異世界の叔父のところに就職します

まはぷる

文字の大きさ
184 / 184
第十二章

訪れしは地人のねぐら

しおりを挟む
「アキト、起きて」

 小刻みに身体を揺さぶられる感覚に、俺は目を覚ました。

 うつ伏せになって横たわっていたようだが、地面に接している部分が妙に痛い。
 それもそのはずで、地面は剥きだしの岩肌だった。

 どれくらい意識を失っていたのかわからないが、思考は虚ろで頭痛もする。
 両手をついてどうにか上体を起こし、頭痛を振り払うように大きく2回深呼吸をした。

 次第に意識がクリアになってくると、周囲の状況も見えてくた。
 同時に肌寒さも覚えて、少し身震いしてしまう。

「よかった起きた」

「あ、デジー……」

 おはよ、と言いかけて、それが間の抜けた返事だと気づけるくらいには、思考が覚醒していた。
 咄嗟に思い返すのは、一本杉でのあの出来事。
 もしかしなくても、不用意な行動でまんまと罠に嵌ってしまったらしい。

「デジーのほうは、大丈夫?」

「うん、無事。わたしもたった今、目が覚めた。けど……どうにもまずい状況みたい」

 地面にぺたりと腰を下ろしているデジーが、俺の肩越しに背後を指差した。

 つられて振り向いた視界に映ったのは、くり貫かれた岩壁とそこに嵌め込まれた鉄格子、そして鉄格子の向こう側に居並ぶ酒樽のような体型をした短躯の者たちだった。

「あー……なるほど、確かに厄介そうだね」

 独特の体型と、その床まで届きそうな髭面には見覚えがある。
 地人――別名、ドワーフ。気を失う前にも、思い出に登場した種族だ。

 彼らの住処たる洞窟は、カルディナの街より遥か遠く北東に位置すると聞いた。
 そして、通常は穴倉に引き篭もっており、前回のような火急の事態でもなければ外界に出ることは滅多にないとも。

 鉄格子越しに居並ぶドワーフは10名を超える。
 服装も、毛皮1枚を雑に羽織っただけの軽装で、どう見ても旅姿とは思えない。

 こんな状況ともなれば、あちらがやって来たのではなく、こちらがドワーフのねぐらに飛び込んだと考えるのが順当だろう。
 おそらくは、カードに仕込まれていた魔族お得意の転移魔法辺りで。

 短い時間だったが、そう当たりをつけた。
 普通なら、驚嘆し、困惑し、取り乱して然るべき状況なのだが、慣れというのは恐ろしいものだ。
 白木家特有の巻き込まれ体質が、そろそろ俺にも発現してきたのかもしれない。

 とはいえ、いつまでも落ち着き払っている場合でもない。
 なにをおいても、ここはまず理解を得るべき状況だろう。

「すみません、説明させてください。俺はカルディナの街で商売を営んでいる秋人といいます。魔族の魔法により、こちらに転移させられてしまったようです。害意はいっさいありません。あなた方の中に、以前に卵探しでカルディナをご訪問された方はいらっしゃいませんか? よければ、話をさせていただきたいのですが」

 敵意がない証明に、立ち上がって両手を広げて見せた。

 あのときのドワーフたちとは、短い出会いだったとはいえ一緒に酒盛りをした仲だ。
 わずかでも知り合いとそうでないのとでは雲泥の差。緊急事態だけに、縋れるものには縋りたい。
 まして今は、無関係だったデジーを巻き込んでしまっている。
 原因が自分の軽率な行動だっただけに、大事な友人を無事に帰すのは当然の義務でもある。

 その行動に、ドワーフたちは何事かをひそひそと囁き合い、やがてひとりのドワーフが前に歩み出てきた。

「ええ、覚えているわよ。猛火酒のお兄さんね。その節はどうも」

(ああ! あのときのお姉さん!)

 見た目まったく同じ髭面の男性陣の中に、女性が交じっていたという驚愕の事実は、あまりにもインパクトだっただけによく覚えている。
 失礼ながらも、こうしている今でも、他の男性ドワーフとの見分けがつかない。

「ごめんなさいねぇ。今、こっちもごたごたしているもんでね。事情がわかるまで念のために牢に入れさせてもらっただけなのよ。こっちにも害意はないから安心しなさい。あんたも災難だったねぇ」

 そう言うと、そのドワーフの女性は素直に牢の鍵を開けて、俺たちを解放してくれた。

 信じてくれたのはありがたいが、やけにすんなりだったので、逆に訝ってしまったほどだ。
 そんな心情を見越してか、ドワーフ女性は続けて説明してくれた。

「前回は気づかなかったけど、あんたは人間の精霊持ちだったんだね。うちらドワーフも精霊の加護を離れて久しいから、こういった精霊力の強い場所じゃないと見聞きできなくなったもんさ。今でも可愛らしい精霊さまがあんたを必死に弁明しているよ。極端な話、うちらはあんたじゃなくって精霊さまを信じたのさ。得心いったかい?」

