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第二章
異世界での日常 2
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「商工会ギルドのことよ。けっこう細かいギルドに分かれてて、お店やっている人は、どっかのギルドに加入するのが暗黙の決まりなの。うちはパン屋だから食職人ギルドね」
「自分のとこは鍛冶職人ギルドっすねー」
ふたりの言うところによると、ジャンルに拘らない素材を扱うウチの店は、加入できそうなギルドが多岐に渡るらしい。
大きな括りでは、商人ギルドや魔法具ギルド。
ジャンル別になると食糧品ギルドや園芸ギルド、工芸ギルドに魔鉱石ギルドなど。
さらに小さくなると、複数の食材や素材に分かれたギルドまであるらしい。
デジーの店は魔道具ギルドかと思いきや、魔道具技師ギルドで、双子の宿屋は施設ギルドとのことだ。
似通った活動内容でも細分化したがるのは、大学での同好会やサークルのノリに近くも思える。
恐ろしいのは、どこのギルドにも所属していないことが知れると、営業妨害そっちのけで熾烈な勧誘競争が始まって、手酷い目に遭うことだった。
そこも同好会やサークルと同様だ。大学入学時の壮絶な新人勧誘合戦に巻き込まれた悪夢が思い出される。
「一度オーナーに相談してみるよ。前もって教えてもらえて助かったよ」
「早いほうがいいわよ? 在籍店舗数で街からの助成金額が変わるから、どこのギルドも必死だからね」
「でもまあ、そんなことで争えるっても今が平和ってことっすよ。ギルドの数が増えたのなんて、ここ数年のことっすから。さっき、あんちゃんが言ったみたいに、昔は冒険者ギルドくらいしかまともに機能してなかったっすからね」
「でも冒険者ギルドって、どっちかというと互助会の面が強くない? 今は冒険者自体が減って、ほとんど形骸化してるんじゃないの?」
「いーやいや、ここだけの話……そーでもないらしいすよ?」
ナツメが声を潜め、テーブルに這うように身を屈めた。
「……それって、どーいうこと?」
「……なになに、いつものナツメ情報?」
皆揃って律儀に頭を突き合わせる。俺含めて付き合いがいい。
店内の一角のテーブルで3人の男女がこそこそと密談する図は、第三者からどう見られるかと思わなくもなかったが、とりあえずノリ的にも続行した。
ちなみにナツメ情報とは、なぜかやたらと顔の広いナツメがどこからか仕入れてくる取っておきの情報で、それなりに高精度を誇るとはリコエッタの談である。
などと、気楽に構えていた俺の予想を裏切って、その話が重い内容であることをすぐに知る羽目になった。
「6年前に戦争が終わって、下火だった冒険者ギルドの活動が最近になって活発化してるって噂なんすよ」
「それって、もしかしなくても魔王の……?」
「ついに動きだしたんじゃないか――って話っすね」
「……えー、せっかく平和になったのに……」
リコエッタの上体が沈み、さらにぺたんと机に突っ伏した。
話についていけず、俺は思わず口を挟んだ。
「魔王って死んだんじゃないの? 勇者によって」
そう、叔父の征司の活躍で。
少なくとも、そう聞いている。
「もちろん前の魔王じゃなくって、今のほうすよ」
前? 今?
「やっぱ本当だったんだ……あんまり世の中静かだから、新しい魔王の継承なんて眉唾と思ってた、あたし。はぁ……」
新しい魔王の継承?
