大阪ディープサウスまほろば食堂始末記 /黎明にカムイ先生奮闘す、trapちゃんがアシスト

二市アキラ(フタツシ アキラ)

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第5章 侵犯

29: 亀谷

     神無月はまったく見覚えのない部屋で目覚めた。
 薄い敷き布団に寝かされている。
 最初は何が何だか判らなかったが、やがて記憶が戻ってきて、神無月は急いで飛び起きようとした。
 しかし上半身を起こした途端に、頭部や腹部に痛みが走り、直ぐに仰向けに倒れてしまった。
 その時に落ちた濡れたタオルを、右目の上に当て直してくれた手があった。

 その手の先を視線でたぐるとジンリーがいた。
 こうやって見ると、やはりジンリーは美人だった。
 店に出ている時は、わざと化粧を薄くしているのだろう。
 普通にメイクをやっていれば、高級な水商売でも十分通用する美貌を持っている。
 ただしすこぶる野性的な美貌だったが。

「良かったな、、気がついた。病院に行くか?俺はあそこが苦手だが、送ってやる程度ならやってやるよ。」
 声の主は亀谷だった。
 ジンリーと一緒に神無月を覗き込んでいる。

「あの後、どうなったんですか?」
「どうなるもくそも、アンタはボコボコにやられてた。でその時、おまわりが来た。キチの野郎が咄嗟に、あんたを椅子に座らせてカウンターにうつ伏せに寄りかからせた。つまり、酒によいつぶれたって感じだな。」
「…警官ね、良いタイミングだ。」
 神無月は嫌みで言ったが、亀谷はそう取らなかったようだ。

「出て行った客の誰かが、交番に垂れ込んでくれたんだろう。馴染みの店が潰されるのは誰だって嫌だからな。そういうやり方だってあるんだ、兄さんも憶えておいた方が良い。」
 警察の助けが来るまで、自分が大切にしたいものや事を無茶苦茶にされても黙って見ておけというのか!?と神無月は一瞬、イラついた。

「、、、それで奴らはどうなった?」
「別に何も、キチらは金を払って店を出て行ったさ。実際、店には何も異常がないんだからな。」
「ないって、俺がやられてた!」
「酔いつぶれてたんだよ。俺もジンリーもキチ達の手前、そう言うしかなかった。」
「馬鹿な、、。」

「何が馬鹿なんだ。兄さんは、二度とあの店に近寄らなけりゃそれで事は済む。でもジンリー達はそうはいかんだろ。あの店から動けない。そしてあそこはもう奴らに目を付けられてるんだぞ。奴らはプロだ、あの手この手でじんわり店に嫌がらせをかけてくる。」

 アンタは一体なんなんだ?と言いそうになった。
 喧嘩をしているこちら側にいて、日本語で日本の警官に、事細かく事情を説明出来るのは……いや"そうせず"に嘘を付いて誤魔化せたのは、亀谷の筈だろう。
 その誤魔化しを亀谷は、ジンリー達の事を思ってやったと言いたげだった。

 だが神無月の亀谷に対する憤りは、やがて収まっていった。
 神無月は、自分のこの暴走癖のせいで、過去何度か周囲の人間達に迷惑を及ぼして来た事を思い出したのだ。

「、、、あいつらは一体、何をしようとしてるんだ?」
「昔あったみかじめ料みたいな感じのものを、復活させたいんじゃないかな。この辺り一帯はもとからキチらの組の縄張りだったんだ。もちろん今は暴対法があるから、みかじめ料なんてものはとれない。あくまでみたいな物だ。みたいって所が重要だな、それは色々と姿形を変える。」

