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第九章
悪魔、招来 2
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「さて、もうここには用はない。さっさと引き上げようか」
「して、主よ。後始末はいかがなさいますかな?」
サルバーニュの視線が周囲を一巡した。
サルバーニュが示唆するのが、騎士団をはじめとしたここにいる者たちであることはすぐに知れた。
この魔族たちがわずかでもその気になれば、ほぼ全員が一瞬で灰となる。それくらいは本能でわかる。
しかし、リーダー格と思しき男魔族は、やはり興味なさそうに肩をすくめていた。
「いい。放っておけ。殺すのは簡単だが、こんなところで駒が減るのはいただけない。駒も有限だ。繰り返し遊ぶためにも、取っておこう」
「御意。御心のままに」
「おいおい。そう急ぐなよ。もちっと遊んでけ」
3人の魔族の前に、叔父が立ち塞がった。
叔父が醸し出す迫力は、これまで見たことがないほど凄まじい。
口調は穏やかだが、抑え切れないほどの激情が内面で迸っている。
「……困るね、勇者。ボクたちはあなたに手出しするつもりはないんだ。ここは素直に見送ってくれないかな?」
男魔族の差し出された手が、リィズさんとリオちゃんに向けられる。
「家族を消し炭にされたくはないだろ?」
「ちっ」
叔父の舌打ちと共に動きも止まった。
さすがの叔父も攻めあぐねているようだ。
相手は高位魔族の3人、しかも叔父は武装していない。
惨殺丸があれば状況が覆りそうだが、あれは家にしまったままだ。
取りに行く暇もなければ、叔父以外には持ち上げることもできない。
今ここで連中を逃せば禍根を残すだろう。
そんなことは俺でさえ理解できる。
きっと多くの人々が陰謀にも満たない遊戯に弄ばれ、命を落とすに違いない。
魔族たちはなんだかんだで、叔父の動向をつぶさに観察していた。
逆に言うと勇者を脅威として捉えている証拠だ。
隙さえ作ることができれば、きっと叔父がなんとかしてくれるはず――覚悟を決めるしかない。
「……どうせ、手出しするつもりなんてないくせに」
本能的に恐怖で震える膝を押さえつけて、必死に声を絞り出した。
すでに精霊から伝わる警戒信号は、危険レベルまで達している。
声を発したことで、初めて俺の存在に気づきでもしたように、魔族たちの視線がこちらに向いた。
「無礼ですよ、人間。今、兄さまがお話中というのに」
女魔族がしなやかな指先で自らの唇をなぞる。
ただそれだけの挙動に、明確な死の匂いを嗅いだ。
「焔に抱かれて散りなさい」
「うわっ!?」
巻き上がった灼熱の業火が、瞬間的に俺の全身を包み込む。
「秋人!!」
「……だ、大丈夫……辛うじて、だけど……」
叔父の呼びかけに、炎の中から答えた。
やがて火球が、外側に向かって弾け飛ぶ。
「あら?」
女魔族の感心したような、不思議そうな声。
(や、やばすぎる。いきなり殺しにかかるとは。絶対、死んだと思った……)
炎に巻かれようとした瞬間、確かに見た。
翅を持つ小さな光の人型が、手足を精一杯広げて、目の前に立ちはだかるのを。
俺の立つ場所を除いた周囲の地面が、焼けて黒く炭化してしまっていた。
直撃していたら、俺もそうなっていただろう。また……命を助けられた。
「へえ!?」
楽しげな声を上げたのは意外にも男魔族だった。
それまでは、なにをしていてもどこか興味なさそうだったが、打って変わって興味深げに大きく目を開いている。
「風の防御壁みたいだけど、魔力の流れを感じなかった。今のは精霊魔法かい? これは珍しい、きみは人間の精霊使いか!」
「あらら。兄さまの悪い癖が……」
隣で女魔族が、額を押さえて顔を曇らせていた。
予想とは多少違っていたが、注意を引くことはできた。
だが、まだ弱い。狡猾そうなサルバーニュが叔父の動向に目を光らせている。
サルバーニュはさりげなく常に立ち位置を変え、叔父と相対するように移動していた。
これではさしもの叔父でも、双子の魔族に打撃を与えるのは至難の業だろう。
「……アキト殿。そのままで気取られぬよう。もう少し連中の気を引いて時間稼ぎを」
背後から小声で語りかけてきたのは、意外にもダナン副団長だった。
先ほどから地面に蹲ったままで、高位魔族相手にてっきり戦意喪失しているのかと思いきや――俯きがちの顔から覗く視線には、怯えの一欠片も窺えない。
いかにも悲嘆に暮れるかのように顔面を押さえる手の隙間からは、なにか口に咥える突起物が見えていた。
どのみち、手はない。
いけ好かない人物だが、秘策でもあるのならそれに縋ってみるしかない。
「叔父さん、リオちゃんたちのことは心配しないでいいよ。どうせ、そいつらにリオちゃんたちを害することなんて、できやしないんだから」
「人間風情が、また無礼な口を。今度こそ燃やし尽くして――」