なにか聞き捨てならない単語が出てきた。
「山向こうの小さな村が、魔獣を従えた魔族に襲われたらしいすよ。これも魔王の命令じゃないかって言われてるっす」
「ああ~~信じたくないけど、ナツメ情報だからなぁ。また戦争起こったりしないよねぇ?」
戦争終結が6年前ということは、このふたりも当然のことながら戦時を体験していたことになる。
知識としては理解していたが、自分とそう違わない年代の子が、世間話と同レベルで戦争を口にするさまは、異世界生活に慣れてきたと思っていただけに衝撃だった。
魔獣は実際に目にしたし、魔族も本当にいるのだろう。
そして、魔王も。
周囲を取り巻く環境が、日本と同じくあまりにも平穏で賑やかだったから忘れそうになったが、ここはあくまで異なる世界。
楽しいばかりじゃなく、危険と隣り合わせの世界。それは最初からわかっていたことだ。
その異世界で働くと決めたからには、考えを切り替えないといけない。
知れることは知り、情報はなるべくたくさん持っていたほうがいい。
「ふたりは魔族に会ったことがあるの?」
せっかくなので、話の流れで訊いてみることにした。
「会ってたら、きっとこうして生きてないっすけどね」
「あたしもないわね。でも、魔族って魔法を使えるってこと以外、外見はあたしちたちとほとんど見分けつかないって言うじゃない? 知らずに街ですれ違ってたら――って、まさかね。さすがにないか~」
魔族のことは、職業柄デジーが詳しいらしい。
以前にリコエッタがデジーに聞いたところによると、見た目でのわかりやすい差異として、魔族は例外なく銀色の瞳をしており、有角であるらしい。
魔石と同じく、角が周囲の魔素を魔力に変換する役割を負い、体内に蓄える魔力が強ければ強いほど、瞳が眩い銀色の光を放つということだ。いかにも魔石の性質と似通っている。
(ん? 銀色の眼と、角……?)
なにか、どこかで見たような……
記憶の片隅に引っ掛かることがあったが、それこそまさかなので、気にしないことにした。
その後、脱線していた話も戻り、ふたりからギルドに関することを色々と教えてもらえて有意義に過ごせた。
新たな客の来店と入れ替わりに、リコエッタは自分の店へと戻り、程なくしてナツメも親父さんにサボりがバレて連行されていった。
夕方前にはペシルとパニムの双子が遊びにきてひとしきりからかわれ、閉店間際には仕事帰りのデジーがもの欲しそうに魔法具の素材を無言で眺めていた。
夕暮れ近くなると客足が途絶えるため、早めに店を閉めて帰路に着く。
いつも通りの日常だった。
「自分のとこは鍛冶職人ギルドっすねー」
ふたりの言うところによると、ジャンルに拘らない素材を扱うウチの店は、加入できそうなギルドが多岐に渡るらしい。
大きな括りでは、商人ギルドや魔法具ギルド。
ジャンル別になると食糧品ギルドや園芸ギルド、工芸ギルドに魔鉱石ギルドなど。
さらに小さくなると、複数の食材や素材に分かれたギルドまであるらしい。
デジーの店は魔道具ギルドかと思いきや、魔道具技師ギルドで、双子の宿屋は施設ギルドとのことだ。
似通った活動内容でも細分化したがるのは、大学での同好会やサークルのノリに近くも思える。
恐ろしいのは、どこのギルドにも所属していないことが知れると、営業妨害そっちのけで熾烈な勧誘競争が始まって、手酷い目に遭うことだった。
そこも同好会やサークルと同様だ。大学入学時の壮絶な新人勧誘合戦に巻き込まれた悪夢が思い出される。
「一度オーナーに相談してみるよ。前もって教えてもらえて助かったよ」
「早いほうがいいわよ? 在籍店舗数で街からの助成金額が変わるから、どこのギルドも必死だからね」
「でもまあ、そんなことで争えるっても今が平和ってことっすよ。ギルドの数が増えたのなんて、ここ数年のことっすから。さっき、あんちゃんが言ったみたいに、昔は冒険者ギルドくらいしかまともに機能してなかったっすからね」
「でも冒険者ギルドって、どっちかというと互助会の面が強くない? 今は冒険者自体が減って、ほとんど形骸化してるんじゃないの?」
「いーやいや、ここだけの話……そーでもないらしいすよ?」
ナツメが声を潜め、テーブルに這うように身を屈めた。
「……それって、どーいうこと?」
「……なになに、いつものナツメ情報?」
皆揃って律儀に頭を突き合わせる。俺含めて付き合いがいい。
店内の一角のテーブルで3人の男女がこそこそと密談する図は、第三者からどう見られるかと思わなくもなかったが、とりあえずノリ的にも続行した。
ちなみにナツメ情報とは、なぜかやたらと顔の広いナツメがどこからか仕入れてくる取っておきの情報で、それなりに高精度を誇るとはリコエッタの談である。
などと、気楽に構えていた俺の予想を裏切って、その話が重い内容であることをすぐに知る羽目になった。
「6年前に戦争が終わって、下火だった冒険者ギルドの活動が最近になって活発化してるって噂なんすよ」
「それって、もしかしなくても魔王の……?」
「ついに動きだしたんじゃないか――って話っすね」
「……えー、せっかく平和になったのに……」
リコエッタの上体が沈み、さらにぺたんと机に突っ伏した。
話についていけず、俺は思わず口を挟んだ。
「魔王って死んだんじゃないの? 勇者によって」
そう、叔父の征司の活躍で。
少なくとも、そう聞いている。
「もちろん前の魔王じゃなくって、今のほうすよ」
前? 今?
