異世界の叔父のところに就職します

まはぷる

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第十二章

悪魔からの招待状 3

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 カルディナの街の南東の丘には、知る人ぞ知る大きな一本杉がある。

 とはいえ、そんな大層なものではなく、見晴らしのいい原っぱには他に目印となるようなものがないため、外での待ち合わせ場所に都合がいい程度だったが。

 何故、丘の上にそんなものがぽつんと生えているのかは知らないが、少なくとも100年以上前からその木はそこにあったらしい。
 当時のカルディナの町の創設自体が、その杉の傍を目印に建築されたとの逸話もあるほどだ。
 とにかく、由緒だけはあり、この地方でも最古のものかもしれない。

「というわけで、今向かっている最中だから」

 向かう道すがら、叔父にはスマホで経過報告を行なっていた。

「くれぐれも用心しろよ、秋人。あくまで様子見だ。もし、丘に誰かいるようなら、いったん引いてまた連絡してくれ」

「わかってる。シルフィもいるから、危険があれば教えてくれるよ。また連絡するから」

 そう締めくくり、通話を終える。

 叔父にはそう言ったものの、俺としては即命に関わるような危険はないと踏んでいる。
 もし、本気で俺に害をなそうとするなら、こんな回りくどいことをする必要もない。

 敵対者の良識に期待するのもなんだか気は引けるが、あのリシェラルクトゥという魔族が俺に対して一種のシンパシーを抱いているのは、先日、密かに接触をはかってきたことからも明確だ。

 ともかく、なにやら碌でもないことを企て、それに参加しろと誘いをかけてきているのだろう。
 まるで、お気に入りのゲームがあるから一緒に遊ぼう、とでも気軽に誘ってくるかのように。
 なんにせよ、こちらにしてみれば迷惑なことこの上ない。

「話は終わった?」

 隣のデジーが、問いかけてきた。

 ちなみにふたりとも徒歩だ。
 疾風丸は街に置いてきている。理由は――まあ、デジーと一緒だからなわけだが。

 普通なら説明するのがややこしいとき、『魔法具だから』の逃げの一手が通用するのだが、専門家であるデジー相手にはそうもいかない。
 むしろ、魔法具などと一言でも発しようものなら、執拗な質問攻めに晒されるのは目に見えている。
 ただでも、それを失念していて、つい先ほどデジーの店を出たすぐにスマホで連絡を取ろうとしたものだから、えらい目に遭ったばかりだ。

 魔石を用いた疾風丸よりも、スマホのほうが説明のしようがなく、30分近くの押し問答の末、最終的には『企業秘密だから』の伝家の宝刀を切って、なんとか諦めてもらったばかりだ。

「ああ、ごめん。もう済んだから」

「遠くの相手と自在に話せるなんて、便利で画期的。短距離なら念話できる魔法具も開発はされているけれど、それとも違って実に興味深い。アキトがどうしてもというから、今は分解するのは我慢するけど」

「いやいや。後でもバラさせる気はないからね?」

 訂正。諦めてはいなかった。

「それで、話していた相手は誰?」

「あ~……俺の叔父さん。父方のね」

 さすがに勇者である征司の名前を出すわけにもいかず、とぼけることにした。
 デジーもただ訊いてみただけだったようで、「ふぅん」と相槌だけが返ってくる。

 その後は特に会話もなく、ふたりはほぼ無言で南東を目指した。
 距離的には街から2キロもないので、ものの10分ほども歩くと、すぐに一本杉が見えてくる。

 先日、訪れた際には、来るときこそ緊張したものの、結果的にはドワーフと竜人との異種族交流ができた思い出深い場所だ。
 こうしてまた緊張感を抱えて再訪することになるとは思いも寄らなかった。

 遠目に用心深く確認してみるが、木の周辺をはじめとした丘の周囲に、少なくても目につく異変は見受けられない。

「デジーはなにか感じる?」

 とある魔石を握って、デジーがなにかを念じていた。
 調査をしてくれているのだろう。待つことしばし、デジーはとんがり帽子ごと小さく首を左右に振った。

(シルフィはどう?)

 シルフィからも異常を伝えてくる様子はない。

 用心したのが拍子抜けなほど何事もなく、あっさりと一本杉まで着いてしまった。

 なにもなかった上に、誰もいない。
 そういえば、カードには場所の指定はあっても日時の指定はされていなかった。

(まさか、この場所で誰か来るまで、大人しく待ってろってことじゃないよな……?)

 さすがにそれはないと信じたいが、なにせ相手は別種族。共通認識というか常識なんて期待できない。
 さりとて無視しても、どんなよからぬ事態が待ち構えているとも限らないのだから、性質が悪いというものだ。

「あ! アキト、見て! 上!」

「上?」

 デジーが一本杉の幹のところで、ローブを翻しながらぴょんぴょん飛び上がっていた。

 近づいてみると、デジーが懸命に手を伸ばすその先に、1枚のカードがあった。
 木の幹に貼り付けられたそのカードは、俺が所持しているものと同一のように見える。

 背伸びをして、デジーの頭越しにカードを取り、ふたりで頭を突き合わせてつぶさに観察してみた。

「これもまた、魔力の残滓を感じる。きっと、さっきのカードと同質のもの」

(ということは、これもシルフィの出番かな?)

 その願いを聞き届けてくれて、シルフィが先ほどと同じくカードの周囲をくるりと舞う。

「待って、秋人! なんだか魔力の流れがおかしい!」

「え?」

 デジーの制止の声を聞いたときにはすでに遅く……カードが風の力に反応して、淡く光り出していた。
 ただし、今度はカードに文字が浮かび上がるようなこともなく、カードの表面全体が発光していた。

 そして唐突に――足元の地面が消失した。
 次いで襲うは落下感。
 ぽっかりと広がった闇色の穴に、俺とデジーは瞬時に呑み込まれてしまった。

「うわわっ!? デジー、こっち!」

「アキト!」

 咄嗟にデジーの小さな身体を抱き留めたものの、落下が止まらない。
 暗闇をひたすら落ちるという恐怖感に苛まれながらも、俺はデジーの頭を抱える腕に力を籠めた。

 それからどれだけ時間が経過したかは知れなかったが――次に俺が目覚めたとき、そこは何故か地底の牢獄の中だった。
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