異世界の叔父のところに就職します

まはぷる

文字の大きさ
153 / 184
第九章

悪魔、招来 3

しおりを挟む
 ふたりの口ぶりからも、男魔族のほうは先天的な好事家だ。
 珍しい精霊使いということで、男魔族は俺個人に興味を持ったに違いない。でなければ、女魔族の次の一撃で死んでいた。

 今度は、その興味を持った相手が話す内容にも興味を抱き始めている。
 ならば、この流れで引っ張り、できる限り時間を稼ぐしかない。

「できやしない――いや、多分、する気がないはずだ。だって、叔父さんは魔王殺しの大勇者。とびっきりのジョーカー。あんたの言葉を借りるなら、遊戯盤のラスボスだ」

「ラスボス?」

「最終的な討伐目的ってことだよ」

「なるほどね、続けて」

「叔父さんの家族に手を出したら最後だ。叔父さんはなにを置いてもあんたらに喰らいつき、滅ぼすまで絶対に止まらない。常にプレイヤーとして遊戯盤を動かし、駒遊びに興じたいあんたらには、直接対決なんて、もっとも望まない展開のはずだ」

「それなら勇者を返り討ちにしてしまえば、後はのんびりと遊べるということにならないかな?」

「それはないね」

 男魔族の問いかけに、断言で返した。

「……どうしてかな?」

「面白くないから」

「…………へぇ」

 男魔族の眼が細められ、端正な顔がいびつに歪んだ。

「ゲームの楽しみなんて、ラスボスあってのことだ。あっさりラスボスが倒されたゲームのなにが楽しいのかな? ただでも魔族と人間の戦力は、叔父さんあってようやくバランスが保たれているようなものだろ? ここで人間側のラスボスである叔父さんがいなくなったら、魔族側のワンサイドゲームだ。あんたらがどんなにイベントを起こそうとも、もう大勢は決してる。平和の中でこそ、悲劇が悲劇、絶望が絶望足るんだ。悲惨な日常の中で、どんなに盛り上げようとイベントを仕組んでも、それもただの日常。面白くもなんともない。結果がわからないからこそ、過程を楽しめるんだ。結果のわかりきったゲームなんて、ただのクソゲーだ。やる価値もない」

 一息にまくしたてる。
 一気に喋りすぎたせいで、喉が痛い。

 それでもその甲斐はあったようで、俺が話し終えるまで、男魔族は黙って聞いていた。

 核心を突けたかどうかまではわからないが、それでも芯には迫れたはず。
 俺自身、話しながら悟ったのだが、この魔族は本当に単に遊んでいるだけなのかもしれない。
 現代日本で、子供が虚構のゲームの世界に没頭するかのごとく。

 そこに在るのは、楽しいか否か。
 歓喜だろうと悲哀だろうと感動であろうと絶望であろうと、その内容は千差万別あっても最後に抱く感想とは「総じてそれは面白かったのか?」ということ。そこに行き着く。
 連中の話していた内容はまさにそれだ。
 本人の言葉通りに、ただの遊戯としてのゲーム。ゲームとして考えれば、共感こそできなくても理解はできる。

