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第3章 蠢動
12: 生徒指導主事
すでに5時間目が始まっていて職員室はガランとしていた。
この時間帯、同学年の教師で空きが重なるのは、神無月と加賀美だけだ、それが判っていたから神無月は鉄馬を呼び出していた。
鉄馬からの聞き出しが上手く行けば、直ぐにその内容を加賀美に報告し、次の段取りを一緒に考えるつもりだったのだ。
キョウが見たという少年がもし岩田なら、とにかく早く動いた方が良いと思えたからだ。
ただ警察の少年課に連絡するにしても材料が少なすぎた。
もちろんそれは生徒指導主事の柏崎に対しても同じ事だ。
柏崎は、口では『どんな細かいことでも私に連絡してくれ』と職会などではいうが、神無月が『何々が気になるんですが』と声を掛けた時には、鼻でソレを笑うような所がある。
この学校で起こる生徒指導については、全て指導主事である自分が把握しているのだという顔をする。
しばらくして加賀美がプール裏から職員室に戻ってきた。
「どうでした?鉄馬、何か言いました?」
「それがよく判らないの。でも蒲田が言ったことと大体同じみたい。岩田はヤバイ相手と喧嘩をして報復を畏れて身を隠してるとか。、、問題はそのヤバイ相手よね。どうやらヤクザとか半グレとか、そんな人達じゃないみたい。」
「でも学生相手でもないんでしょうね。あいつら、相手がそう言うのだったら、ほって置くわけないから。相手が高校生でも、速攻で喧嘩を仕掛けてる筈だ。」
「いえ、そこの所が妙なの。どうも相手は、彼らと結構近い年齢みたい、あの子達の喋り方の雰囲気で、それだけは判るわ。」
「、、、どちらにしても、あの岩田が相当追い詰められてる、って感じですか?」
「ええ、それだけは、間違いないみたい。」
「、、、つまり命のやりとりになるって事だ。」
神無月は自分でそう言ってからドキリとした。
命のやり取りってヤクザ者じゃあるまいし、岩田は中学生なのだ。
しばらくして、何処から話を聞きつけてきたのか、柏崎が血相を変えて職員室に入ってきた。
一直線に神無月の方にやって来る。
神無月は柏崎の顔を見ると、何時もラッキョウを思い出す。
「あんた!教師のクセして生徒をプール裏に呼び出したりして何やってんだ?」
神無月が横を向く。
正面を向けば、ぶつかってしまうからだ。
『柏崎先生、あんたが生ぬるい仕事をしてるからやろ』、そう言ってしまえば、全てが吹き飛ぶ。
「柏崎先生、私もその事で、先生にお話があるんです。ここじゃなんですから、生徒指導相談室へ。いえ、校長先生が今日はいらっしゃらないから、校長室で話を聞いて貰えませんか?」
加賀美が神無月の代わりに答えた。
校長室、つまりそれだけ話の重要度が高いというのは、職員間の共通認識だった。
岩田らしき生徒の夜の逃走劇も含めて、加賀美の報告を受けた柏崎が随分長い間考え込んでいた。
普通なら自分のわからない点を相手にあれやこれやと聞くものだが、加賀美の話は簡素だったが、要点を得ていた。
それに柏崎もさすがに生徒指導主事だけの事はあって、柏崎は加賀美の教師としての力量を認めていて、彼女の言葉を全面的に信用していたからだ。
柏崎の人を見る目は節穴ではない。
だからこそ、神無月とそりが合わないとも言えるのだが。
「この件、直ぐにでも少年課と連携してくれますよね。」
神無月はいわなくても良いことを言った。
生徒指導主事が、警察の少年課と連絡を密にする。
表向きは当たり前の事だが、どこかの一面では「それくらいのことが学校で処理できないのか?」という微温な空気が両者の間にないわけでもない。
第一、生徒の方が、直ぐに「自分らが何もできんから、教師のくせにサツに生徒をちくりやがって」と難癖を付けてくる。
問題のある保護者も、時にそういう言い方を教師にする。
「あんたらは自分の生徒を警察に売るのか?責任放棄やろ!」まあ、そんな感じだ。
そういう局面に、日々立たされているのが生徒指導主事だった。
柏崎が神無月をじろりと睨んだ。
「私にくだらん事を言う前に、チンピラみたいな事を止めてくれますかな、カムイ先生。、、カムイが鉄馬を呼び出したなどという噂話が表に出たら、一瞬にして、それは広まるんですよ。それに尾ひれはひれが確実に付く。大抵は、カムイが鉄馬にボコボコにやられた、だが生徒にやられたのが恥ずかしくて、カムイは被害届をようださんって筋書きだ。実際にボコボコかどうかなんて関係ない。それは、あんたが鉄馬と立場が逆でも同じ事だ。鉄馬は我慢したのに、暴力教師が手を出したとなる。それでダメージを喰らうのは、あんただけじゃない。この中学校、そして他の先生達だ。」
「、、柏崎先生も、でしょうが。なんたって生徒指導主事ですからね。」
神無月は、やはり、言ってしまう。
「神無月先生!先生が私の事を考えてやって下さったのは判ってます。でも今日のやりかたは、先生の間違いです。」
加賀美がそう言って、助け舟を出してくれたので、柏崎は神無月の最後の言葉には反応しなかった。
「、、とにかくこの件は少年課に伝えます。加賀美先生、何かあったら私に連絡してください。いいですね。校長と教頭には私から、学年には先生から報告をするようにしましょう。職員全体には、もうちょっと筋がみえてからということで、いいですね?」
柏崎はわざと神無月の顔を見ずに言った。
「ええ。わかりました。」
そんな加賀美の返答に、柏崎はようやく神無月に向き直り黙って彼を見つめた。
