大阪ディープサウスまほろば食堂始末記 /黎明にカムイ先生奮闘す、trapちゃんがアシスト

二市アキラ(フタツシ アキラ)

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第3章 蠢動

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「金がいるようになってきた。いやずっと前から金がいるのは判ってたけど、その日暮らしでもなんとかなるって思ってたんや。弟が来て儂にアレコレ言うようになって気がついた部分もあるけど、、、病気や。弟に無理矢理、病院連れて行かれて判った。それに弟の事も面倒みたらなあかん。親がせっかく俺たちのために、こさえたった己の身上をつぶしよって、、。何が起業じゃ、、なんであんな奴の事を、、とは思うけど、アイツは一応改心しとるみたいやしな。」

「家を売って弟さんの事、なんとかなるんですか?今のお家は持ち家なんでしょう?手放さずに、他にやりようがないのかな。」
 神無月は、お節介にも入らぬ心配をした。
     自分では"これは島出身の人間の独特な感覚だ。街では余計なお世話"であると分かっているつもりだが、ついつい出てしまう。

「あんた、儂の年金額しっとる?店の売り上げなんか知れとる。病気直すか、このままの生活続けてくたばるかや。くたばってもええけど、そないにキレいには、くたばられヘンみたいやな、、。それに弟もおる。、、、遠い親戚が田舎におってな、なんやったらウチに来いって話があるンや。田舎は空き家だらけで人がおらんらしいで、、。持参金付きの引っ越しや、そこで養生する。弟には何某かの金をやる。」

 金田は苦しそうに言った。
 そうしたい訳ではなさそうだった。
 金田の歳になって新しい生活を再び始めるのはしんどい事だろうというのは、神無月にも容易に想像が付いた。
 ある場所に『住み慣れる』という事は、単なる「状態」の事ではない、その場所には心も繋がっているのだ。
 神無月はすこしだけ故郷の島を思い出した。

「、、、。」
 神無月は考え込んでしまった。
 そんな話を聞くために、声を掛けたのではないが、買収の話題を持ち出せば、金田のような身の上話が出てくるのは当たり前の事だった。
 もしかしたら岩田の件も、単に岩田自身の訳の判らぬ暴発という話ではないのかも知れなかった。

「なんや、ややこしい話になっとるの。この人はな、学校の先生やってはるんや。ほんで受け持ってる生徒がなんやトラブルを抱え込んでるらしいんやけど、それとあの中国人らの買い占めがなんか関係あるんとちゃうかって思てはるわけや。それであんたに、話聞いてるちゅうわけや。」
 親父が助け船を出してくれた。
 神無月はほっとした、正直このような出口のない話になって行くとは思っていなかったからだ。

「うーん。そうかいな。そうやなー、中学生の事は知らんけど、買い占めの話で、どうもこじれたケースがあったみたいで、若い中国人のチンピラが、昔のヤクザまがいの嫌がらせをしたって話は聞いたことあるな。今日日、ヤクザでもその辺はうまくやりよるけど、外人ゆうのは直接的やからな。」
「若い中国人?」

「ここらにいてるんや。大体、普通の金持ちの中国人は、自分の子どもを良いガッコに行かすから、こんな場所には、そういう不良みたいな中国人不良が、おらんはずやねんけどな。それがおるんや、儂も時々みるで。」

 嫌がらせとか中国人不良グループとか、それに良く似た実態はあっても、それは必ずしも金田の言葉通りのものではないだろうと、神無月は思った。
 問題児達の会話の構造と良く似ている、そこには聞いた者の誇張が入って来る。
 そこにあるのは、面白可笑しく、刺激的で、勇ましい、あるいは勧善懲悪の判りやすさだった。

「ねえ金田さん。例えば一人の不良中学生が完全に姿を隠せる場所って、この街にあると思います?」
 神無月は話の方向を変えるつもりで言ってみた。
 この街には、吉書の親父より金田の方が古い。

