A.W.O~忘れ去られた幻想世界を最強と最弱で席巻します~

まはぷる

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第1章 アバター:シノヤ

第5話 亡国の姫騎士

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 初期装備は捨てられない。耐久力も設定されていない。
 通常ではアイテム欄をひとつ占有する邪魔物でしかないが、そんな大昔からの伝統的なRPG仕様に、よもやこうして感謝する日がやってこようとは。

 シノヤはアイテムストレージから『ただの服』という言葉通りの防御力皆無の服を取り出して、いそいそと着こんだ。裸族から脱して、それでようやく一息吐ける。
 やはり文明的な生活とは、衣食住の充実からだろう。なかでも”衣”はその一番手だ。

 傍らの草むらの上には、金髪白騎士の少女が横たわっており、目を回してうんうん唸り声を上げている。

 よほどの衝撃だったのだろう。いっこうに目覚める気配はない。
 故意ではなく過失にしろ、悪いことをしてしまったと反省する。

 今現在、このA.W.Oのゲーム内にはプレイヤーは存在しない。10年間もずっとオフラインで稼働していたのだから、当然のことだ。
 だから、この娘は必然的にNPCということになる。
 NPCとは、広義ではプレイヤー以外のキャラクター――自律型の人工知能に、仮初の電子体と設定を与えられたゲーム内だけでの存在だ。

 まさか、懐かしき思い出のA.W.Oにログインした途端、フルチン晒してNPCの娘を気絶させる羽目になるとは想像してもいなかった。
 シノヤもアバターの中身は良識ある大人だけに、いくらNPCといえども、意識のない見かけ年下の女の子をこのまま放置するのも気まずい。
 とりあえず、もともと然したる目的はないのだから、シノヤは少女が目覚めるのを気長に待つことにした。

 待っているついでに、少女のステータスを確認してみる。

「えっと、A.W.Oも久しぶりだし……うーん、なんだっけ? あ、そうそう思い出した。鑑定スキル実行! ――って、ああ……この時代はまだ音声コマンドは使えないんだっけか。面倒な……」

 近年では当たり前になった音声コマンド入力方式だが、一般のVRMMOで基本システムとして実装されるようになったのは7年ほど前。
 対してA.W.Oは、10年も昔に作られた数世代前のVRMMORPG。まだコンソールのコマンド一覧からの手入力での選択方式だったはずだ。

 シノヤは手元にコンソールを表示させようとしたが――

『鑑定スキル実行します』

 システムナビゲーターの音声が流れ、ウィンドウに少女のステータスが表示された。

「あれ、なんで? ……ま、できたんだから、それでいっか」

 いつもの業務でやっているバグ探しではないのだから、出てしまったものは仕方ない。
 シノヤは気にかけずに、少女のステータスに目を通した。

 少女の名前は、エリシア・フル・フォン・ファシリア。
 クラスは聖騎士。年は16歳。レベルは22。称号、姫騎士。

「お? 称号持ち。となると、なんかのイベントキャラか?」

 NPCで称号を持つのは、一般的な案山子NPCとは異なり、イベントに関連するキャラクターであることが多い。特にシナリオ上での進行役や支援役など特定の役割を与えられており、イベント中限定となるがプレイヤーと行動を共にすることもある。

(まさか、さっきのフルチンがイベントフラグってことはないよな……)

 馬鹿な考えを振り払いつつ、シノヤは少女のステータスのキャラクター備考を読み進めた。
 大まかな内容は、キャラクターの持つ背景――平たく言うとキャラ設定になるわけだが、その中に気になる記述を見つけた。

「亡国ファシリア王家の第二王女……?」

 ファシリア王国?
 聞かない国名だった。

 3つの各陣営の旗下には、複数の国家や都市が帰属しているが、少なくとも人族の属する神族陣営では聞き覚えがない。
 とはいえ、もう10年近くも前の記憶なので、単にシノヤが覚えていない可能性もなくはないが。

 そのまま備考を読み進めたところによると、このエリシアという少女の祖国ファシリアは、魔族の侵攻で滅亡したらしい。
 王都は焼かれ、王家の者はこのエリシアを残して一族郎党すべて惨殺されたようだ。本人も、第一王女の姉の身を挺した犠牲により、奇跡的に命を拾ったらしい。

「王家の生き残り……悲劇の姫騎士、ね……」

 テンプレともいえる使い古されたありきたりな設定ではある。
 しかし、そんなただの架空の設定ながらも、シノヤは少女をどこか哀れに感じ、頭を撫でながら金糸のような金髪を何気なく手櫛で梳いた。

 不意にその手が止まる。

(…………なんか、すごいさらさらなんだけど。いい匂いするし)

「うぅん……」

 少女がわずかに呻いて身じろぎした。
 リアルで異性とまともに触れ合う機会さえない悲しいシノヤは、少女の寝顔に不覚にもどきりとしてしまう。

 10年前の仮想キャラだというのに、製作陣は実にいい仕事をしたものだ。
 五感で感じる目の前の少女は、本物の人間と見紛うばかり。はっきり言って見分けがつかない。
 これなら、最近のVRMMOとも遜色ないだろう。

 そこまで考えてから、自分で思い浮かべた事柄に疑問符が生じた。

(いや、それはおかしい)

 先述した通りにVR技術は日進月歩。目まぐるしい勢いで向上の一途を辿っている。
 どれだけ当時の最先端の最新技術を駆使したとしても、10年前の技術と現在の技術が、同等レベルなはずがない。
 控え目に言っても、雲泥の差がついていないとおかしいのだ。
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