もちろん、"お前は何もするな"という意味だった。
この時間帯、同学年の教師で空きが重なるのは、神無月と加賀美だけだ、それが判っていたから神無月は鉄馬を呼び出していた。
鉄馬からの聞き出しが上手く行けば、直ぐにその内容を加賀美に報告し、次の段取りを一緒に考えるつもりだったのだ。
キョウが見たという少年がもし岩田なら、とにかく早く動いた方が良いと思えたからだ。
ただ警察の少年課に連絡するにしても材料が少なすぎた。
もちろんそれは生徒指導主事の柏崎に対しても同じ事だ。
柏崎は、口では『どんな細かいことでも私に連絡してくれ』と職会などではいうが、神無月が『何々が気になるんですが』と声を掛けた時には、鼻でソレを笑うような所がある。
この学校で起こる生徒指導については、全て指導主事である自分が把握しているのだという顔をする。
しばらくして加賀美がプール裏から職員室に戻ってきた。
「どうでした?鉄馬、何か言いました?」
「それがよく判らないの。でも蒲田が言ったことと大体同じみたい。岩田はヤバイ相手と喧嘩をして報復を畏れて身を隠してるとか。、、問題はそのヤバイ相手よね。どうやらヤクザとか半グレとか、そんな人達じゃないみたい。」
「でも学生相手でもないんでしょうね。あいつら、相手がそう言うのだったら、ほって置くわけないから。相手が高校生でも、速攻で喧嘩を仕掛けてる筈だ。」
「いえ、そこの所が妙なの。どうも相手は、彼らと結構近い年齢みたい、あの子達の喋り方の雰囲気で、それだけは判るわ。」
「、、、どちらにしても、あの岩田が相当追い詰められてる、って感じですか?」
「ええ、それだけは、間違いないみたい。」
「、、、つまり命のやりとりになるって事だ。」
神無月は自分でそう言ってからドキリとした。
命のやり取りってヤクザ者じゃあるまいし、岩田は中学生なのだ。
しばらくして、何処から話を聞きつけてきたのか、柏崎が血相を変えて職員室に入ってきた。
一直線に神無月の方にやって来る。
神無月は柏崎の顔を見ると、何時もラッキョウを思い出す。
「あんた!教師のクセして生徒をプール裏に呼び出したりして何やってんだ?」
神無月が横を向く。
正面を向けば、ぶつかってしまうからだ。
『柏崎先生、あんたが生ぬるい仕事をしてるからやろ』、そう言ってしまえば、全てが吹き飛ぶ。
「柏崎先生、私もその事で、先生にお話があるんです。ここじゃなんですから、生徒指導相談室へ。いえ、校長先生が今日はいらっしゃらないから、校長室で話を聞いて貰えませんか?」
加賀美が神無月の代わりに答えた。
校長室、つまりそれだけ話の重要度が高いというのは、職員間の共通認識だった。
岩田らしき生徒の夜の逃走劇も含めて、加賀美の報告を受けた柏崎が随分長い間考え込んでいた。
普通なら自分のわからない点を相手にあれやこれやと聞くものだが、加賀美の話は簡素だったが、要点を得ていた。
それに柏崎もさすがに生徒指導主事だけの事はあって、柏崎は加賀美の教師としての力量を認めていて、彼女の言葉を全面的に信用していたからだ。
柏崎の人を見る目は節穴ではない。
だからこそ、神無月とそりが合わないとも言えるのだが。
「この件、直ぐにでも少年課と連携してくれますよね。」
神無月はいわなくても良いことを言った。
生徒指導主事が、警察の少年課と連絡を密にする。
表向きは当たり前の事だが、どこかの一面では「それくらいのことが学校で処理できないのか?」という微温な空気が両者の間にないわけでもない。
第一、生徒の方が、直ぐに「自分らが何もできんから、教師のくせにサツに生徒をちくりやがって」と難癖を付けてくる。
問題のある保護者も、時にそういう言い方を教師にする。
「あんたらは自分の生徒を警察に売るのか?責任放棄やろ!」まあ、そんな感じだ。
そういう局面に、日々立たされているのが生徒指導主事だった。
柏崎が神無月をじろりと睨んだ。
「私にくだらん事を言う前に、チンピラみたいな事を止めてくれますかな、カムイ先生。、、カムイが鉄馬を呼び出したなどという噂話が表に出たら、一瞬にして、それは広まるんですよ。それに尾ひれはひれが確実に付く。大抵は、カムイが鉄馬にボコボコにやられた、だが生徒にやられたのが恥ずかしくて、カムイは被害届をようださんって筋書きだ。実際にボコボコかどうかなんて関係ない。それは、あんたが鉄馬と立場が逆でも同じ事だ。鉄馬は我慢したのに、暴力教師が手を出したとなる。それでダメージを喰らうのは、あんただけじゃない。この中学校、そして他の先生達だ。」
「、、柏崎先生も、でしょうが。なんたって生徒指導主事ですからね。」
神無月は、やはり、言ってしまう。
「神無月先生!先生が私の事を考えてやって下さったのは判ってます。でも今日のやりかたは、先生の間違いです。」
加賀美がそう言って、助け舟を出してくれたので、柏崎は神無月の最後の言葉には反応しなかった。
「、、とにかくこの件は少年課に伝えます。加賀美先生、何かあったら私に連絡してください。いいですね。校長と教頭には私から、学年には先生から報告をするようにしましょう。職員全体には、もうちょっと筋がみえてからということで、いいですね?」
柏崎はわざと神無月の顔を見ずに言った。
「ええ。わかりました。」
そんな加賀美の返答に、柏崎はようやく神無月に向き直り黙って彼を見つめた。
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