 髭を揺らしながら、楽しげにあっけらかんと告げられる。
 肩口にとまるシルフィも、なんだか誇らしげだ。

 この小さな相棒が、頼もしすぎて泣けてくる。
 それがまた友愛とかではなく、母の愛っぽくて別の意味でも泣けてきた。
 あまり心配かけないようにしっかりしないと。

「うちらは慣れたもんだけど、人間にはここは寒かったろ? これ羽織んな。ほれ、そこのちっこいお嬢ちゃんも」

 俺とデジーのそれぞれに、ドワーフが着ているものと同じような毛皮を渡してくれた。

 見た目以上に質がよく、上質の毛皮だった。
 ドワーフ用で横幅はともかく丈が短いので、首から巻いて上掛け代わりに羽織ることにした。

 デジーは小柄なので丈は問題なく、ローブの上から2重3重に巻きつけて、なお余裕があるほどだった。

「ぉぉ、ぬくぬく……」

 なにやら満足げだ。

「牢なんかに閉じ込めて悪かったね。なんせ、時期が悪かったからね。上へ案内するから付いてきな」

「こっちがご迷惑をお掛けしている立場ですから、謝るのはこっちのほうですよ」

 先導する女性ドワーフの後を付いて歩く。
 残りのドワーフたちも背後に列をなし、ちょっとした行進行列になっていた。

 牢は地下でも最下層にあったようで、上り坂を上ると、さらに別の地下洞窟に出た。
 壁を覆う苔のようなものが発光しているため、視界には苦労しないものの、どうしても薄暗く息の詰まる印象は受ける。

「それで、時期が悪いってのはなんなんです?」

「東の住処の長耳連中とちょっと揉めててねぇ。それで男連中が出払ってて、こうした女子供ばかりしか残ってないってわけさ」

 長耳連中ってなんだろう、とは思いつつも、

「そうなんですか」

 などと、とりあえず相槌を打ってから――俺は唐突にその事実に思い至った。

 ”女子供ばかり”――だって?

 同行するドワーフたちの容姿を盗み見て――なんともいえない気分になった。
しおりを挟む
感想 19

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(19件)

ktd660
2020.03.23 ktd660

次を早く書いてください

解除
オッサンG
2019.12.08 オッサンG

ドワーフ姉さんの声が玄田哲章さんの声で再生された
イケボの代表者の速水奨さんでも面白いかもしれない

2019.12.08 まはぷる

ありがとうございます。
オネエどころか、本当の女性なのに……(笑)

解除
オッサンG
2019.10.20 オッサンG

矢のような催促を送っておいてなんだが
矢のような勢いで少年が門まで来てしまった件について

あと、衣服がはだけていろいろといろいろになってる描写は
少年よりメイドさんたちが重要案件ではないかと具申したい

2019.11.17 まはぷる

すみません。すっかりと放置状態になってしまっていました。

それでは別の意味で案件発生です。
「おまわりさん、こいつです」

解除

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。

黄玉八重
ファンタジー
水無月宗八は意識を取り戻した。 そこは誰もいない大きい部屋で、どうやら異世界召喚に遭ったようだ。 しかし姫様が「ようこそ!」って出迎えてくれないわ、不審者扱いされるわ、勇者は1ヶ月前に旅立ってらしいし、じゃあ俺は何で召喚されたの? 優しい水の国アスペラルダの方々に触れながら、 冒険者家業で地力を付けながら、 訪れた異世界に潜む問題に自分で飛び込んでいく。 勇者ではありません。 召喚されたのかも迷い込んだのかもわかりません。 でも、優しい異世界への恩返しになれば・・・。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

異世界に転移した僕、外れスキルだと思っていた【互換】と【HP100】の組み合わせで最強になる

名無し
ファンタジー
突如、異世界へと召喚された来栖海翔。自分以外にも転移してきた者たちが数百人おり、神父と召喚士から並ぶように指示されてスキルを付与されるが、それはいずれもパッとしなさそうな【互換】と【HP100】という二つのスキルだった。召喚士から外れ認定され、当たりスキル持ちの右列ではなく、外れスキル持ちの左列のほうに並ばされる来栖。だが、それらは組み合わせることによって最強のスキルとなるものであり、来栖は何もない状態から見る見る成り上がっていくことになる。

優の異世界ごはん日記

風待 結
ファンタジー
月森優はちょっと料理が得意な普通の高校生。 ある日、帰り道で謎の光に包まれて見知らぬ森に転移してしまう。 未知の世界で飢えと恐怖に直面した優は、弓使いの少女・リナと出会う。 彼女の導きで村へ向かう道中、優は「料理のスキル」がこの世界でも通用すると気づく。 モンスターの肉や珍しい食材を使い、異世界で新たな居場所を作る冒険が始まる。

人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)

葵セナ
ファンタジー
 主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?  管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…  不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。   曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!  ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。  初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)  ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。