10 / 14
第1章 彼らの世界/誤謬
10: 豪商の企て
しおりを挟む
アンジェラの途中退席という非礼に、特に腹を立てるというような事もなく、西の塔の自室に戻った張は、早速、リンカーン家の一人娘と新人フォージャリーの分析を始めた。
もちろんそれは、張が豪族世界へ本格的に進出しようと決めたからであり、今までの張であればアンジェラの動向等に何の興味も持たなかっただろう。
自らの野望の前に、この娘に対して自分の時間を割り割く価値があると考えたのだ。
「どう見えた、スプリガン?お前の目から見た、あの娘とあのフォージャリーは。」
張は窓際に立ち、遠くに立ち並ぶ巨大なアール塔を眺めながら言った。
ユミルにおいて、西の尖塔の高さに迫る建造物は、この世界の気象をコントロールしているアール塔しかない。
眼下には近代建築による中層ビルと、中世建築が交互に織りなすタペストリー模様が広がっていた。
それは美しい光景と言ってもいいだろう。
彼等の遠い先祖達が住んでいた世界においては"唯一無二"と言える程ではないにしても、この荒涼たる惑星上では希少な宝石に値する筈だ。
「娘の方は特に注意が必要になる程の人物ではないでしょう。気質は父親によく似ていますが、将来的に父親の権力を引き継いで、ご主人様との関係が難しくなるという事もなさそうです。なにろイーズルは女性の社会的な活躍を望みませんから。フォージャリーの方は、、、判らないですね、、。」
スプリガンはいつもの様に張の側にいて、そう控えめに言った。
影の様に重さが感じられない男だ。
同じ知的支援フォージャリーの立場にいても、リンカーン家のキャスパーとは随分様子が違った。
キャスパーは下手をすると主人であるトレバーより輝いて見えるような瞬間があったが、スプリガンは常に影の存在だった。
「ほう、お前にも判らない事があるのか?同じフォージャリー同士なんだ。人間にそれだけ鼻が利くお前だ。もっと判るものだと思っていたんだがな?」
「だからこそですよ。あのフォージャリーは底が知れない。」
「話ではあのニューチャンプはリンカーンの目立てではなく娘が一目惚れで買い取ったという…。お前達とは違うと思うのだがな。それでもであのフォージャリーが化ければ、あのお嬢ちゃんも化ける可能性があると言うことか?」
張はスプリガンの言葉を大切にしているようだ。
「まあそれも、人間とフォージャリーは共鳴し合うという説を信じればの話ですが、、。」
「信じるも何も、リンカーンとキャスパー、私とお前がそうじゃないかスプリガン?そして私達はやがて、私達の王国を作るんだぞ。」
張は元手なしで現在の地位にのし上がったと言われるが、実際は違う。
張の原資は"人"そして"人間観"、張は稀代の人誑しだった。
「私達ではありません。その王国はマスターだけのものです。マスターがアンジェラ・リンカーンの未来に脅威をお感じなら、私が彼女を排除しましょうか?」
張は自分の立場を自覚しているこのスプリガンの事を気に入っていた。
このフォージャリーが、自らを低く見ながら自分に仕えるのには理由があって、それは彼に陰謀や企みの類のものが隠されているからではなく、もっとスプリガンの独自の虚無的な感情に由来する事を知っていたからだ。
つまり張にしてみれば、スプリガンに裏切られる可能性が限りなく低いという事だった。
裏切りは多くの場合、その相手に芽生えた野心が原因になるものだ。
豪族達は、ずば抜けて優秀な知的支援フォージャリーであるキャスパーを引き連れているトレバー・リンカーンを羨んでいるが、張は逆にそれがリンカーン家の弱点だと考えていた。
「排除な、、いや、まだそれは待て、今は父親の方だ。それに私も、もうそろそろあの貴族気取り達のお仲間入りを考える頃合いかと考えておるんだ。その矢先に、騒動は起こしたくない。」
「、、、例の聖剣争奪戦への参加ですね。」
「聖剣など興味はないが、神が持つ聖剣は神の象徴であり英雄が持つ聖剣は王権の象徴や民族の勝利の象徴であると云う。それは重要な事だ。」