「そんなことは、無理!不可能。王が黙ってないわ!」
 今まで黙っていたジンリーが口を開いた。

「そうじゃなくてジンリーちゃん、奴らの最後の目的は、そうやってあんたらのボスの目を奴らに向けさせる事にあるんだよ。ここらの土地に影響力を持っている勢力が、もう一つあるのを忘れるなって事だよ。本当の狙いは、別にあると思うね。こんな目にあったジンリーちゃんには納得出来ないとおもうけど、もしかしたら数ヶ月後には、王と奴らは手を握っているかも知れない。」
 亀谷がそう説明した。

 こいつ、ホントに何者なんだ?という疑問が神無月の頭に又、浮かんだ。
 小説なんかに出てくる潜入捜査官とかいう奴か?、、なら、どうして一般市民がヤクザにボコられているのを黙って見てる?
 なぜ、一つの店がヤクザにゆさぶられているのを黙って見てる?
 いや、それだから潜入捜査なのか、、。

「お客さん、病院へ行く?カメちゃん、ああ言ったけど、喧嘩の原因は私。病院は私が送ってく。」
    ジンリーが熱を帯びた口調で言う。
 神無月は腕時計を見た。
 思ったより時間が経っていない。
 終電まで余裕があった。
 大事にしたくなかったし、岩田のことで明日はどうしても柏崎と打ち合わせをしなくてはならない。

「いやいい。一人で家に帰りますよ。ああそれと、俺がキチと喧嘩したのはジンリーさんが原因じゃないんで、気にしないで下さい。」
 そう言って神無月はゆっくり起き上がった。

    ・・・・・・・・・

 キョウが王に抱きすくめられようとしたその時、唐突に玄関口のインターホンがなった。
「、、、興ざめだな。しかし出ないわけには行かない。部下には自分で処理が出来ないことがあったら電話ではなく、直接報告に来いと言ってあるからな。それに私が今ここにいるのを知っているのは、限られた人間だけだ…。」

「私が取り次ぎましょうか?」
 そう思わずキョウは口走ってしまった。
 今更だが、この状況が怖くなってきたのと、逆にこの状況を潰したくないという相反する思いがそうさせたのだ。
 それに王の役に立ちたいという気持ちもあった。
 だが王のような男が、そんな提案を呑むはずがなかったのだが、、、。

「そうしてくれるか。内容を聞いてキョウの判断で追い返すかどうか決めてくれ。必要なしと思うなら帰らせてくれ。」
「それは、、」

「心配しなくていい。その判断はキョウにでも出来る。内容を聞けば、答えは酷いか酷くないかのそのどちらかだ。日本人のキョウがそんな事は大した事はないと感じるなら、私が取り上げるまでもない。私はここに至るまでの微妙な状況を全部引き受けて来ているんだよ。内容は全て把握し予想も出来る。部下は決断を仰ぎに来るだけだ。それと、もし部下が私達の国の言葉を使ったら叱ってやってくれ。私は外に出たら全部日本語でやれと言ってある。」

 王は自分を試しているのか?つまりずっと使える囲い者としてキョウが役に立つのかどうかを。
 それとも単に、今のこの行為を続けられる可能性にかけたかったのか、キョウにはよくわからなかったが、とりあえずキョウは身繕いをして玄関口に向かった。

 ドアを開けてやったら、そこに長身の金髪の青年が立っていた。
 キョウにはこの青年に既視感があったが、直ぐにはその正体を思い出せなかった。

「王さんは、いますか?」
「何のご用事?」
 キョウは努めて冷静に訊ねた。
 甘く見られて『王でなければ話せない』とかの押し問答にならないようにだ。
 こんな所でごたついていては、王への心証が悪くなると感じ始めていた。

 滑稽だが、奥の部屋にいる紅花へのライバル意識も働いていたかも知れない。
 今夜の紅花は、ああいう形で身動き出来ないが、普段なら今、キョウがやっているような来訪者への対応も彼女がやっているはずだった。

「俺は、フー・タイラン。フー・ジンリーの店、日本のヤクザに襲われました。そう王さんに伝えて。」
 長身の青年はまっすぐにキョウの目を見てそう言った。

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