「あるがな、目と鼻の先や。ドヤ街に汚い格好して潜りこんだらええんや。最近の中学生って身体がごっついからな、オッサンみたいな奴もおるやろ、中学生でも人によったら出来るやろ。お互い関心も持たんし。まっ、あそこは年寄りが多いのが難やけどな。それでも色々な人間があそこには流れ込むんや。ワケありばっかりやで。それと最近は結構、外人とかもおる。周辺は安う泊まれる宿が増えてるからな、なーんも知らんと。」
「、、、ドヤ街、あいりん地区か、、。」
 金田から思いも掛けないヒントが出た。

    ・・・・・・・・・

 恭司は女装して、王の酒席のお相伴、すなわちニューハーフのホステスのようなことをするのだろう、と思っていた。 
 ところがセクシーな女の装いに身を包んだ恭司を、王はファーコートを手にして待っていたのだ。 

「もう日が落ちると外は寒いから、これを着なさい」 と、背後からコートを着せかけてくれる。 
 外? どこへ? 
 たちまちにして疑念が浮かぶ。
 けれども、その先は容易に予想はついた。
 女装して街で遊んでいた時も、何度かその入り口までいった事がある。
 自惚れではなく、女装したときの自分には、そういう魅力があると恭司は自覚していた。
 
 恭司は王に軽く肩を抱かれ、エスコートされるような格好で『蠱惑』を出た。
 恭司の足のサイズに合わせた黒いハイヒールを婉がみつくろってくれて、それを履いているのだが、履き慣れていないので歩きにくい。

 恭司の持っている女装用のハイヒールは華美ではなく普通のものだ。
 婉の用意したものは踵が高くて、すぐに前につんのめりそうになる。
 そのたびに、恭司は王の腕にすがりついて、「すいません」と小さな声で言った。 

 女装は何度もしたが、本格的なものは屋内のことだったし、外ではボーイシュな女の子程度であって、ここまでドレスアップして外出するのは初めての体験だった。 

 恭司の緊張感はいやが上にも昂まる。 
 通りに出ると、ネオンの明かりで明るくなる。
 道行く人たちが、みんな自分のほうを見つめているのではないか、そんな強迫観念に襲われる。
 その感覚はいつもの女装遊びの時と、かなり違った。
 妙な言い方だが「逃げ場がない」という感覚だった。
 これは「冒険」では、ないのだ。
 だがそれはある意味、気持ちがよい事のような気もしていた。
 幸いにロングのウィグをつけているので、俯き加減に歩けば、恭司は誰とも目を合わさないですむ。 

 高いヒールの歩きにくさに難渋しさらに加えて、下半身が心もとない。
 ズボンをはいていないと、こんなに無防備感を覚えるものかと、あらためて実感させられる。 
 歩き方が見苦しくないだろうか? 
 男の歩き方だと、すぐに女装したオカマだと見破られてしまう。

 本当の事をいうと、恭司には自分は「女装も似合う男の子」というプライドがあって、俗にいうオカマではないという思いがあった。
 ヘンに見られたくない・・・恭司は知らず知らずのうちにそんな心配をして、できるだけ内股で女らしく歩こうとしていた。
 
 王の腕にすがって少し歩き、また路地に入った。 
 そこにはラブホがあった。 
 ……ああ、やっぱりそうだったんだ。 
 恭司は、一瞬、目の前が真っ暗になりそうになった。 
 そして、今なら、まだ引き返せる、と思った。 

 だが、今さら拒否してどうなるというのだ。 
 ここまで王にのこのことついてきたのは、すべて覚悟の上じゃなかったのか? 
 今日、初めて王と会ってからというもの、常に王が主導権を握っていた。

 恭司は王の言いなりに従ってきたが、それがごく自然だったような気がする。 
 そもそも、王と会うと桔梗ママに答えて言ったときから、実はこうなるのを予期していたのではなかったか……?
 それとも女装遊びを止める最後の記念に、『本格的なアレを』と思ったのだろうか。
 自分でもよく判らなかった。

「さあ、行こうか」 
 王に促され、恭司はハイヒールの足をふるえさせながら又、その道を一歩、踏み出した。 

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