張の知識では、聖剣の正体は未だ明かされぬ母星文明のヒューマン・マシン・インタフェース(HMI)の一部分だと云う事になっている。
張は、現実社会で使えない過去のハイパーテクノロジーなど何の意味もないと考えていたが、それが権力闘争のシンボルとしてあるのなら話は別だ。
「私がこの国を治めるのには、ああいうものが1本は欲しい。認証前のものなら幾らでも手に入るしな。…あれがあれば何をするにも箔がつく。それで迂回できる争いも多い。小さい国土なんだ、その中で無駄な血を流すのは勿体ないだろう?」
「その件についての段取りはお任せを、なんなら私めが試合に出場致しましょうか?」
「いや駄目だ。お前なら確実だろうが、試合にフォージャリーをだすと、他から文句が出るだろう。特に私のような傍流の人間がやるとな。豪族共は口うるさい。、、剣士は私が用意する。判っているだろうが、私はそういう方面にも顔が利くからな。それ以外の段取りは、お前に任せるよ。」
「それならば試合に使用する剣に工夫を加えてはどうですか?ただ単に優勝するだけでは面白みがありませんからね。出るからには、さすが張だと豪族たちに言わせなければ。」
「いいな。それで、やってくれ。」
張はにやりと笑ってスプリガンを見た。
張自身は肉体を使う闘争には詳しくも関心もない男だった。
聖剣争奪戦など、己が高みに至るための只の通過点に過ぎない。 そんな通過点に己の才覚を使うのは苦痛だった。
その点でもスプリガンは役に立った。
なにせスプリガンは、フォージャリーの闇ファイト・第2期チャンピオンだったからだ。
もちろんそれは、張が豪族世界へ本格的に進出しようと決めたからであり、今までの張であればアンジェラの動向等に何の興味も持たなかっただろう。
自らの野望の前に、この娘に対して自分の時間を割り割く価値があると考えたのだ。
「どう見えた、スプリガン?お前の目から見た、あの娘とあのフォージャリーは。」
張は窓際に立ち、遠くに立ち並ぶ巨大なアール塔を眺めながら言った。
ユミルにおいて、西の尖塔の高さに迫る建造物は、この世界の気象をコントロールしているアール塔しかない。
眼下には近代建築による中層ビルと、中世建築が交互に織りなすタペストリー模様が広がっていた。
それは美しい光景と言ってもいいだろう。
彼等の遠い先祖達が住んでいた世界においては"唯一無二"と言える程ではないにしても、この荒涼たる惑星上では希少な宝石に値する筈だ。
「娘の方は特に注意が必要になる程の人物ではないでしょう。気質は父親によく似ていますが、将来的に父親の権力を引き継いで、ご主人様との関係が難しくなるという事もなさそうです。なにろイーズルは女性の社会的な活躍を望みませんから。フォージャリーの方は、、、判らないですね、、。」
スプリガンはいつもの様に張の側にいて、そう控えめに言った。
影の様に重さが感じられない男だ。
同じ知的支援フォージャリーの立場にいても、リンカーン家のキャスパーとは随分様子が違った。
キャスパーは下手をすると主人であるトレバーより輝いて見えるような瞬間があったが、スプリガンは常に影の存在だった。
「ほう、お前にも判らない事があるのか?同じフォージャリー同士なんだ。人間にそれだけ鼻が利くお前だ。もっと判るものだと思っていたんだがな?」
「だからこそですよ。あのフォージャリーは底が知れない。」
「話ではあのニューチャンプはリンカーンの目立てではなく娘が一目惚れで買い取ったという…。お前達とは違うと思うのだがな。それでもであのフォージャリーが化ければ、あのお嬢ちゃんも化ける可能性があると言うことか?」
張はスプリガンの言葉を大切にしているようだ。
「まあそれも、人間とフォージャリーは共鳴し合うという説を信じればの話ですが、、。」
「信じるも何も、リンカーンとキャスパー、私とお前がそうじゃないかスプリガン?そして私達はやがて、私達の王国を作るんだぞ。」
張は元手なしで現在の地位にのし上がったと言われるが、実際は違う。
張の原資は"人"そして"人間観"、張は稀代の人誑しだった。
