くわー」
「じゃあお客も途切れたし、ちょっと休憩にしようかな。リコエッタも珈琲でいい?」
「あたし、カフェオレお願いできる?」
「あんちゃん自分も珈琲お代わりで、よろしくっす」
「はいはい。ただいま」
追加のカップを取りに奥に下がる。
なんだか、大きな弟や妹ができた気分だ。
実際には同じくらいの年頃の妹がいるが、もう何年もスマホでの声や文字だけの繋がりなので、こうして直に接するのも新鮮な感じがする。
カップを両手に戻ると、さっそくリコエッタがいつものごとくテーブルに新作の焼き菓子を広げていた。
場合によっては、気さくな来客がこれに混じることもある。
異世界ならではなのかこの街の風潮なのかわからないが、この堅苦しくない雰囲気は気に入っている。
試食と品評を終えて一息吐き、全員で珈琲を啜っていた。
リコエッタが切り出してきたのは、そんなときだ。
「アキトはもうギルドに加入したの?」
「ギルド?」
自然と鸚鵡返ししてしまう。
俺の知識でのギルドは、ラノベでお馴染みの冒険者ギルドや、ゲームのプレイヤーギルドくらいしかない。
いきなりこの場面で問われるにしては、あまりに脈絡がないので違いそうだけど。
素直に知らない旨を告げると、「そういうのもあるけどね」と言ってから、リコエッタは続けた。
それはそれで、あるんだ。
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