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第四章

あらためて、妹  1

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 小さな子供のように泣き叫ぶ春香、泣きつかれて狼狽える俺、おろおろ動揺する他全員――目を覆いたくなるようなカオスな状況に、とてもではないが収拾がつかなくなった。
 皆には異世界云々の話をいっさい伏せた上で、行方知れずの妹を捜していた事実のみを手短に説明した。

 聞いたところによると、春香はずっとリコエッタのお世話になっていたらしい。
 ずいぶんと親身になってくれていたようで、俺たちが再会できたことにリコエッタは涙ぐんで喜んでくれていた。
 見知らぬ異世界で、リコエッタが春香を見つけてくれた偶然に、心から感謝したいと思った。

 それにしても、灯台もと暗しとはよく言ったものだ。まさか捜し求めていた妹が、シラキ屋の目と鼻の先にいようとは。

 とにかくまずは店を出て、いったん家に連れ帰ろうとしたのだが、どういうわけか春香は街から出ることを頑なに拒絶した。
 その様子から、街へ至るまでによほど辛い思いをしたのは想像に難くない。それでもここは説得するしかなかった。

 それから数十分後の街の外。
 先導する俺の上着の裾をしっかりと握り締め、春香はおっかなびっくりながらも付いてきてくれた。

 道中では、この異世界と、これまでの経緯を順を追って丁寧に説明した。
 春香は終始うつむき加減だったが、じっと耳を傾けて聞いてくれているようだった。

「……なにそれ。マンガみたい」

 説明を聞き終わり、春香はぼそりと漏らした。

「俺も最初は戸惑ったよ」

「嘘だ。にいちゃんのことだから、喜んでたんでしょ」

「ばれたか。ま、そのとおりだったんだけどな」

 あえておちゃらけてみせると、春香は初めて小さくても笑顔を見せた。

「この道を後1時間くらい歩くと、その……征司叔父さんの家に着くの?」

「道?」

「この道。違うの?」

 春香が指しているのは 、今歩いている地面だった。
 一面に丈の低い草が生い茂る中、踏み均されて地肌を晒すその場所は、確かに道に見えなくもない。

「ああ、なるほど道ね。これって、俺が毎日街と家とを往復しているから、足跡が自然とそれっぽくなっただけなんだけどね」

「……ということは、最初から反対方向に行ってたら、にいちゃんとも簡単に合流できてたってこと……?」

 春香が聞き取れないくらいの小声で独白する。

「えいえい」

「痛い痛い。なんで蹴るんだよ?」

 何故かふくらはぎに蹴りを入れられた。

「こんなとこ、毎日行き来してたら危険じゃないの? その……出るでしょ? 変なのが……」

「野犬のこと? そうだなあ……5日に1回あるかないかくらい? それも中型犬1匹くらいだから簡単に追い払えるし」

「えいえい」

「だから、なんで蹴られてるの、俺?」

「……小鬼みたいな生き物は?」

「ん~? 見たことないなあ。この辺りに魔物の類はいないみたいだし」

「えいえい」

 執拗に蹴られる。

「えいえいえい」

「痛い痛い、地味に痛いから」

「えいえいえいえい」

「やめてやめて。そろそろ本格的に痛いよ? え、俺なにかした?」

 そうして理由もわからないまま、俺は理不尽に蹴られ続けるのだった。
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