「私達ではありません。その王国はマスターだけのものです。マスターがアンジェラ・リンカーンの未来に脅威をお感じなら、私が彼女を排除しましょうか?」
張は自分の立場を自覚しているこのスプリガンの事を気に入っていた。
このフォージャリーが、自らを低く見ながら自分に仕えるのには理由があって、それは彼に陰謀や企みの類のものが隠されているからではなく、もっとスプリガンの独自の虚無的な感情に由来する事を知っていたからだ。
つまり張にしてみれば、スプリガンに裏切られる可能性が限りなく低いという事だった。
裏切りは多くの場合、その相手に芽生えた野心が原因になるものだ。
豪族達は、ずば抜けて優秀な知的支援フォージャリーであるキャスパーを引き連れているトレバー・リンカーンを羨んでいるが、張は逆にそれがリンカーン家の弱点だと考えていた。
「排除な、、いや、まだそれは待て、今は父親の方だ。それに私も、もうそろそろあの貴族気取り達のお仲間入りを考える頃合いかと考えておるんだ。その矢先に、騒動は起こしたくない。」
「、、、例の聖剣争奪戦への参加ですね。」
「聖剣など興味はないが、神が持つ聖剣は神の象徴であり英雄が持つ聖剣は王権の象徴や民族の勝利の象徴であると云う。それは重要な事だ。」
張の知識では、聖剣の正体は未だ明かされぬ母星文明のヒューマン・マシン・インタフェース(HMI)の一部分だと云う事になっている。
張は、現実社会で使えない過去のハイパーテクノロジーなど何の意味もないと考えていたが、それが権力闘争のシンボルとしてあるのなら話は別だ。
「私がこの国を治めるのには、ああいうものが1本は欲しい。認証前のものなら幾らでも手に入るしな。…あれがあれば何をするにも箔がつく。それで迂回できる争いも多い。小さい国土なんだ、その中で無駄な血を流すのは勿体ないだろう?」
「その件についての段取りはお任せを、なんなら私めが試合に出場致しましょうか?」
「いや駄目だ。お前なら確実だろうが、試合にフォージャリーをだすと、他から文句が出るだろう。特に私のような傍流の人間がやるとな。豪族共は口うるさい。、、剣士は私が用意する。判っているだろうが、私はそういう方面にも顔が利くからな。それ以外の段取りは、お前に任せるよ。」
「それならば試合に使用する剣に工夫を加えてはどうですか?ただ単に優勝するだけでは面白みがありませんからね。出るからには、さすが張だと豪族たちに言わせなければ。」
「いいな。それで、やってくれ。」
張はにやりと笑ってスプリガンを見た。
張自身は肉体を使う闘争には詳しくも関心もない男だった。
聖剣争奪戦など、己が高みに至るための只の通過点に過ぎない。 そんな通過点に己の才覚を使うのは苦痛だった。
その点でもスプリガンは役に立った。
なにせスプリガンは、フォージャリーの闇ファイト・第2期チャンピオンだったからだ。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
日露戦争の真実
蔵屋
歴史・時代
私の先祖は日露戦争の奉天の戦いで若くして戦死しました。
日本政府の定めた徴兵制で戦地に行ったのでした。
日露戦争が始まったのは明治37年(1904)2月6日でした。
帝政ロシアは清国の領土だった中国東北部を事実上占領下に置き、さらに朝鮮半島、日本海に勢力を伸ばそうとしていました。
日本はこれに対抗し開戦に至ったのです。
ほぼ同時に、日本連合艦隊はロシア軍の拠点港である旅順に向かい、ロシア軍の旅順艦隊の殲滅を目指すことになりました。
ロシア軍はヨーロッパに配備していたバルチック艦隊を日本に派遣するべく準備を開始したのです。
深い入り江に守られた旅順沿岸に設置された強力な砲台のため日本の連合艦隊は、陸軍に陸上からの旅順艦隊攻撃を要請したのでした。
この物語の始まりです。
『神知りて 人の幸せ 祈るのみ
神の伝えし 愛善の道』
この短歌は私が今年元旦に詠んだ歌である。
作家 蔵屋日唱
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる