異世界の叔父のところに就職します

まはぷる

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第六章

森の妖精 4

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「それで結局、あなたはどうしたいのです? まさか、わたしに謝罪しろと? でしたらお断りします。必要性を感じませんから」

「いーや」

 デッドさんは、かぶりを振って否定した。

 フードとマントが脱ぎ捨てられ、癖のある金髪と欠けたエルフ耳が露わになる。
 背面を覆い隠すマントのせいで気づかなかったが、デッドさんは背中に小振りの弓と矢筒を携えていた。

「ちょっち苦しいが、こうして理由もできたことだし――あのときの決着をつけとこうかと思ってねえ」

 デッドさんが弓を構えて、矢を番えた。

「……そんなことだろうと思いました」

 応じたリィズさんは、笑みを浮かべたまま前傾姿勢で進み出る。
 空を振り払った両手の爪が、長く鋭く伸びていた。

 そして、速やかに戦闘が開始されることになった。

 先制したのはリィズさんだった。
 四つん這いで地に這い、その体勢から猛ダッシュを仕掛ける。
 動きはまさに獲物に飛びかかる肉食獣のそれだ。あまりの蹴り足に、地面が抉れて土埃が舞った。

 その行動を読んでいたのか、デッドさんが真っ向から迎え撃つ。
 元から番えていた矢で1撃目を正射、次ぐ2撃目も異様に早い。ワンモーションに見えるほどの動きで、矢を取る、番える、放つの3つの動作を、ほぼ同時に行なっている。

 リィズさんは1矢目をサイドステップで躱し、2矢目を難なく爪で叩き落とすと、一息に間合いを詰めていた。
 懐に入りざま、デッドさんのくるぶし辺りを爪で払い、『あえて』後ろに飛んで避けさせていた。
 そして、宙に逃れたところに、狙いすました回し蹴りを見舞っている。

 空中だけに避けようがない。
 決まった――と思われた瞬間、デッドさんの身体が不自然な方向に流れた。
 光の欠片が瞬いたところからして、精霊魔法で回避したに違いない。

 ただ、それすらもリィズさんの想定内だったようで、外れた蹴りを予備動作とし、さらにもう1回転しての回し蹴りが放たれる。
 ひるがえった長いスカートを目隠しとして、さらには尻尾が器用にデッドさんの足首を搦めとっていた。
 しかも、今度は蹴りの角度がさっきよりもえぐい。下から上へ突き上げるように、肋骨の隙間――肝臓辺りを踵で狙っている。

 対するデッドさんは慌てるでもなく、直接矢を手にしてリィズさんの蹴り足目がけて鏃を叩きつけてきた。
 素足と刃先では分が悪く、一瞬だけリィズさんが怯んだ隙に、尻尾の戒めを逃れたデッドさんは、音もなく背後に大きく跳躍して間合いを取っていた。
 あの異常なほどの跳躍力からして、例の精霊魔法の『風精の舞靴』だろう。

 瞬きひとつする間に、デッドさんはすでに新たな矢を番えていた。
 しかも2本。

「風の流れよ誘い賜え――風精誘掃射!」

 同時に放たれた2本の矢は、どういうわけか異なる軌道を描いて、リィズさんに殺到した。
 光の尾を引いているところから、あれも精霊魔法の一種なのだろう。

 以前に叔父から魔法について教えてもらったことがある。
 魔法にはいくつかの種類があり、魔法具や魔族の使う魔法は『力を行使するもの』、精霊魔法は『力を借りるもの』との説明を受けた。
 精霊魔法に直接的に相手を傷つけるものはなく、同じ魔法と銘打たれてはいるが、本質的にはまったくの別物だと。

 そのときにはピンと来なかったが、実際に目の当たりにしてみてわかることがある。
 おそらく精霊魔法とは、ゲーム知識で『補助魔法』に分類されるものなのだろう。
 個人の技量と組み合わさることで、こうも汎用性が生まれるのかと恐れ入ってしまう。

 異なる方向から迫りくる矢撃を前に――リィズさんは両目を瞑った。
 耳がぴくぴくと反応したかと思うと、なにもない空間――これから矢が飛来するであろう予測地点に両手を繰り出して、見事にその両方の矢を掴み取っていた。

 そこで、双方の動きがいったん止まる。

 目まぐるしい攻防に息を止めていた俺は、ようやく呼吸をすることができた。
 一言でいうと、レベルが高すぎる。
 叔父の戦いぶりはあまりに一方的で目を見張る暇すらなかったが、実力が近い者同士の戦闘がこうも緊迫するとは思わなかった。

 見た目からは想像もできないデッドさんの実力もそうだが、話には聞いていたリィズさんの強さも衝撃的だった。

 この場に、春香がいないのは幸いした。
 いつもの優しくて淑やかなリィズさんしか知らない妹が、こんな姿を目の当たりにしてしまっては、卒倒していたこと間違いなしだろう。

「あー、はいはい」

 諸手を打ちながら、叔父がふたりの間に割って入った。

「久しぶりの挨拶は、それくらいでいいだろ? 旧交を温めるのも結構だが……見ろ、秋人が目を丸くしてるぞ?」

 思い出したようにリィズさんは土埃に汚れたスカートを叩くと、にっこりと微笑んだ。

「それではこの辺りでお開きとしましょう。お茶の用意もしてありますので、積もる話はそのときに。どうぞ、中に」

「おー、いいね。動いたら腹が減っちまったい! 茶請けはあるのか?」

「蜂蜜菓子を用意していますよ」

「そりゃ重畳! お嬢ちゃんもおねーちゃんと一緒に行こうぜ、なあ?」

「あい!」

 先ほどまでの剣呑な雰囲気はどこへやら。
 女性陣3人は仲良さげに連れ立って、さっさと家の中に入っていってしまった。

 なかば放心気味の俺に叔父は腕を回して、がっちりと肩を組んだ。

「な? 女ってのは怖えだろ? 秋人も気をつけろよ」

 しみじみ言われて、猛烈に同意するしかないのだった。
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