即座に女魔族が反応するが、それを止めたのは男魔族だった。
「いいじゃないか。精霊使いくんの言い分を聞いてみよう。これも余興だ」
危険な綱渡りに内心で焦りながらも、頭をフル回転させる。
「して、主よ。後始末はいかがなさいますかな?」
サルバーニュの視線が周囲を一巡した。
サルバーニュが示唆するのが、騎士団をはじめとしたここにいる者たちであることはすぐに知れた。
この魔族たちがわずかでもその気になれば、ほぼ全員が一瞬で灰となる。それくらいは本能でわかる。
しかし、リーダー格と思しき男魔族は、やはり興味なさそうに肩をすくめていた。
「いい。放っておけ。殺すのは簡単だが、こんなところで駒が減るのはいただけない。駒も有限だ。繰り返し遊ぶためにも、取っておこう」
「御意。御心のままに」
「おいおい。そう急ぐなよ。もちっと遊んでけ」
3人の魔族の前に、叔父が立ち塞がった。
叔父が醸し出す迫力は、これまで見たことがないほど凄まじい。
口調は穏やかだが、抑え切れないほどの激情が内面で迸っている。
「……困るね、勇者。ボクたちはあなたに手出しするつもりはないんだ。ここは素直に見送ってくれないかな?」
男魔族の差し出された手が、リィズさんとリオちゃんに向けられる。
「家族を消し炭にされたくはないだろ?」
「ちっ」
叔父の舌打ちと共に動きも止まった。
さすがの叔父も攻めあぐねているようだ。
相手は高位魔族の3人、しかも叔父は武装していない。
惨殺丸があれば状況が覆りそうだが、あれは家にしまったままだ。
取りに行く暇もなければ、叔父以外には持ち上げることもできない。
今ここで連中を逃せば禍根を残すだろう。
そんなことは俺でさえ理解できる。
きっと多くの人々が陰謀にも満たない遊戯に弄ばれ、命を落とすに違いない。
魔族たちはなんだかんだで、叔父の動向をつぶさに観察していた。
逆に言うと勇者を脅威として捉えている証拠だ。
隙さえ作ることができれば、きっと叔父がなんとかしてくれるはず――覚悟を決めるしかない。
「……どうせ、手出しするつもりなんてないくせに」
本能的に恐怖で震える膝を押さえつけて、必死に声を絞り出した。
すでに精霊から伝わる警戒信号は、危険レベルまで達している。
声を発したことで、初めて俺の存在に気づきでもしたように、魔族たちの視線がこちらに向いた。
「無礼ですよ、人間。今、兄さまがお話中というのに」
女魔族がしなやかな指先で自らの唇をなぞる。
ただそれだけの挙動に、明確な死の匂いを嗅いだ。
「焔に抱かれて散りなさい」
「うわっ!?」
巻き上がった灼熱の業火が、瞬間的に俺の全身を包み込む。
「秋人!!」
「……だ、大丈夫……辛うじて、だけど……」
叔父の呼びかけに、炎の中から答えた。
やがて火球が、外側に向かって弾け飛ぶ。
「あら?」
女魔族の感心したような、不思議そうな声。
(や、やばすぎる。いきなり殺しにかかるとは。絶対、死んだと思った……)
炎に巻かれようとした瞬間、確かに見た。
翅を持つ小さな光の人型が、手足を精一杯広げて、目の前に立ちはだかるのを。
俺の立つ場所を除いた周囲の地面が、焼けて黒く炭化してしまっていた。
直撃していたら、俺もそうなっていただろう。また……命を助けられた。
「へえ!?」
楽しげな声を上げたのは意外にも男魔族だった。
それまでは、なにをしていてもどこか興味なさそうだったが、打って変わって興味深げに大きく目を開いている。
「風の防御壁みたいだけど、魔力の流れを感じなかった。今のは精霊魔法かい? これは珍しい、きみは人間の精霊使いか!」
「あらら。兄さまの悪い癖が……」
隣で女魔族が、額を押さえて顔を曇らせていた。
予想とは多少違っていたが、注意を引くことはできた。
だが、まだ弱い。狡猾そうなサルバーニュが叔父の動向に目を光らせている。
サルバーニュはさりげなく常に立ち位置を変え、叔父と相対するように移動していた。
これではさしもの叔父でも、双子の魔族に打撃を与えるのは至難の業だろう。
「……アキト殿。そのままで気取られぬよう。もう少し連中の気を引いて時間稼ぎを」
背後から小声で語りかけてきたのは、意外にもダナン副団長だった。
先ほどから地面に蹲ったままで、高位魔族相手にてっきり戦意喪失しているのかと思いきや――俯きがちの顔から覗く視線には、怯えの一欠片も窺えない。
いかにも悲嘆に暮れるかのように顔面を押さえる手の隙間からは、なにか口に咥える突起物が見えていた。
どのみち、手はない。
いけ好かない人物だが、秘策でもあるのならそれに縋ってみるしかない。
「叔父さん、リオちゃんたちのことは心配しないでいいよ。どうせ、そいつらにリオちゃんたちを害することなんて、できやしないんだから」
「人間風情が、また無礼な口を。今度こそ燃やし尽くして――」
即座に女魔族が反応するが、それを止めたのは男魔族だった。
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