 ぱちぱちぱち――

 男魔族は手を叩きながら、肩を小刻みに震わせて嗤っていた。

「ふふっ、ふふふふ……いや、失礼。馬鹿にしたわけではないんだ。実に素晴らしいと思ってね。きみは面白いよ」

「褒められても嬉しくない」

「名を聞かせてもらえないかな? 精霊使いくんでは味気ないだろ」

「……秋人」

「アキトくんね。覚えておこう」

「あ~らら。兄さまに気に入られるなんて、可哀想に」

 女魔族が口元を押さえて、聞き捨てならないことを仄めかしていた。

「わしも素晴らしいと思いますぞ、アキト殿」

 急に横から口を挟んできたのは、ダナン副団長だった。

 それまで空気と化していた騎士の突然の発言に、瞬間、この場にいる全員の注意がそちらへ向く。

「もう充分」

 ダナンが咥えていた突起物を地面に吐き捨てた。

「馬笛……ですかな?」

 マドルクさんの知識からか、サルバーニュが訝しげに呟いた。

「如何にも。ベルデン騎士は兵馬一体なればこそ、馬笛を用いて馬を操るはお手の物。誘導も自由自在よ」

 その直後――
 ダナン副団長の言葉に呼応するように、魔族たちの背後の物陰から一頭の馬が猛然と突っ込んできた。

 馬を駆るのはひとりの騎士。
 その騎士には見覚えがある。

「ベルデン騎士団が騎士団長、カーティス・パッツォ! 参る!」

 騎馬の突進力そのままに、カーティス団長が馬上から斬りかかり、咄嗟に主を庇おうとしたサルバーニュの右腕が宙を舞う。

 完全な意識外からの奇襲だった。
 それでも、さすがに最上級魔族、対処も反応も素早かった。

「この痴れ者っ!」

 駆け抜ける騎馬を軽やかに舞って躱し、女魔族がカーティスに指先を向けた。

「遅えよ」

「なっ!?」

 そのときには既に、女魔族の眼前に叔父の姿があった。

 叔父の拳が握り締められ、上腕の筋肉がはち切れんばかりに盛り上がっている。

「ふっ!」

 呼吸音と共に放たれた右拳は、唸りを上げて女魔族の脇腹に炸裂し、そのまま20メートル近くもその細い肢体を横殴りに弾き飛ばした。

 瞬間的に火花が散ったのは、防御魔法かカウンター魔法か。
 しかし、そのどちらにしても、叔父の鉄拳は意に介さずに打ち破っていた。

「くぅっ! 女性に手を上げるなんて、マナーがなっていないわね、勇者!」

 強がるが、相当のダメージであることは否めないだろう。
 口の端からは血を流し、脇腹を押さえて苦悶の表情を必死に堪えている。
 内臓をやったかアバラが折れたか――その両方か。倒れずに踏み止まったのはさすがというべきかもしれない。

しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。

黄玉八重
ファンタジー
水無月宗八は意識を取り戻した。 そこは誰もいない大きい部屋で、どうやら異世界召喚に遭ったようだ。 しかし姫様が「ようこそ!」って出迎えてくれないわ、不審者扱いされるわ、勇者は1ヶ月前に旅立ってらしいし、じゃあ俺は何で召喚されたの? 優しい水の国アスペラルダの方々に触れながら、 冒険者家業で地力を付けながら、 訪れた異世界に潜む問題に自分で飛び込んでいく。 勇者ではありません。 召喚されたのかも迷い込んだのかもわかりません。 でも、優しい異世界への恩返しになれば・・・。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

異世界に転移した僕、外れスキルだと思っていた【互換】と【HP100】の組み合わせで最強になる

名無し
ファンタジー
突如、異世界へと召喚された来栖海翔。自分以外にも転移してきた者たちが数百人おり、神父と召喚士から並ぶように指示されてスキルを付与されるが、それはいずれもパッとしなさそうな【互換】と【HP100】という二つのスキルだった。召喚士から外れ認定され、当たりスキル持ちの右列ではなく、外れスキル持ちの左列のほうに並ばされる来栖。だが、それらは組み合わせることによって最強のスキルとなるものであり、来栖は何もない状態から見る見る成り上がっていくことになる。

優の異世界ごはん日記

風待 結
ファンタジー
月森優はちょっと料理が得意な普通の高校生。 ある日、帰り道で謎の光に包まれて見知らぬ森に転移してしまう。 未知の世界で飢えと恐怖に直面した優は、弓使いの少女・リナと出会う。 彼女の導きで村へ向かう道中、優は「料理のスキル」がこの世界でも通用すると気づく。 モンスターの肉や珍しい食材を使い、異世界で新たな居場所を作る冒険が始まる。

人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)

葵セナ
ファンタジー
 主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?  管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…  不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。   曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!  ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。  初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)  ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。

処理中です...