A.W.O~忘れ去られた幻想世界を最強と最弱で席巻します~

まはぷる

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第1章 アバター:シノヤ

第6話 世界の進化

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 シノヤはあらためて、横たわるエリシアを観察した。

 額には汗が浮かび、金髪が幾筋か張りついている。
 長く繊細な睫毛も見て取れるし、薄い唇にはやや朱が差している。
 純白の鎧のささやかに盛り上がった胸部は、呼吸に合わせてわずかに上下しているし、頬を突つくと弾力もある。

 次に、シノヤは周囲の風景を見回した。
 森の木々に埋もれかけた遺跡、といった風情。
 頭上の枝葉の天蓋からは、暖かな木漏れ日が差し込んでいるし、肌をすり抜ける風は冷ややかで気持ちいい。
 遺跡の岩肌はざらざらして、触ると砂となって落ち、足元の草を千切って放ると、風に巻かれて飛ばされていった。

 傍の朽ちた噴水に溜まった雨水を覗き込むと、水面に黒髪黒目の冷たい顔立ちの青年の姿が映る。
 顔自体は記憶に残るアバターのシノヤで間違いないが、それ以前に”水面に物が映る”事象からしておかしい。当時は、そんな無駄な細部に費やす技術もリソースもなかったはずだ。

 現代におけるVR技術は、かなりの精度で現実をシミュレートしていた。もはや、もうひとつの現実といえるレベルだろう。
 しかしそれは、あくまで”現代”であって、決して10年近くも昔に確立していたわけではない。

 そう、10年ぶりにA.W.Oの地に降り立って、最初に違和感を覚えなかったことこそ違和感だったのだ。
 現代技術に慣れきった者にとって、10年もの過去の遺物など、思い出補正との差異にがっかりして然るべし。
 思い出は、思い出として記憶に留めておくのが一番とかいうやつだ。

 対して今体感しているVR世界は、明らかに現代の最新技術を用いたもの。
 よくよく記憶を掘り返すと、以前のA.W.Oでは解像度の技術限界から、自然を美しく感じれるほどではなかったし、NPCのディティールもかなり粗く、表情も冷たい人形感があった。お世辞にも、こんな自然な状態ではなかったはず。

(どういうわけだろう……? 最低でも、最新の論理モジュールや映像ジェネレーターが使われている?)

 今回、システム管理者としてアクセスしたわけでないので、ゲーム内から各ソフトウェアのバージョンは確認できない。
 しかし、この分では、最新のソフトウェアに更新されているとみて間違いなさそうだ。

(うん? 待てよ。ああ、そういうことか!)

 シノヤの会社では、管理費の節減のため、VRMMOの上位システムとして、相互情報共有化システムが据えられている。
 これは、最新の技術を管理下のゲームすべてに自動的にアップデートするもので、これにより稼動するすべてVRMMO世界で、均一で高精度な世界観が維持されている。
 特に、人工知能モジュールは特許を得ている独自のもので、自己学習はもとより、自社の数多の各ゲームに参加している年間数十万を超えるプレイヤーたちの行動理論を随時データベース化し、新たな人工知能の雛形としてフィードバックしている。永年にわたり膨大な量のサンプルデータを溜め込んだ、業界老舗の自社ならではの利点だろう。
 そのため、人工知能は多種多様化し、昨今でのゲーム内においては、NPCとプレイヤーの判別ができないほどの水準にまで達していた。自社で運営しているどのゲーム紹介でも、第一のアピールポイントして挙げられているほどだ。

 つまり、公共ネットワークでのサービスが停止されてなお、社内ネットワークでは繋がっていたため、A.W.Oもまたそういった上位システムの恩恵をひっそりと受け続けてきたのだろう。
 足りないマシンスペックは、サービスが停止されたことでプレイヤーに割くリソースが少なくなり、どうにかなったというところか。

 そうなるとこのA.W.Oは、10年もの間、管理者たる人間の干渉を受けることなく、独自で発展してきた世界ともいえる。
 誰にも管理させずに誰もプレイすることもなく、ただあるがままに存在してきた世界――そこはすでにゲームという名の仮想世界ではなく、もはや異世界のようなものだろう。

 ログインしたのはただの懐かしさからの興味本位だったが、なにやら俄然意欲が湧いてきた。
 懐かしき記憶の中の世界が、この10年でどのような変貌を遂げたかなど、知るのはこの世で自分ひとりだけ。
 ゲームに限らずだが、誰も経験したことのない新たな世界に我先にと足を踏み込むことは誉れのようなもの。近年では仕事の忙殺されるあまり、沈静しかかっていた熱いゲーマー魂を刺激される。
 数日遅れのクリスマスプレゼントにしては、なんとも豪勢なものだろう。

 この少女エリシアの亡国という未知の設定にしろ、実際にNPC間でファシリアという王国が興されて滅亡したという、この世界での現実なのかもしれない。
 なんか、テンション上がってきた。早く、少女から世界の情勢を聞いてみたい。

「う、ん……」

 うきうきしてシノヤが待っていると、エリシアの眼がうっすらと開いた。
 細められた隙間から、淡い翠緑玉色の瞳が窺える。

「あ、気づいた? 俺は――」

 シノヤが思わず上体を屈めて覗き込むと、目を見開いた少女と至近距離で視線が合致した。

「き、きゃああああぁぁぁぁ――!」

 すぱーん!

 視界の外から平手が一閃――
 シノヤは横っ面を叩かれ、吹き飛ばされていた。
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