「やっぱ本当だったんだ……あんまり世の中静かだから、新しい魔王の継承なんて眉唾と思ってた、あたし。はぁ……」
新しい魔王の継承?
なにか聞き捨てならない単語が出てきた。
「山向こうの小さな村が、魔獣を従えた魔族に襲われたらしいすよ。これも魔王の命令じゃないかって言われてるっす」
「ああ~~信じたくないけど、ナツメ情報だからなぁ。また戦争起こったりしないよねぇ?」
戦争終結が6年前ということは、このふたりも当然のことながら戦時を体験していたことになる。
知識としては理解していたが、自分とそう違わない年代の子が、世間話と同レベルで戦争を口にするさまは、異世界生活に慣れてきたと思っていただけに衝撃だった。
魔獣は実際に目にしたし、魔族も本当にいるのだろう。
そして、魔王も。
周囲を取り巻く環境が、日本と同じくあまりにも平穏で賑やかだったから忘れそうになったが、ここはあくまで異なる世界。
楽しいばかりじゃなく、危険と隣り合わせの世界。それは最初からわかっていたことだ。
その異世界で働くと決めたからには、考えを切り替えないといけない。
知れることは知り、情報はなるべくたくさん持っていたほうがいい。
「ふたりは魔族に会ったことがあるの?」
せっかくなので、話の流れで訊いてみることにした。
「会ってたら、きっとこうして生きてないっすけどね」
「あたしもないわね。でも、魔族って魔法を使えるってこと以外、外見はあたしちたちとほとんど見分けつかないって言うじゃない? 知らずに街ですれ違ってたら――って、まさかね。さすがにないか~」
魔族のことは、職業柄デジーが詳しいらしい。
以前にリコエッタがデジーに聞いたところによると、見た目でのわかりやすい差異として、魔族は例外なく銀色の瞳をしており、有角であるらしい。
魔石と同じく、角が周囲の魔素を魔力に変換する役割を負い、体内に蓄える魔力が強ければ強いほど、瞳が眩い銀色の光を放つということだ。いかにも魔石の性質と似通っている。
(ん? 銀色の眼と、角……?)
なにか、どこかで見たような……
記憶の片隅に引っ掛かることがあったが、それこそまさかなので、気にしないことにした。
その後、脱線していた話も戻り、ふたりからギルドに関することを色々と教えてもらえて有意義に過ごせた。
新たな客の来店と入れ替わりに、リコエッタは自分の店へと戻り、程なくしてナツメも親父さんにサボりがバレて連行されていった。
夕方前にはペシルとパニムの双子が遊びにきてひとしきりからかわれ、閉店間際には仕事帰りのデジーがもの欲しそうに魔法具の素材を無言で眺めていた。
夕暮れ近くなると客足が途絶えるため、早めに店を閉めて帰路に着く。
いつも通りの日常だった。
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